第16話

 少し荒立った海を睨みながら夜空を飛び立つセルフコプターの操縦桿を握り締め、ついに三隻の小型艇を視界に収めた。セルフコプターのローターの音が聞こえたらしくサーチライトがこちらに向けられる。味方なのかと向こうが僅かに混乱しているのが見えて、螺厭はニヤリと笑うとセルフコプターを加速させ、追い越しざまに三隻の内の一番前の船に空き缶を投げ入れた。


 一瞬小型艇の乗組員は何をされたのか分からず凍りつく。カン、コロコロと言う軽い音は、てっきり手榴弾か何かだと思ったのにどう見てもただの缶コーヒーの空き缶だった。


 こんな大掛かりな事をしておいて、空き缶を投げ捨てて終わり?彼らのその疑問に、次の瞬間に大爆発を起こした小型艇が答えた。


「まず一つ!」


 急旋回をして慌てふためく残り二隻を追い掛ける螺厭。爆発炎上して沈んでいく小型艇を飛び越え、今度はペットボトルを片手に二隻目を狙うが空のペットボトルは空き缶の様に上手いこと投げられるだろうかと螺厭は一瞬不安になった。


 だが敵もまた、接近するセルフコプターが敵だと判別出来れば容赦はしない。銃声が聞こえてきて、何かが足元を掠めた感があって螺厭は慌てて操縦桿を動かして旋回する。


「簡単には行かねえかぁ。んじゃ、もう一丁!」


 爆発音が海に響き渡り、既に螺厭や螺厭が追う小型艇は沖の方まで出てしまっていたとはいえ港にまでその音は届いていた。


「もう、始まってる…あの馬鹿」

「外部の協力者を作るとは、掟に反する行為だな。そんなでよくこの私を非難する!」


 爆発音を聞く度に不安げな、そして苛立たしげに呻く紅。大蛇はそんな紅を挑発するが紅は意に解する様子すら見せずにコンテナの上に降り立った。


 右足は未だに痺れが取れず、激痛と一緒に軽い痙攣が止まらない。僅かに体重を込めただけでまるで針で何度も何度も突き刺されているみたいな痛みで顔をしかめたくなるけど、そこはポーカーフェイス。目の前の大蛇に弱みなど見せるものか。


 顔を覆っていたマフラーを首まで下げ、クナイと超高周波忍者ブレードを両手に構える。これで僅かにでも視界を遮る物は無い。目と耳と肌、すべての感覚を持って敵の動きを感知して見せる。


「なるほど、足をやられているのか。機動力で勝てないと分かって、接近戦を挑もうと?」


 飛んでくるクナイと自在手裏剣。しかし紅の身体には届かず、すんでの所で動きを止めカランと音を立ててコンテナの上に落ちる。


「なるほど、その忍び装束。光学迷彩とパワーアシストだけでは無い様だな。指向性磁力を利用し忍鋼を反発させているのか。だが、あまり長時間は持たないだろう?」


 大蛇の言う通り、忍び装束の超電磁バリアは1分以上持続させる事は出来ない。今もバリアをカットし、バッテリーの消費を抑えている所だ。また手裏剣やクナイが飛んでくれば起動してバリアを張るが、それでもずっとこのままではいられない。


「まぁ良い。教官として最後の訓練だ。敢えてお前の挑発に乗ろう。私の次の打ち込みを捌けるかな?」


 その言葉を最後にふっと気配が消えた。声も、足音も、何かが風を切る音も無くなり、微かな波の音と時折遠くから聞こえる爆発音だけが紅の耳に届く。


 集中、集中。チャンスは一度。講師だった過去に未だにしがみ付いている奴が、生徒だった紅の挑発に乗らない訳が無いのは分かって居た。後は何時、何処から斬り掛かってくるか。その一瞬の為に全神経を集中させる。


