未来へ繋がる道Ⅱ

 午前の授業が終わって、今は昼休みだ。


「こーうーちゃーん、とりゃっ!」


「由美姉ちゃんっ! やめてって」


 最近は暁とも昼を一緒に食べるようになったから、こうして一緒に屋上で弁当を食べるのは三日ぶりくらいだ。

 そんな久しぶりでもないのにも関わらず、由美姉ちゃんは俺へと後ろから抱き着いてくるなり力いっぱい抱きしめてくる。

 力を入れれば、俺の背中に当たっているものが形を歪ませて存在感を強くする。ただ、それが俺には刺激が強くて困る。


「止めないよ、絶対に……幸ちゃんってば、私に秘密を持ってたんだから、その分はこうやってお返ししないとっ!」


「だからって、それは流石に不味いでしょ……他の生徒だって見てるんだよ。前にも言ったけど、俺は……」


「視線が嫌い……なんでしょ……。中学校の時のせいで」


 その言葉に俺は俯くしかなかった。


 一番大切にしたかった人に弱みを見せてしまった……。これじゃあ、心配させる。


 正直なところ、彼女を心配させない為にもいろいろなことを隠していた節が俺にはあった。これまで三年以上も会っていなくても、俺の事を思ってくれていた彼女をこれ以上辛い思いをさせない為にも、俺は隠していたのかもしれない。

 だが、それが結果的には彼女を傷つけ、そして新しい友人をも傷つけてしまった。


「時々は私を頼ってもいいと思うんだけどなぁ……そんなに私って頼りないのかな?」


 また悲しそうな表情を浮かべている由美姉ちゃん。今朝と同じような、泣きそうな表情。

 俺はそんな彼女の顔が見たいんじゃない。俺は由美姉ちゃんが笑っているところが見たいんだ。

 だから、ここでも一つ少しだけでも嘘を吐こう。ただ、それは自分にとってもいい嘘なのかもしれない。


「由美姉ちゃんは凄く頼れる人だよ? ただ、俺は人がまだ信じられないっていうのか分からないけど……ただ、これからは頑張ってみようと思うんだ」


 そして、由美姉ちゃんには聞こえない様な声の大きさで、


 ――――――頼ってみるよ、いろんな人を。


 俺はそれだけを口にすれば、弁当へと箸を立てる。箸を立てるのだが……、


「やっぱり、由美の彼氏のお弁当って凄く美味しいよ? これだったら、この子を私の彼氏にしちゃいたくなるなぁ……」

「また、喰われたのか……はぁ」




 目の前に残った空の弁当箱を見つめながら溜息を吐けば、目の前でいつの間にか俺の弁当を食べていた萌笑もえが子供っぽい笑顔を浮かべれば、


「本当に美味しかったよっ! 今度、お金とか払うから私の分も作って来てくれない?」


 と、今度はもの欲しそうに俺の事を見つめてくる。


「……いいですけど、何でまた俺の事を見てくるんですか……」


「いや、ね? いっそのこと、君だったら私のお婿にしてもいいかなって思って……ダメかな?」


「……はい?」


 飛躍し過ぎる言葉に俺は茫然と目を丸くすることしか出来なかった。ただ、俺の後ろで抱き着いてきていた人を除いては……、


「……許すわけがないでしょ……幸ちゃんは私と結婚するの……」


「…………えっ?」


 そして、今の言葉にも俺は驚いた。

 好きでいてくれたのは知っているけど、その言葉を漏らした時の声音と視線が本気だったことに驚いた。


「あらあら……怖い物を起こしちゃったのかな……私は」


 そこから由美姉ちゃんが萌笑の首根っこを引っ張って、


「ちゃんと説教をしないといけないみたいね……この泥棒猫には……」

「いやぁぁぁぁぁ、彼氏くーん。助けてぇぇえ」


 そんな二人の恐ろしい声と悲痛な叫びが屋上へと響き渡った。

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