episode.4 死闘
2003年5月26日月曜日午前8時丁度。有り得ない、そうサグラダ・ファミリアの鐘楼からの鐘の音がけたましく鳴り響いては風雲急を告げている。
ヘラルド・ヒメネス司祭曰く、ガウディが長年懸念していた問題がそこにあった。1882年から着工し各年代の材質変化が思った以上の鐘楼の胴鳴りをもたらさないだろうと。ただ俺として十分な鳴りで音響は名工が何とかするであろうが前提で、貴重な鐘の音を聞けて先々の迷いが飛んだ。
そして、この鐘の大音声でも、通りに市民が飛び出て来ないのは先日から通しての緊急放送によるものが大きい。作戦名カタルーニャの願いは、思ったより遥かに大袈裟なものになった。
先日の午後即刻からユーロの全国ニュースはバルセロナ完全封鎖を告げ、地下鉄工事による支障で配管亀裂の恐れから終日一斉点検に入るので、何人たりとも外出禁止にとだ。そしてサグラダ・ファミリアから南部半径2kmは強制避難地域に指定された。
建前は総点検のそれだが日頃のバルセロナ自警団の行いからマッドドッグ絡みだと、バルセロナ市民は深く察してくれた。本来ならば皆に鉄柵窓越しからでもこのサグラダ・ファミリアの麗しき光景を見上げて欲しかったが、そこはマッドドッグを追い込む作戦上、ここゼロポイントはどうしても避難で市民の気配は感じなかった。いや、どうしてもこれで良い。
作戦名カタルーニャの願いは、所謂一発勝負の作戦で、俺とミアンの準医療車両の銀のホンダ・CR-Vの改造車が餌となり、マッドドッグを誘い込んでは、散々闘争本能を煽りに煽り、ダメージを与えてながらも、モヌメンタル闘牛場に追い込んではバルセロナ自警団200人がライフル銃で一斉射撃しては仕留めるものだった。
本来ならば警察軍隊相当が仕留めるものだろうが、不吉そのものの凶獣マッドドッグを政府公式記録に残さない為にも、最前部隊のバルセロナ自警団が適任とスペイン王室アルフォンソ18世の大いなる信任を経た。
かくして作戦名カタルーニャの願いは開始される。ただミアンにただならぬ闘争本能に火が着き、丹念に両手へと特殊ステンレス網が巻かれた穴あき黒グローブを履きながら、5振りで十分のフレグランス瓶をこともなげに瓶ごと砕いては、潤ったグローブで、全身も擦り付けた。
おいおいだ。滞在先のホテルで、最大警戒しながら作り上げた、被害者の窃盗集団の子供の衣服から成分抽出した苦甘いストレス香を培養し調香したフレグランスを全身にまとうかだ。そのフレグランスに本当に効果があるか一推敲推論にしか過ぎなかったが、防臭を施しても尚フレグランスに誘われて、マッドドッグが滞在ホテル周辺を徘徊しては、バルセロナ自警団のライフル銃の発砲音が8発も鳴った以上、それは確信へと変わった。
そして車中のポータブル型無線機ががなり立てた。俺達のいる交差点の新聞直売所に計画通り向かっていると。今やこの車両のアイドリング音しかしない大通りに、マッドドッグの荒い鼻息であろうかに、アスファルトに深く刺す爪の尋常ならざる音が、要所で銃座を施した定点観測員の追い込む射撃音と合わさり、否が応にも不敵なミアンを必死に促した。
「ミアン、分かってるのか、俺達は上等な餌だ、早く助手席に乗り込め」
「アルマ、もう少しだよ。初対面は大切にしないと」
もう聞こえてる。明らかにうれションしながら絶好調に野太い声で喘ぎまくるマッドドッグの声が、もう二通り向こうの角に入ろうとしている。そして曲がった直後、その姿は見えた。手配書通りにそっくりな凶獣が。体長3m強の毛の抜けた褐色のボクサー犬に近似とはあるが、全身が筋肉で隆盛しており、もうこれなら餌食になるしか無いと、真の恐怖しかないのが一般人の思うところだろう。
その思案もほんの束の間だった。爆音の襲来と共にアスファルト道路が突然爆煙で10m程捲り上がっては、マッドドッグは勢いそのまま角を曲がり切れず、豪快に交差点のアパレル店のショーウィンドウに吸い込まれた。
