五話 後はご自由に

「では、そろそろ私たちはお暇しましょうか。これから家族で話し合いもあるでしょうし、部外者の私たちはお邪魔でしょうから」


「そうだな、では失礼します。あ、父上からの手紙は返事を出さなくて結構ですからね」


「僕たちの挙式も来なくて結構です。サラがそれを望みませんので」


エドガー様もハンスも人が悪いですこと。でも、スッキリしました。




エドガー様とハンスとともに家を出る時、お父様が何やら叫んでいましたが、部外者にはよく分かりませんでした。




「エドガー様、ご協力ありがとうございます」


「どういたしまして。お礼は、結婚式に呼んでくれれば良いよ」


エドガー様は笑いながらそう言ってくれました。


「お呼びしますわ。ね、ハンス?」


「もちろん、招待状をお送りしますね」


私たちの返事を聞いて、エドガー様は満足そうに帰っていかれました。


「僕たちも帰りましょう。我が家へ」


「はい!」


今日からハンスと二人で暮らすのです。何だかドキドキしてきました。




ティナ達にバレないように、荷物を少しずつ新しい家に運びこんでいたのですが、大量の本や論文ばかりだったので大変でした。


服や日用品はほんの少ししかありません。持っていてもほとんどティナに奪われるので、少ししか手元に置いていなかったのです。


「新しい洋服を買わないといけませんね」


ハンスにそう言われて恥ずかしくなりました。


「申し訳ありません。こんなに本ばかりで……」


「謝ることはありません。そういうところに惚れたんですから」


どういうことでしょう?私に同情して、協力してくれたのだと思っていました。


「そ、そうだったのですか?初耳です……ただ憐んで結婚してくれたのだとばかり」


「僕がそんな理由で結婚を決める訳ないでしょう?全く……」


ハンスに両手をぎゅっと握られて、心臓が跳ね上がりそうです。


「僕は、あなたのことが好きなのですよ?賢く強いあなたのことが。あなたはどうなんです?僕のこと、ただ利用しただけですか?」


……そんな風に聞くのは意地悪です。


「最初は、利用しようと近づきました。でも今は……」


今は違います。けれど何といえば良いか分からず、言葉が続きません。身体が熱くなって、握られている手が汗ばんできました。こんな様子では、嫌われてしまうわ。


「そういう素直なところも好きですよ」


面白そうに笑うハンスに救われました。


「今は、好きなんです」


ようやく好きという言葉を絞り出せた時、私はハンスの胸の中にいました。




「では、これから改めてよろしくお願いしますね」


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