「忍びの郷を救うよう言われ、この街を彷徨っていたお前が何故いきなり反撃に出たのか」


 不意に声が聞こえて来た。だけど室内で反響しているにしてはあちこちから聞こえる。極小スピーカーが室内のあちこちに仕掛けられているみたいだ。


「外界に出ていた忍びは、殺すか確保している。だがこちらで把握出来ていないのが、追放処分を受けた忍びだ。中には、忍者ガジェット開発の中心メンバーだったくノ一も居たな。外界との積極的交流を訴え、婆さんと対立し、追い出されたくノ一だ。現金なものだな?この私を、僅か五年足らず前に出来たばかりの掟を破ったと非難して、お前は百年以上続いた最も厳格な掟を破った」

「大切なのは掟の持続年数じゃ無い。アンタは、自分勝手な欲望で一人の女の子を傷付けた。それに時代は人権主義よ。いくら閉鎖的な忍びの郷でもね」

「房中術訓練は、それこそ百年続いた忍びの郷の伝統だった。婆さんも、廃止は苦渋の決断だった。お前はあの婆さんに懐いていたな?」

「そ。まぁわたしには関係無いわ。アンタは忍びの郷を裏切った。深南雲弾に着いて、忍びの術を流出させようとしている。ここで息の根止めてやるわ」


 挑発が空振りに終わったのを察したのか、スピーカー越しの大蛇に微かな焦燥が漏れ出ている様に思えた。ただ気のせいかもしれない。ここで僅かにでも安心すれば、それが心身共に隙が出来る。


「そう言えば、さっきのお前の通信先の相手は、例の追放されたくノ一では無さそうだな」


 ドクン、と心臓が微かに跳ねた。


「口振りからして男。それも同年代くらいだろう?恐らく警察からの逃避行の際、その男子に助けられた。そして彼は勇敢にも君の役に立とうとしている。そうそう、予備の忍者ガジェットと忍鋼に薬剤が小型艇に乗せてこの船を離脱する予定だったな。もしかしたら、彼はそれを見つけた。そして追い掛けた。ほんの少し、君の気を惹ければと通信を健気に送って…」


 口を閉じ何も言うまいと決意を固める紅。しかしその様子を見て、スピーカー越しの大蛇は次第に口調が変わり始めた。紅の僅かな動揺を察したのだ。


 やはり所詮は学校を卒業出来ていない未熟者。いくら天才と呼ばれて学内でチヤホヤされていても、たかが一度のピンチを救われた程度で外の世界の男に心が揺れる様なくノ一が、一丁前に権利などとほざくとは片腹痛い。


 ニヤリと笑い、自分の忍者ブレードを構えて起動する大蛇。ゆっくり確実に回り込み、警戒されている背後や正面を避けて脇に位置を付ける。


「残念だが、彼は助からない。今すぐお前が助けに行けば違うかも知れないが…」


 ピクリと紅の肩が震える。大蛇はその一瞬に音もなく飛び上がる。紅は飛びかかって来る大蛇を振り向か様に迎え撃ちながら、ようやくハッキリと螺厭の狙いに気付いた。


(そっか…アイツは、最初から…)


 紅が一つの考えに思い至るちょうどその時、海上で小型艇を追っていた螺厭の乗るセルフコプターのローター部分に銃弾が当たり、これ以上の飛行は困難な状況にまで追い込まれていた。


 しかし螺厭は一切の躊躇無くセルフコプターの最後の力で急降下しながら加速していく。小型艇に乗る操縦士とその護衛の傭兵が、余りにも命知らずな特攻に一瞬判断が遅れる中、螺厭は小型艇の上空を通り過ぎる隙を逃さず飛び降りた。


「コイツ死ぬ気か!」

「死なば諸共ォ!」


 飛び降りながらの渾身のパンチで銃を持った傭兵が体勢を崩して海に落ちた。猛スピードで海を走る小型艇に乗る螺厭ともう一人の操縦士からすれば、それこそ目にも止まらない程のスピードで取り残されていく傭兵を尻目に、螺厭はその辺に転がっていた鉄パイプを拾い操縦桿を握る傭兵を前にニヤリと笑って見せた。


