未来へ繋がる道Ⅲ
そして、放課後。俺が一人で廊下を歩いていれば、
「櫻坂君……大丈夫?」
後ろから女子の声が聞こえた。
それは特徴的な部分は一切ないが、優しい空気が漂ってくる声だ。
「小鳥遊か……どうかしたの?」
眼鏡を掛けた由美姉ちゃんの妹、小鳥遊優が俺に話しかけて来ていたのだ。
彼女は鞄を片手に持っているところを見れば、彼女も家へと帰ることが分かった。
「櫻坂君……今日、一緒に帰らない?」
突然の誘いだ。
俺的にはそれは全然と言っていい程に構わないことだ。
俺も正直、彼女にはお礼を言っておきたいと思っていたところでもあることだし、丁度いい。
「わかった……一緒に帰ろう?」
「……ありがとう、ちゃんと話がしたかったから」
「俺もだよ、小鳥遊にはちゃんと話がしたかった」
それから俺たちは下駄箱で靴へと履きかえれば、一緒に昇降口を出て行き、そのまま正門を出て行く。
「今日はいろいろと世話になりっぱなしでごめん……」
帰りに歩いていれば、俺は小鳥遊へと謝った。ただ、小鳥遊はそんな俺を気にも留めることなく、
「いいよ……櫻坂君だって、いろんなこと抱えてるんでしょ? 私だって同じだもん」
そうして口にした小鳥遊は、心なしか寂しそうな表情をしているように見えた。
彼女の顔がなんでそんな風に見えたのかは、俺には今のところ分からない。ただ、彼女がそんな顔をしていることに俺は不思議に思えたのだ。
「小鳥遊も何か抱えてるのか?」
自分も何かを抱えている……その言葉が少なからずだが、自分と少しだけ似ているような気がした。だから、俺は自然と彼女が背負っているものが何なのかを聞いていた。
だけど、やっぱりと言うべきか。
「それは言えないよ……簡単に人に相談できれば、こんなの背負ってなんかいたくないくらいなんだから……」
「………………………そっか、ならもう聞かないよ」
俺はここできっぱり諦める。
だって、そうだろ?
他人には知られたくないことが一つや二つ必ずあるんだ。
まぁ、俺はその二つを知られちゃったわけなんだけど……。
ただ、人の秘密を知るにはそれなりの代償が伴うと思うんだ。何かを知ることは、その時持っている何かを失う……。
俺はそんな気がしてならない。
だから、今はここで踏みとどまっておくことにした。
だけど一言だけは、ハッキリと小鳥遊の耳へと届くように口にする。
『俺たちはもう友達なんだ……いずれ辛くなったらでいいから、今度は俺に頼ってくれよな。頼ってばっかりは嫌だからさ』
これはある意味での決意だ。
人の悩みを聞いて、頼りにされる。ただ、そこにはどれだけの信頼と不安があるのか……俺はそれを守って行かなくちゃいけない義務が生まれる。
一つ間違えれば、俺は大切な友達を一人失うかもしれない……。
友達を失う悲しい気持ち。
俺はこれを心の底に浮かべながら、彼女が悩みを打ち解ける時を待つ。
俺のことを心配してくれる彼女達の悩みは何時でも聞けるようにしておこう。
今日みたいに助けられることは、これからの人生で多くなるかもしれない。だったら、俺も彼女たちのように悩みを聞ける程の人間になろうじゃないか。
「櫻坂君ってお姉ちゃんが言ってた通り、少し変わってるね……それも悪い方向にじゃなくて、凄く良い方向に……」
「そうかなぁ……?」
「そうだよ……今度は私が頼らせて貰うからね……」
「小鳥遊、何か言ったか?」
「何も言ってないよ。何も……」
俺の耳には届かなかったが、彼女も彼女なりに自分の悩みを打ち解けるための準備を始めたようだ。
少しずつ変化していく俺の心。
それをしてくれたのは紛れもない彼女達だ。
これからもこんな出会いがある。どこかで必ず、またこんな優しい出会いがある。そして、いろんな出来事が起こる。
「少しずつだけど、学校が楽しくなってきたよ……父さん、母さん」
俺は空を仰ぎながら、両親へと今の心境を口にしたのだ。
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