四話 全ての証明

「エドガー様が、私の婚姻証明書と相続権放棄証明書を持ってきてくれましたよ。役所に行く手間が省けましたね」


エドガー様から受け取った書類をお父様に見せると、お父様はガックリとうなだれました。


「エ、エドガー様、どうしてサラの書類を……」


「サラとハンスに頼まれましてね。まあ僕はこの二人に借りがありますから。この二人のおかげで、負債を抱えなくて済んだ」


「我が家の負債について、エドガー様に相談したのですよ。親身に聞いてくださいましたわ」


本当に親身になってくださいました。すぐに婚約解消の決断をしてくださいましたから。


「お姉様、家族を裏切ったのですか?!」


「裏切る?ティナ、何を言っているの?私はただ、家族のことを相談しただけです……。あ、もう私たちは家族ではありませんでしたね」


あら、私ったら。家族づらをしてしまいました。もう私はリーベルス家の一員ですのに。


「そういえば、紹介がまだでしたね。こちらがハンス・リーベルス男爵です。私の夫ですわ」


夫、と口にするのは何だか照れますね。ハンスの方を見ると、微笑んでくれました。顔が熱いです……。


「初めまして、挨拶が遅れて申し訳ありません。ハンス・リーベルスです。妻がお世話になっ……てはないですね。失礼しました」


深々とお辞儀をしたハンスを見て、お父様が忌々しそうに、睨み付けてきました。


「たかが男爵のくせに、馬鹿にしやがって……」


お父様、言葉遣いが下品ですわ。確かにハンスは男爵ですけれど、もうすぐ……


口を開こうとすると、エドガー様が私を制して前に出ました。


「口を挟んで申し訳ないが、ハンスはもうすぐ男爵じゃなくなるんですよ。彼はもうすぐ伯爵になるのです。こちらをご覧ください」


そう言って、何やら書類を掲げました。そういえば、余計な書類を発行してきたって言われてましたっけ。


それはハンスの身分証明書でした。身分は男爵と表記されていましたが、注釈の欄に「六月一日付に伯爵へ変更とする」と記されています。


これを発行していて遅れたのですね。


「な……どういう事だ?!伯爵以上の貴族は数が定められていたはずだ。こんな奴がそう簡単に伯爵になれるものか!」


「そうよ!来月からこんな人と同等の爵位だなんて、あり得ないわ!」


あぁ、お父様もティナも立場が分かっていないようです。


「そう、来月からなのです。お父様、ティナ。来月は何があるかお忘れですか?納税を滞納したお父様の爵位が、剥奪されるのでしたよね。つまり、伯爵の爵位がひとつ空くということです。そのお陰でハンスは伯爵になれる、という訳でなんです。本当にありがたいことですわ」


お父様とティナは黙り込んでしまいました。お母様のすすり泣く声だけが響いています。言いたいことは全て言えましたし、もうそろそろお暇しようかしら。

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