第15話
瑠璃子さんの元、様々な改造、改良、そして新規作成された忍者ガジェット。マグネット足袋改の磁力で壁を垂直に走り、忍び装束と一体化したパワード鎖帷子のパワーアシストの効果で姿勢を整える。
床も壁も天井もまるで違いなどないかのような感覚で動き回れる。身体が羽のように軽く、思い描いた通りの場所まで跳んで行ける。
飛んで来たクナイを左右に避け、天井まで飛び上がり忍者ガジェットをセット。自動で光学迷彩機能が発動して周囲の色と一体化した忍者ガジェットが姿を消すが、即座にクナイが飛んできて忍者ガジェットが爆発。大蛇の投げたクナイだ。
「丸見えだぞ甲賀山、ガジェットを無駄遣いしたな」
次のクナイが飛んで来るのを見て、忍び装束の指向性磁力装置を切って飛び降りる。コンテナの上に音も無くフワリと降り立った紅を見て、大蛇がほうと感心したように頷いた。
「新型忍者ガジェットの性能は確かに高いが、まるで使いこなせていないな。忍者ガジェットを使われている事を相手に悟らせないのが一流の忍者。そう教えてやったと言うのに、忘れてしまうとは馬鹿な娘だ。余程その新型がお気に召したらしい」
次の瞬間大蛇の姿がコンテナの影に消えて、紅も物陰に隠れつつ忍び装束の隠蓑迷彩を起動。マフラーで頭を覆って全身くまなく透明になる。そして両眼に入れたコンタクトレンズ型ディスプレイの忍者ガジェット、アイ・レーダーで周囲を探れば隠蓑マントで全身を隠しながら大蛇がこちらを探っているのが見えた。
『今、大丈夫?』
声が聞こえてきた。螺厭、本当にこの状況分かってるのかなと頭が痛い思いをした紅。しかし聞こえてきた声は少し沈んでいて、何となくだけどほっとけない気がしてしまう。だけどもコイツのこう言う態度に騙されて来たのも事実なんだよなぁと微かに悩んでいると、アイ・レーダーに新しい反応と座標が表示された。
『君の状況は理解してるから返事は必要無い。どうやら船に運び込まれた忍者ガジェットの一部は別室で保管されていたらしい。港に戻すのも危険だろうから、どうも小型艇で海上から持って逃げるらしい』
紅の邪魔にならない程度に小さく表示された映像には確かに三隻の小型艇と、そこに乗った忍者ガジェットや忍鋼らしき小型コンテナ。不味い、このままじゃ持って行かれてしまう。早くコイツを倒して私が追いかけないと。でも曲がりなりにも大人の忍者をそんな簡単に倒せるんだろうか。
その時キーンと言う高い音が微かに聞こえて、紅は咄嗟に走り出す。この音、向こうの忍者ガジェット、ハイパワーソナー。その効果は超高音波を発生させて周囲の状況を探るもの。普通の人には聞こえないが、訓練を受けた忍者には僅かにだが聞き取れる。
走り出した紅のすぐ足元にクナイが突き刺さる。そして超電子クナイがギラリと光って半径1メートル圏内に強烈な電撃が放たれ、紅の右足が巻き込まれてしまう。
「…っ」
熱くて、痛い。掠めただけなのに紅の右足はマグネット足袋の下で真っ赤に腫れ上がり、まるで感覚神経を根こそぎ引っ張り出されたみたいに激痛が走っていた。
「痛いか?悲鳴を上げなかった事は褒めてあげよう。ただ新型忍者ガジェットのステルス技術に頼りすぎだ。この隠蓑マントの対処方法は私が教えてやったぞ?」
右足を庇いながら物陰に隠れて、クナイに忍者ガジェットをくくり付けて天井に向けて投げ付ける。即座に大蛇のクナイがそれを打ち落とし、紅のクナイは壁に突き刺さった。
『君の状況は分かってるって。そう焦らなくても大丈夫。俺が何とかするよ』
「はあっ!?」
