襲撃!?

「ふわぁぁああ、へっくしゅっ」


 ガタガタッ、という音が耳に入ってくれば眠っていた体を起こすと同時にくしゃみを出してしまうという、何とも見ていて恥ずかしい場面を作っていた。

あの忌々しいロリ教師に二度目の自己紹介をやらされてから早くも三十分。今は丁度、新しいクラスの面々が各自、帰る支度をし始めていた。

 視線を受けることを極端に嫌う俺は入学初日から遅刻してきて、それから罰としての自己紹介、入学式を終えた後の二度目の自己紹介をさせられ、肉体的にも精神的にも疲労が溜まってしまい、枢木先生には悪いが初日から居眠りをさせてもらった。


 ごめんなさい……。


 一応は心の中で謝っておくことにして、俺も他の生徒達と同じように帰り支度をする。椅子から腰を上げると、未だに寝ぼけているのだろうか。目の前が霞んでいるように見えて、自分のロッカーがある教室の後ろへと行くのも少しだけ億劫になってしまった。だが、ロッカーの中に仕舞われている教科書類を一度、家へと持ち帰り、自宅で自習をする。

 一応、この光陽学園は進学校という事もあって、進学先は多種多様のものがあり、今のうちに努力しておけばどんな所にも行ける可能性が見出みいだせるのだ。

なら、俺は自分の為にも何もない家の中で勉強をした方が将来の為に繋がる。俺はそう考えれば、身体を動かすことも億劫だったものがゆっくりと動いて行く。

 歩調はそれほど速いわけでもなく、ちょっとのした秒数で後ろへと着いては、ロッカーの中から明日から始まる授業の教科書を取り出す。

 俺がロッカーから教科書を取り出した後、再び自分の席へと戻ろうと後ろを振り返った時、俺は誰かとぶつかってしまったのだ。

 俺とぶつかった人物の姿が俺よりも身長が低くて、髪の毛が短くて女子特有の胸のふくらみを確認したことで、俺がぶつかってしまった相手が女子だという事に気がついた。


「急に振り返ったりしてごめん」


 俺は当たり障りのないような口調でぶつかってしまった彼女へと謝罪を口にして、自分の席へと戻ろうとした。だが、それはほんの一瞬で阻止されてしまい、俺は腕の裾を思いっきり引っ張られ、


「私に当たって置いて、それだけで済むと思ってるの?」


 と、殺気が立ち込めている言葉が俺へと向けられれば、俺はそんな言葉を発している女子の顔を見る。そして、こんな口調で話しかけてきた本人を確認できれば、なんとなくこんな口調なのが理解できた。


 この人か……。


 俺は心の中で嘆息しつつも、目の前で殺気を醸し出している彼女を見ながら、


「それじゃぁ、それ以外にどんな風に謝ればいい?」


「あんた、私に殴られたいわけ……? 一応、さっきも自己紹介で言ったけど、私は空手をやってるの。だから、私はあんたの事なんかやろうと思えば十秒だって掛からずに地面に頭を付けさせてやることもできるの。だから、今のうちに誠心誠意を込めて謝ってくれれば殴らないであげるよ」


「具体的にはどういうこと?」


「言わないと分からない? これくらいも分からないなら、この学園にいる必要なんてないんじゃない? でも、私はそこまで酷い人間じゃないから、あんたに具体的に何をすればいいかだけ教えてあげる。簡単なことだから一回で判りなさいよ……私に土下座しなさい。そうすれば、許してあげる」


 俺の目の前にいる女子は、あの教壇の前で話をしていた女子の姉だ。そんな彼女は、何とも常軌を逸脱したようなことを口走れば、俺に土下座を要求してきた。


 どんな奴だよ……こいつ。本当にこの学校は個性豊かな人が多いみたいだ。


 嘆息から諦めの溜息を心の中で吐き捨て、俺はそんな彼女が要求してきた内容を無視して、自分の席へと戻ろうとする。

 こんな奴とは関わっていられないな……それなら、これから一緒の学校に通うんだ、由美姉ちゃんと関わっているほうが百倍はいい。

 だから、一応は謝罪をしたことでもう一度自分の席の方へと体を向けて、教科書を持ちながら自分の席へと着くために戻って行く。


「ちょっと待ちなさいよ。私が要求したことを無視するつもりじゃないでしょうね?」


「いや……俺はそんな要求をしてくる女子とは関わりたくないし、早く家に帰りたい。今日はいろいろとあったせいで心も体も疲れて、眠たいから家に帰って早く眠りたい。だから、俺の邪魔をしないでくれるか?」


 俺はそう言い残して、今度こそ自分の席へと戻る。

 そうしたら、俺へと土下座を要求していた彼女は俺のことを呼び止めずに、これまた彼女自身も自分の席へと戻って行った。


 ったく……個性豊かすぎるだろ、この学校は。


 愚痴を溢しながらも自分の席へと着いて、帰りのショートホームルームが始まり、すぐに放課後になる。

 俺はまだ友達と呼べる友達を作れていない為、一人でゆっくりと自分の家へと戻る。

 そして、下駄箱。

 俺は自分の下駄箱から上履きからロウファ―へと履き替えて、自宅までの帰路を辿っていく。最初の方は新入生達が大勢、バスに乗ったり自転車に乗ったりとして帰っているが、俺の家は比較的に近くにあることで、徒歩で家まで帰ろうとする。


 帰ろうとするのだが……。


「あんた、櫻坂って言うのよね……?」


 不意に俺の後ろから聞こえてきた声。俺はその声を発した女子を注視すれば、はぁぁ、と溜息が出てくる。


「どうかした? 早く家に帰って勉強したいんだけど」


「もう勉強するなんて、珍しいね……そんな事より、私は言いたいことが有ってきたのよ」」


「なら、早く言いたいことを言い終わってくれる? 疲れてて眠たい……」


 俺の正直な気持ちを口にして、この女子が言いたいことを待つ。

 どうせ、俺に対する文句だろう? なら、早く言ってほしいな。もう、眠くて仕方がない……。


「私……あんたみたいな男子に会うの、初めてなの。私と対等に話をしてくれる男子。そんな男子の友達になれる気がするから、私と友達になってくれない?」


 唐突の言葉に予想もしていなかった俺は、度肝を抜かれたのであった。

 目の前にいる眼つきが鋭い帝島みかどじまは唐突に俺にそんなことを口走りながら、俺の歩いている横を陣取り、まるで一緒に帰るようなシチュエーションになっていた。

 俺は一切、こんな肌に突き刺さるような雰囲気を醸し出している女子とは関わりたくない。だって今、帝島は言ったんだぞ?

 私と対等に話してくれる男子なんて初めて会った。


 どういうことだよ!? まず、普通の男子はこいつに話し掛けないと自分から公言してるんだぞ! そんな奴に、『友達になってくれない?』なんて言われたくないわっ! だって、他の男子が話しかけないんだぞ? それには何かしらの原因があったりしてるわけなんだぞ? そんな奴に話しかけられた時点で俺は、駄目なのかもしれない……。


「ねぇ、私と友達になるの嫌なの?」


 鋭い目つきをより一層、鋭くした帝島は俺へと言い寄ってくると大変な事態が俺を襲ってきた。

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