「ここが、命の賭けどころってな。最後の最後まで暴れまわってやるぞ」

「馬鹿か!子供の遊びじゃ無いぞ!」

「知ってる」


 操縦士の脇に迫り、鉄パイプで殴り掛かろうとする。だが揺れる上に船の操縦室は意外に狭く、仕方なく螺厭は鉄パイプ片手にタックルを決めた。


「この馬鹿ぁ!!」


 ちょうど揺れに連動したタイミングでのタックルだった。ついでに鉄パイプを突き立てる様にして特攻を仕掛ければ、二人まとめて船室から狭い甲板の上に転がり込んでいく。


 海水が目に染みて、おまけに寒い。タックルの拍子に武器の鉄パイプも手放してしまった。更に言うと操縦士が離れたせいで小型艇も止まってしまい、足元が安定すれば組み合っている操縦士の方が力は上だ。


「このクソガキ!大人の仕事の邪魔するんじゃねえ!」


 投げ飛ばされ甲板に腰を打ち付けてしまった。何とか手すりを掴んで倒れ込むのを避けるが、操縦士は懐から銃を取り出そうとしていた。


 不味い、と慌てて手元を探してついに見つけた鉄パイプで起き上がり様に殴りつけ、ついでに蹴りも入れる。だが余り効果は無かった。鉄パイプって、意外に攻撃力無いんだな、とふとそう思う。


 バン、と波の音でも消えない程の大きな音。螺厭は痛みさえ感じなかったが、ドクドクと溢れ出す血が自分の服の脇腹の辺りを赤黒く染めていくのを見て思わず呻く。


「流石に、映画みたいには、いかないよなぁ」


 背中から崩れ落ちた螺厭。少し遅れてやって来た激痛で声すら出ない。見れば銃を持った操縦士は波の揺れにわずかに体勢を崩しつつも、次は螺厭の頭を撃ち抜こうと狙いを定めている。


 これで終わりか、とも思った。しかし螺厭は痛みのせいか中々動いてくれない頭と身体をフル稼働し周囲を探る。


 こんな所では終われない。俺は今夜ここで死ぬ。だけどただじゃ死なない。最後の最後まで、親父の計画を挫く為に。そしてついでにこれから待ち受ける紅の戦いを少しでも楽にしてやる為に。俺は一人でも多くの敵とガジェットを道連れにしてやると決めたんだ。


 しかし螺厭の決意など知る由もない操縦士が銃の引き金を引こうとしたのを気配で感じた。もう時間がない。逆転のチャンスは何処に。


 その時螺厭は潮風の音に混じって細くて高い風の音を聞いた。何か、小さい所を強い風が無理やり押し通っている様な細く鋭い音。螺厭は目を見開き、その音のする方を見た。ガスボンベだ。さっき螺厭を撃った銃弾が、螺厭の身体を貫通して、ガスボンベの留め具を掠めていたのだ。


 螺厭は咄嗟にガスボンベの留め具を掴み、自分たちのほうに引き寄せる。既に僅かに漏れ出していた所を新しい衝撃が加わり、白く色の付いたガスが広がった穴から噴き出て操縦士の顔面を直撃した。


「ううっ!?ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!!」


 効果は的面。苦しげに呻き出した操縦士が顔色を変えた。喉だけで無く全身のありとあらゆる所を掻き毟りながら崩れ落ち、そして青黒く変色した血液を口から吐く。


「その症状…」


 螺厭には見覚えがあった。青い顔色。全身を襲う絶え間ない痛み。口から吐く青黒く変色した血液。


「母さんの、母さんを殺したガスまで…」


 そして、そのガスは噴出口のすぐ近くに居た螺厭にも届いていた。脇腹の痛みで初期症状の激痛に気付かなかったが、螺厭もまた思わず咳き込み、口から青黒い血液を吐いていた。


(アイツは、ここで死ぬ為に私について来たんだ…)


 海を超えた先での螺厭の危機を察したかの様に、螺厭との出会いから最後の会話までの走馬灯が紅の頭を過ぎる。偶然に見せ掛けた出会い。無茶にしか見えない単独行動。同じ屋根の下で眠ったあの夜。ワザと紅に自身と父親の正体を悟らせた瞬間。そして何よりあのうざったらしい減らず口と、別れの言葉。


(全部、私が助けに来ない様にする為…私が見捨てても罪悪感を抱かせないための…)


 その全てが紅の中で一つになった瞬間、紅は隠し持っていたスイッチを入れて目を閉じ耳を塞いだ。


「迫る敵を前にして視界を塞ぐとは馬鹿か!それとも諦めたからかーっ!?」


 しかし、次の瞬間。


「ウオアァアアァアアアアアアッ!!!!」


 突如として放たれた大量の、色とりどりかつ断続的に放たれる短い感覚の眩い光が大蛇の目を焼いた。そして同時に襲い掛かるのは鼓膜をつんざく様な甲高い金属音と高周波音波。大蛇は空中でありながら堪らず目を閉じ、耳を塞いで回避した紅の脇を通り過ぎてコンテナの上へと落下していく。


 時間にして僅か三秒。紅は目を開けて耳から手を放すと、足元には目を瞬かせて悶絶する大蛇の姿が。仕掛けたガジェットからして目は完全には失明しておらず、耳も後五秒もすればまた聞こえる様になるだろう。だけどそれを待ってやる時間は無い。


 無言でクナイを取り出し、大蛇の両手両足に突き刺し超電磁ワイヤーが自動でコンテナにしがみ付いていく。見る見るうちに身動きが取れなくなった大蛇の手甲を没収し、万一にも届かない様にコンテナの下に投げ捨てる。


「何だ…今のは…」

「新型忍者ガジェットよ。プリズム・ショッカー。強烈な光の明滅と音で、敵の視覚と聴覚と、何より脳を刺激する。例え忍者のアンタでも、クナイで拘束されてなくても暫くは動けない」


 かつてこの一般人の世界のお茶の間で、アニメを見ていた子供が体調不良を起こして病院に運び込まれたと言う事件があった。原因は薄暗い部屋で激しく明滅する光を見た事で光過敏性発作を起こした事だ。


 忍者ガジェット、プリズム・ショッカーはその現象を確実に、そして音も追加することで更に強力に放つことができる。紅は目を閉じ、そして全身を覆う忍び装束の遮音機能で耳を塞いで自滅を回避した。だが何の対策も練っていない、それどころかそんなものが来るとも思っていなかった大蛇は大打撃などと言うものではない。


「いつ、仕掛けた…」

「ガジェットを仕込む所を気付かれたら終わり。アンタはそう言ったけど、あの時ちゃんとこのガジェットも仕掛けてた。フェイクのガジェットで包む様にしてね」


 大蛇の教え通り、忍者ガジェットは使われている事を悟られてはいけない。なら使ったけど気付かれて対処されたと相手に判断されて仕舞えばそれで良い。単に派手に爆発して気を引くガジェットのすぐ下にプリズム・ショッカーを仕掛けて、大蛇がクナイで対処したガジェットは爆発して処理されたと思わせる。その下に本命が隠されているとバレないうちに決着をつける必要はあったが。


 爆破ジェルクリームを塗った自在手裏剣があちこちのコンテナに向けて飛んでいく。このタンカー船丸ごと海に沈めても良いが、それでは後味が悪い。忍者ガジェットも忍鋼もこの部屋にあるのなら、この部屋さえ吹き飛べばそれで良い。この薄汚いセクハラ親父と一緒に。