しまった、と思うより先に手裏剣が飛んで来た。右足の痺れはまだ取れてないけれど、紅は最初に天井に刺したクナイの取手と手甲の超電子ワイヤーを接続し上昇。忍びブレードで襲い掛かる手裏剣を斬り捨てつつ天井に降り立つと、アイ・レーダーに螺厭の顔と、万が一螺厭が見つかった時のために残して置いた忍者ガジェット、一人乗り専用ヘリのセルフコプターが起動状態灯台の窓の外でホバリングしているのが映った。飛行用のローターと椅子と操縦桿しか無い正に緊急離脱用の非常手段だ。
「馬鹿!セルフコプターには、光学迷彩どころか防弾装甲すら無いのよ!!」
「ほお、やはり協力者か。だがその事実を相手に悟られたのはマイナス得点だ。ついでに居所もバレているのに動かないとは…」
「私がすぐに追い掛ける!だからアンタはそこで後方支援してなさいよ!それがチームワークってもんでしょ!」
『ま、それもそうだけど、港に仕掛けた爆弾で忍者ガジェットも吹っ飛ばしたし、こっちでやれる事はもう無いしな。幸い、武器ならある。忍者ガジェットも、忍鋼も海の藻屑に変えてくるよ』
大蛇が何か言ってるのも聞こえなかった。淡々とまるでちょっと出かけてくるよと言うみたいな気軽さで命懸けのミッションに挑もうと言うのだ。しかも何故かは分からなかったけれど、画面の向こうの螺厭からは命を捨てる覚悟の様なものを感じて、紅は思わず言葉に詰まる。
灯台では螺厭がセルフコプターの座席に乗り込むと、シートベルトを締めつつ手持ちの武器を確認する。武器と言っても爆破ジェルクリームを塗った缶やペットボトルが幾つかあるだけで、僅かに残った爆破ジェルクリームの予備と起爆スイッチさえあれば後はどうとでも大丈夫だろう。
『これが最後になると思う。まぁ、その。ここ2日くらいの付き合いになった。色々と言いたいことはあるし、君も言いたい事あると思うけど』
「あるなんてもんじゃ無い!だから素人が下手な事しないの!早くそのセルフコプターから降りてそこで待機してったら!」
「おい!教官のことを無視するな!」
『とりあえず、さ。騙したり、意地悪言って悪かった。それだけは絶対言って置きたかったんだ。それと、最後まで勝手な事ばっかして済まなかった』
「そう言うのは面と向かって言ってよ!それにそんなの一回謝ったって許す訳が無いでしょ!」
『ま、そうだよな。ごめんな。紅』
それだけ言い残し、螺厭は通信機を灯台のデスクに向けて投げ捨てセルフコプターの操縦桿を握り締めた。事前の説明通りに操縦桿を動かせば、思った通りに身体が空を飛ぶ。足元には未だにあちこちから爆煙を上げる港と、出航準備が整っていないせいか湾内を静止しているタンカー船がはっきりと見える。
今あの中で紅は今までで一番手強い敵と戦っているのだろう。そう思いながら、ふと螺厭は紅との出会いを思い出す。雨の中半ば行き倒れていた紅を探し当て、あたかも偶然の出会いを装いながら、螺厭は彼女を見て心が揺れた。
忍者なんて親父の計画をオジャンにする為の駒に過ぎない。効率よく動かすにはある程度最初の段階では好印象を与えておけば良い。逃げているのは同い年のくノ一だと知った時にはそう考えていた。どうせなら可愛いくノ一だったら、少しくらい神様を信じてみても良い、なんて思っていた。
しかし雨に濡れて倒れていた彼女を見て、螺厭は久しぶりに自分の思考が定まらない感覚に囚われた。母の死んだ日以来の事。しかしその時は悲しみと喪失感だったのに、紅を見た時は全く違っていた。螺厭にとっては自信は無いけど、一目惚れだったのかもしれない。
「親父への嫌がらせくらいに思ってたけど、紅の為だと思えば、命の賭けどころとしては悪く無いよな」
--------------------------------------
面白かったら応援、レビューお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます