小鳥遊?
体育館へと着くなり俺たち新入生は、この光陽学園の校歌が流れる体育館をゆっくりと歩いて行き、自分の席へと座ったのだ。
新入生である俺たち全員が自分の席へと着席すれば、学園長が長々しい挨拶を教壇の前で話し、次にあったのが新入生の挨拶だった。入試トップの生徒が保護者や教員たちに目標を掲げたりすることなのだが、教壇の前へと立っている生徒を見た時、今日何度目かの驚きが心を揺さぶった。
「春一番が強く吹いている中……私たちは、この光陽学園へと入学することができました」
教壇の前で話をしているのは女子だ……。だけど、その女子は驚くことにもう一人いた。
前に立っているのは、ポニーテールに髪を結わいでいる女子だ。まだ幼い顔立ちに、声音もまだ少しだけ高い。特徴と言えば、幼い顔立ちとよく似合っている体つきとでも言えるだろう。無邪気な笑顔が似合いそうな顔。そして、教壇の前ではそんな似合っている笑顔で文章を読んでいる。
肝が据わってるなぁ……。
俺が教壇の前で立っている彼女を見た時に感じたのはそんなものだ。そして、次に何で驚いたのかと言うと……。
「何であんなに楽しそうにできるのか分からないわ……姉妹として考えられない」
俺の隣では、そんな教壇の前で話をしている彼女と瓜二つの女子がいるのだ。見た感じは、こっちの方が見た目も大人っぽくなっていて、出るところも出ている。だけど、そんな彼女の空気が教壇で話している彼女とは、まったくの別物なのだ。
まるで人の事を寄せ付けないような空気に、少しだけ睨みが強そうな瞳。髪を結わくこともなく、短い黒髪がストレートに肩まで伸びている。
そんな彼女は、教壇で話をしている彼女を『姉妹』と呼んだところから双子だっていう事も分かる。
俺はそんな彼女たちをチラ見で交互に確認しながら、入学式が終わるのを一時間近く待った。
入学式が終われば俺たち一年生は自分たちの教室へと戻り、自己紹介をする時間となった。まだ何も話をしていないと言うのにも関わらず、この学園は無理やりにでも友人関係を作らせたいらしい。
シンとした空気の中では、一番初めの生徒が恐る恐るといった感じに自己紹介を始めていた。そして、既に七人近くの自己紹介が終わり、あと数人と終われば俺の番だ。一応、罰として自己紹介をやらされた俺だが、
「ちゃんと自分の自己紹介くらいやりなさいっ!」
と、何故だか、俺に突っかかってくる枢木先生によって、二度目の自己紹介をやらされる羽目になった……。
また視線がこっちに向くのか……嫌だなぁ。
視線を向けられるのが極度に嫌な俺としては、さっきの自己紹介だって無心になって口から出したものなんだ。これ以上、何を言えって言うのか分からないんだが……。
そんなことを頭の中で考えていると、今まで自己紹介をしていた男子が終わり、次の女子へと自己紹介が託された。
俺も聞かないのは悪いと思い、ここから先はちゃんと聞こうと体を女子の方へと向けて耳を傾けると、
「私の名前は……小鳥遊優たかなしゆう……です。趣味は、ペットと一緒に散歩することです……。あと、この学校にお姉ちゃんがいるので、この学校を選びました」
小鳥遊優と名乗った彼女は自己紹介が終わったのだろう、大きな溜め息をつきながら着席した。
だけど、俺はそんな彼女の名前がどうしても気になった。
(小鳥遊……小鳥遊って由美姉ちゃんと同じ苗字だな。それに、お姉ちゃんがいるって言ってたな……もしかして、由美姉ちゃんの妹なのか?)
俺は小鳥遊と名乗った彼女を少しの間、まじまじと見た。
そして、そんな俺の視線を感じた彼女は一度、目を合わせた直後に机へと突っ伏してしまったが、 俺は二度目の自己紹介が始まるまでの間、ずっと彼女に視線を向けていたのであった。
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