「ま、待て…殺すのか?まだお前は学生の身だぞ?殺人の経験も許可も無いはずだ…」

「…もう私の仕掛けた爆弾で何人も死んでる。そこにまた一人増えるだけよ」

「や、やめろ!私は仮にも忍びだぞ分かっているのか!?掟ではまず忍び裁判を受けるのが…」


 返事の代わりにクナイを大蛇の顔のすぐ側に突き刺す。たっぷりと爆破ジェルクリームを塗ったクナイで、これ一発で今紅と大蛇が乗っているコンテナは跡形もなく吹き飛ぶだろう。


「さっきアンタが言った通り、もう時間が無いの」

「待って!待ってくれ頼むお願いだ!死にたく無い!助けてくれ!私は教官だ!お前のことも教育してやったろう!?郷の開放も、お前の恋人を助けるのだって手伝える!!お前が探していた大人の忍者だぞ!!」


 すぐにここを出て螺厭の馬鹿を助けに行ってやらないと。その一心でコンテナを降り、悲痛な叫び声を上げる大蛇を一瞬だけ振り向く。


 見ていて哀れな姿だった。かつては教官として紅を始め多くの新米忍者達を育てて来た大蛇。しかし何をとち狂ったのか廃止になった房中術訓練のを勝手に再開し、その代償として教官の立場を失い一生残る傷を負って郷の片隅で一人で過ごしていた。


 大方失った立場を取り戻すチャンスだとでも思って郷を裏切ったのだろう。教官と言う立場と、その特権にしがみ付いていたこの男にはもう何も残っていない。紅にしても今更同情する価値すら感じられなかった。


「さよなら、元教官。二度とその顔見たく無いから、化けて出てこないでね」


 そう、紅がこの大蛇に対して感じているのは怒り。一重に紅と螺厭の関係を何も知らずに恋人などと呼んだデバガメ野郎に対する苛立ちだった。


 大蛇の悲鳴を背に目にも留まらぬ速度で貨物室を出て爆破ジェルクリームのスイッチを押す。紅が素早く甲板に出る頃には、貨物室は紅蓮の炎で包まれそこにあった忍者ガジェットや忍鋼は燃えて跡形もなく吹き飛ぶか、窓を突き破って海へと落下し人の手に届かない所まで落ちていった。


(螺厭の馬鹿!こんな所で死なせないんだから!!)


 予備のライブタイム竹トンボを上空に射出。アイ・レーダーに真っ暗な夜の海が一面に映り、その中で一つ、二つと光っている物が見える。拡大すれば何処で習ったのか螺厭が後ろの小型船を操縦して前を進む小型船に向けて特攻していく様が見えた。ただ、螺厭の様子がおかしい。屋根に阻まれて全身が見えないが、どうも時折咳き込んでいる様に見える。それに螺厭が操縦している船からは僅かにだが白いガスが漏れている。


「アイツはーっ!!」


 事故か故意かは知らないが、間違いなく螺厭はあの毒ガスの詰まったボンベを使って逃げている船の傭兵を片付け、一緒に海に沈む気だ。


 紅は自分の首元のマフラーを勢い良く外して伸ばすと、しなやかだったマフラーがピタリと形を留め射出用のカタパルトに変わる。瑠璃子さんが作った新型忍者ガジェット、超加速マフラー。従来使っていた忍者顔布の酸素ボンベ効果や防毒ガスマスク、更には光学迷彩としての効果を残しつつ、いざと言うときは全身を覆う忍び装束が発生させる指向性磁力とマフラーの指向性磁力を反発させ合い即席のリニアモーター式射出装置になるのだ。


 紅はマフラーの裾を握りしめつつ、十分に距離を取ると全速力で走りマフラーに飛び乗る。急と言うレベルでは無い程の超加速に紅が微かに顔をしかめ、身体が悲鳴を上げるのを歯を食いしばって堪える。マフラーは紅が通り過ぎると同時に端から順に本来のマフラーの柔軟性を取り戻し紅の手に収まっていく。


「螺厭…の、馬鹿!!」


 紅は夜空の海へと飛び立っていく。湧き上がる螺厭への怒り、そして絶対に助けなくてはと言う焦りを胸に。



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