第5話―変わりゆく世界―

 ヴァルハラに迫った危機は去った。

 正樹とその部下たちは食料を持ち、ヴァルハラから去っていく。どこかでキャンプを作り、これから生活していくのだろう。

 彼らがこの先、他人を殺さないとは保証できない。だが、正樹の瞳はどこか憑き物が落ちたように穏やかだった。

 そんな彼はもう二度と過ちを犯さないだろう。

 楓は戦いが終わるとまた眠ってしまった。

 次に目が覚めるのはまたヴァルハラに危機が迫った時か、それとも世界が平和になった時か、それは誰にもわからない。

「キミ、本当についてきたけど、よかったの? ヴァルハラに戻るなら今のうちだよ?」

「いや、いいよ。楓を守ってくれる人はたくさんいるし、奏多さんとかな。俺はあいつが胸を張って自慢できるような兄貴にならないとなって思ってさ。だから強くなるための修行だよ」

「って言うのは建前で、ほんとは黄泉ちゃんといたんでしょ? ほんっと颯太くんってば素直じゃないの」

「だな。嘘を並べる男はモテないぞ」

「う、うるせぇよ」

 颯太はアッシュギアに乗り、黄泉たちと各地を回ることに決めた。

 世界にはまだアディムズの脅威に怯える人も、バビロンの生み出す悲しみの連鎖に捕らわれた人も、たくさんいる。

 それらを助け、解き放つのが颯太の、そしてチェインソー・ガンマン・ゼータの役目だ。

「俺はチェインソー・ガンマンを楓から引き継いだんだ。それにふさわしくなりたいし、この力でできることは何でもしたい」

 颯太は機体のカギを握り締める。

「正樹とだってわかりあえた。だからこの先、わかりあえない奴はいないと思う。戦うだけなら動物でもアディムズでもできる。でも俺たちは人間だ、人間にしかできないことを、やってやろうじゃないか」

「颯太ってば変わったね」

「変わりすぎて別人みたいだけどね」

「お前たち、騒いでる暇はないみたいじゃぞ! 目の前にアディムズの群れじゃ! クワトロエース、全機出撃じゃ!」

『了解!』

 彼らが目指すのは世界の平和だ。争いがなく、悲しむ人がいない世界。

 それは理想かもしれない。ただの耳あたりの良い幻想かもしれない。

 だが彼らはそれを信じている。信じて、その手に掴もうとしている。

 その中心には、過去から時間を超えてやってきた颯太がいる。

 彼ならこの世界を変えることができる。皆、そう信じている。

「チェインソー・ガンマン・ゼータ、颯太、行きます!」

 そして彼らは戦い続ける。変わりつつある世界の中で。


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屍殺しの電動刃 木根間鉄男 @light4365

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