入学式と自己紹介
枢木先生という身長の小さな女教師が異様な空気を醸しながらも、俺はこの枢木先生が担任となったクラスへと足を踏み入れた。
最初に遅刻した罰としてクラス全員に自己紹介をするという、何とも視線を浴びる行為をさせられた俺は、嫌々ながらも自分の自己紹介を無事に済ませることができ、安堵の溜息を洩らしながら自分の席へと着席したのである。
自分の席へと着席した後でも、何故だか数人の女子が俺の方へと視線を向けてきていることに不安を抱くがそんなものもすぐに無くなるだろうと思って、入学式が始まるまでの十分間を眠ることで何とか凌ぐことができた。
静かな教室に木霊するかのような枢木先生の声が響き渡り、俺達1年D組は入学式が行われる体育館へと足を運ぶのであった。
俺達が体育館へと行くために廊下に出るなり、一年の教室の前には大勢の新入生が立ち込めていて、先頭と思わしきクラスがたじろいでいるのが後ろからでもわかった。
どうしたんだろう……もう、入学式まで時間がないのに。
たじろいでいる生徒達が何に足を止められているのかは、遠くにいる俺には分からないが、先頭のクラスの男子の声が壁に当たって後ろの方まで感嘆の声が聞こえてくる。
俺は何で男子たちが驚嘆しているのかを確認する為に列から少しの間、外れて前の方へと歩を進める。
少しずつ前へと近づいていく俺の前方……そこからは教師の声が聞こえてきて、
「お前……なんで学校にいるんだ? 今日の学校はお前たちの休みの筈だぞ……」
と、呆れた感じの声を出していた。
在校生……? 由美姉ちゃんのことか?
さっきまで音楽室で一緒にいたのは、この学園の在校生の小鳥遊由美たかなしゆみ。小学校が同じでいつの間にか、一緒に遊ぶようになっていた上級生だった。そんな彼女もこの光陽学園の在校生で、彼女以外に休みの筈の学園に来るような人はいるのだろうか。
俺は好奇心を抑えることが出来ずに、周りの男子たちを押し退けて前へと進んでいく。一番最前列……1年A組の中へと紛れ込み、教師たちの前にいる在校生へと視線を向けた。
「新入生のお祝いに来て上げただけなのに駄目なの? そのくらい許してくれても良いと思うんだけどな……」
顔を下に俯かせた在校生は残念といった雰囲気を出しながら、教師に言われるがままに職員室へと連行されていく。
男子が感嘆していた理由がよくわかった。
「……凄い美人だ」
俺の隣にいる男子が無意識のうちに漏らしたであろう言葉には嘘偽りがないものだった。
俺もそんな言葉に共感するように、視線は教師に連行されていく美人の上級生へと釘付けだ。連行されていく先輩の後ろ姿が妙に心を擽くすぐる。
窓から差し込んでくる太陽の光によって微妙に光るブラウン系の長い髪に凛とした表情が妙にマッチしている。また、彼女のネクタイは由美と同じように緑色で、この学園の二年という事も教えてくれている。そして、そんなネクタイは一般女子よりも少しだけ盛り上がりのある胸によって、より自分の学年を強調させていた。
他の新入生達はそんな先輩の胸に視線が釘付けになっているようだが、俺は彼女の胸に視線を向ける以前にどうしても気になることがあった。
それは……。
「なんで女子なのにズボンを履いてるの……?」
そう、あの胸が大きい先輩は一人だけズボンを履いているのだ。それも、この学園の男子用のズボンだ。そして、何故だかその制服が妙にうまく着こなされていて、そこにも俺は驚いた。
「なんか……個性豊かな先輩が多い学園なのかな?」
俺は自分なりの感想を口にすれば、自分のクラスの場所へと戻り体育館へとゆっくりと歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます