垣間見えるもの
昨日の一件から一夜が経って、今は入学式の次の日。
光陽学園は今日から早速、授業は始まる。進学校という事もあり、無駄な時間を省いて、こうも入学式の次の日に授業を始める学校は結構、珍しいのかもしれない。
そんなことを考えつつも、俺は昨日のことを思い出していた。
学校に遅刻した俺が、久しぶりに聞いた曲に引かれた結果、昔の幼馴染である由美姉ちゃんと再開することが出来た。そして、次に入学式で隣の席になった帝島暁が唐突に、
「私の友達になってくれない」という事で、入学初日に俺は女子の友達を作ったというわけであるのだが……この状況はなんだ……。
俺は自分の携帯を確認する。
今日の朝、学校に早く来た俺なのだが、そんな俺よりも先に学校に来ていた帝島が、
「あんたの携帯のアドレス寄越しなさいよ……」
と、そっぽを向きながらアドレスを要求してきたのだ。
そんな要求に断る理由も無い俺は軽く了承して、帝島へとアドレスを渡した。のだが……今頃になって渡すんじゃなかったと後悔していた。
携帯の画面にはメールの文面が書かれていて、
「あんたは空手とか他の武道とかできるの?」
要するに、帝島暁は男子と空手などがしたくて仕方がないらしい……何とも恐ろしい状況だ。帝島は自分で好きな物は空手って言っていたんだ。それに昨日のパンチもキレが良くて、もし当たっていたら、俺がどうなっていたのやら……それすらも考えが及ばない。
「暴力反対……」
授業中に小さく呟く俺。そして、メールの返信にも「暴力反対」と記して送信した。
俺は武術なんか習ったこともないし、習いたくもない。
確かに身を守る為に習うことは良い事だと思う。でも、帝島を見ている限り、あいつはただ単に自分の拳を他人にぶつけたいだけなんじゃないかと思うんだ。
単なるストレス発散。
俺にはそうとしか思えない。
そして、さっき送ったメールの返信が返ってきた。
「あんた、私に喧嘩売ってるの?」
血の気が多い奴だな。
まだ学校が始まってから二日目だと言うのに、なんでこんな奴と友達になったのか……。今頃になって後悔している俺だが、時間は戻せるわけでもない。なら、仕方がない……俺はこれからもこいつと話をするくらいの友人でいよう。
帝島も言っていたからな。
『男子の友達がいなかった』
なら、俺がその友達でいてやろう。他人からの奇異の視線を向けられるのは嫌だが、単なる友達なら、そんな視線も向けられることはない。
「まったく……本当に変なのに捕まったな、俺」
自分の手を枕にしながら俺は残り二十分と残った授業を寝て過ごす。
俺は静かに生きて居たいんだ……変な事なんか起こんなくていい。ただ、これ以上俺の日常を壊さないで欲しい……。
少しずつ重くなってくる瞼を眠気に任せていけば、いつの間にか俺は眠りに就いた。
授業を妨害するわけでもなく、ただ静かに日常を過ごしながら。
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