姉妹
「お姉ちゃんっ!!」
学校の昇降口を潜れば、昇降口の先にあるベンチに座っているお姉ちゃんのところへと駆け足で近寄る私は、右手に持っている鞄を胸に抱えるようにしてお姉ちゃんのところへと着いた。
「お帰り、優……初めて会った幸ちゃんはどうだった?」
ベンチから立ち上がるお姉ちゃんは女神のような微笑みで私の事を見つめてくる。いつ見ても、本当に綺麗なお姉ちゃんだと私は思う。
私は眼鏡をしていて、顔立ちもお姉ちゃんよりも悪いから、本当にお姉ちゃんが羨ましい。身体のプロポーションだって、お姉ちゃんは雑誌の表紙を飾ってもおかしくない。そんな私の体つきは普通で、普通すぎるくらいに普通で、お姉ちゃんが心の底から羨ましい。それはどこかで、違う感情に変わっちゃうんだじゃないかって思うくらいに……。
「暗い顔しちゃってどうしたの、優?」
目の前にいる人生で勝ち組のお姉ちゃんが、顔を近づけて心配そうに見つめてきた。
本当はお姉ちゃんが優しいってことは分かってる……。でも、お姉ちゃんのその優しさが時々、私のことを辛くさせるのを分かってくれない。
気持ちが後ろ向きになりやすい私は、そんな優しくてなんでも持っているお姉ちゃんを心配させないためにも。
「なんでもないから安心して、お姉ちゃん。それとね、お姉ちゃんが言ってた、幸ちゃんって男の子、不思議な感じだね。眠たそうにしてるのに、何て言えばいいんだろう……優しく包み込んでくれる……でいいのかな? そんな凄く優しい雰囲気がしたよ?」
「そうでしょ? 幸ちゃんって昔から凄く優しいんだよ? 私が怪我した時なんて、慌てて保健室まで背負ってくれたんだもん。他にも、幸ちゃんはね」
「お姉ちゃん、その話は家に帰ってからちゃんと聞いてあげるから、早く家に帰ろう?」
「っもう、優のケチ。私の話くらい、ここで聞いてくれたっていいじゃん」
「ダメだよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは唯ただでさえ目立つんだから、そんな話を他の生徒に聞かれたら大変なことになっちゃうから、ね?」
「……大変な事って、なに?」
「…………はぁ」
お姉ちゃんは自分の存在を理解していない。
お姉ちゃんがいるだけで、他の生徒達の視線が集まってるって言うのに、それを知ってか知らずのうちに、そうやって一人の男の子の話をし始めるんだから……。もし、この生徒の中にお姉ちゃんのことが好きな人がいたら、その話に出てくる人が大変なことになっちゃう……。
「とにかく、もう家に帰ろう? 今日の晩御飯は、お母さんと一緒に作る予定でしょ? 嫁修行とか言って張り切ってたんだから、忘れちゃダメだよ?」
「そっか、忘れてたぁ。今日から幸ちゃんが学校に来るから、お弁当作ってあげようって言って、料理の練習するんだったね。よしっ、優! 家に先に帰った方が勝ちってことでいいよね?」
「お姉ちゃん……疲れるから、そういうの止めようよ」
「それじゃぁ、よーいドンっ!」
「私の話を無視しないで、お姉ちゃん……」
家まで競争と言って走り出したお姉ちゃんを、私は桜吹雪が吹く中でゆっくりとした歩調で着いて行く。
「ほんとにもう……世話が掛かるお姉ちゃんだね」
私はそう呟きつつも、視線の先で私に手を振っているお姉ちゃんのところまで駆け足で走って行った。
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