懐かしきもの・懐かしき写真

「暁は昔の事を忘れていますけど、私たち帝島と櫻坂君の親は意外にも親しい仲だったらしくて、昔は良く遊んでたらしいですよ?」


 目の前にいる小柄な女の子。

 帝島雪真みかどじませつまは、本革のソファへと腰を降ろして俺の事を懐かしそうに横から見つめてくる。

 暁が俺の家に来た日から、ちょうど一週間。あの時、暁は俺へと一枚の写真を見せるなり、鞄を持って家から出て行った。

 ただ、暁の手に収まっていた写真には小さな女の子が二人と、昔の俺が幼稚園の門の前で並んでいる光景が写っていた。

 写真の中に移っている女の子二人の姿は瓜二つで、髪型を変えていなかったら分からない程だ。そして、一人は俺の手を握り、もう一人の女の子は俺の後ろに隠れるような形で写っていた。

 俺の手の内にある一枚の写真。それが取られたのは、十年近く前の事だ。


「今思えば、少しだけ覚えてます……あの時の櫻坂君……結構やんちゃだったなぁ」


 手に持っている写真を覗き込むように見る雪真は本当に小柄で、俺の肩位に顔があるくらいだ。

 おそらく、傍から見たら兄妹ぐらいに見られるのかもしれない。


「雪真さん……要するに俺達って幼馴染ってことになるのかな?」


 写真を覗き込んできている雪真に話しかける俺は、初めて訪れた場所の二階の方へと目を向けながら話す。


「そうですけど、雪真さんって他人みたいに話さないでくださいよ。私たちは、幼馴染なんですから。

それに、幼稚園で何回も一緒に遊んだ仲みたいですよ? 私達」


「なら、雪真さんも他人に話すみたいな話し方を変えないとダメだよ。俺たちは幼馴染なんだろ?」


「っ!! そうでしたね」


 俺達はそんなことを話しながら、昔話をし始める。

ただ、俺がいる場所は暁と雪真の家だ。初めて訪れる女子の家。

初めてだらけで、どんな風にしていればいいのかも分からず、俺はただただ座って話をすることしかできない。


「というか、暁はあれ以来、俺と話をしなくなったな……」


 あの一件以来、暁は学校に来ても俺に話しかけることもしなくなって、逆に俺が話し掛けようとすれば、俺から逃げるようにスタスタと、どこかへと行ってしまう。

 そんな一週間を過ごしている中で、俺は雪真の携帯のアドレスにメールをしてみることにしたのだ。

 メール内容は簡単に、


「櫻坂ですけど、暁が最近おかしいのは何でか分かるかな?」


 と、いったものだ。

 そんな簡素で味気も無いメールを送信してから二分としないうちにメールは返信され、


「どうも、帝島雪真です。アドレスを渡してから、もう三日も経ってるのにメールが来なくて心配してたんですよ? それで本題ですが、櫻坂君の言う通り、暁の様子が最近おかしくなってるんです。一応、何度か話をしようと声を掛けたんですけど、返事すらもらえてない状況で……それで、ですね。一回、私の家に来てもらえませんか? いろいろと話さないといけないこともありますし、暁の方に話しかけてもらうにも丁度いいですから」


 と、何とも懇切丁寧なメールの返信を貰った俺は情けないと思いながらも、短く返信をして、今日に至るわけだ。

 二階には、既に帰ってきている暁が自分の部屋で閉じ籠っているらしく、この数日間は毎日、そうしているらしい。


「それで話さないといけないことがあるって言ってたけど、それってなに?」


 俺が呼ばれた理由はこうやって楽しく話すことではない。

 一週間前に一瞬だけだが、真剣な表情をして俺に話しかけてきた雪真の伝えたいらしいこと。それを俺は今日、聞きに来たのだ。ただ、それだけだと悪いような気がする俺は楽しい会話も加えながら、こうして話を進めていたのだ。


「……そうでした、櫻坂君に話さないといけないことがあったんですよ。暁の事で……」


 さっきまで笑顔を浮かべていた表情は、俺の目の前から消え去り、難しそうな表情を浮かべながら俺の事を見上げている。

 可愛らしいパッチリとした目元に綺麗だと言い切れる黒く濁りの無い瞳。そして、未だに子供のような輪郭を残している表情は、何とも魅力的だ。

 今の雪真が中学校にいたら、恐らく告白なり何なりと大勢の男子からされそうだ。

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