ここは何事になるかになるが、戦車部隊が展開してる訳も無い。ヴァイス・ジーザスの姉御が便利だからと、JV監督に勧めては、瞬く間に設置されたそれは、サグラダ・ファミリアの二手腕のタワークレーンの長距離射撃が早くも炸裂した。
二手腕のタワークレーンは英国のコーンウォールスチール製PD03号機で、普段は右腕だけでサグラダ・ファミリアの建築に勤しむ。大問題は左腕に実装された無反動蓄電レールライフルだ。通称パイルドライバーⅡは、有効射程距離2kmで1.2mの真鍮槍をマッハ1.5で射出する。そんな物騒なと議論にもなったが、まあヴァイスならと、そして常日頃大盤振る舞いの英国王室の無制限現状復帰の許諾書で、実使用は今日の運びになった。
いや冗談じゃない。俺の目の間に刺さっているさぞやの聖槍に俺達が串刺しになったら、俺達は迷わず天国を選べる自由時間があるのかだ。
ヴァイスからの無線が透かさずフォローが入る、マッハ1.5なら北東の風速5mの風影響ないと思ったけど着弾でぶれた、次は努力すると。その刹那、漸くミアンが助手席に滑り込んだ。来ると。
そう、マッドドッグは首を振りながら立ち上がって通りに出た。俺はホンダ・CR-Vに乗り込み直ぐにアクセルを踏んだ。あのマッドドッグの全速でショーウィンドウに突っ込んだのに、ガラス片すら突き刺さっていない全身筋肉って、何かしかない。
遠距離射撃砲のバックアップから、路地裏には入らない程度に南部方面をホンダ・CR-Vの時速50kmそこそこで、マッドドッグの餌として引き付ける様に心掛けている。ただ並みの狩猟犬の速度なのかと思いは巡る。筋肉が付き過ぎて走力が落ちてるは、ビデオの瞬間速度は時速100kmに迫るので警戒すべきなのだが、なぜ並走するかは、やはり振りまくフレグランスの量に酔いしれてアドレナリン全開の見境いのなさか。
そして、この追走を揺さぶるかの様に、パイルドライバーⅡ2発目が、轟音を上げながら巧みにこの車間に爆撃した。
この爆煙を突いて、ミアンが言ってくる言い終えたも素早く助手席から飛び出て仕掛けに出た。バックミラー越しに見えたのは、爆煙混じりの中でミアンが疾走のままマッドドッグの額を前方回転蹴りで抉った。確かに蹴ったが、マッドドッグはそのまま追走してくる。鋭利な口は開いたままで唾液を吐き散らしながら走破すると言う事は、脳震盪を起こしても相当な闘争本能で動き回れるらしい。
マッドドッグは次第に復調し、車間距離を詰めては闘争本能がぶり返した。直線で時速80kmに上げるも追いついては、車体に齧り付き始めては鋭利な音が聞こえ始めた。
これはまずい、このホンダ・CR-Vは改造し過ぎて、アクセルの踏み込みがやや重くなってる。これ以上見境無く噛み付かれたら流石の強化タイヤがパンクし、作戦が台無しになる。俺は咄嗟の判断で速度を落とした。
これを定点観測員が察したのか、すぐさまのパイルドライバーⅡ3発目の威嚇攻撃が前方左斜めに、爆音と共に着弾した。この車間距離を得たりと、俺はブレーキを踏み速度を咄嗟に30kmに迄落とした。そして狙い通りにマッドドッグは来た。マッドドッグは車体のリアバンパーにがっちり食い付き、車体が揺れに揺れたと同時に衝撃音が来た。ここでホンダ・CR-Vの戦車の追加装甲に倣った爆発反応装甲が反応しリアバンパーが強制パージされたからだ。マッドドッグは確かに咆哮したものの、体制を整えては追走を始めた。普通の伴走車ならば噛みつきそのまま横転する筈なのに、マッドドッグ瞬間に反応し、寸でで危機を回避したゆえか、あちらは牙が欠けた位で決定打にならなかった。いや良いこれはオプションに過ぎない。
そしてバディへの無線確認する事も無く、バルセロナ南部地域を疾走する一群の音を聞きつけた本能だけのミアンが、ショートカットしてきたビルの屋上から車両に飛び降りた。
普通なら慌ててスピードを落とすものだろうが、ミアンは本能のままに空中で回転しては、自らのタイミングをこのホンダ・CR-Vに合わせては、車体ルーフにトンの振動を鳴らした。
実に慣れたもの扱いしてるが、これを何度もやられては、車の保険屋が何だそれの呆れ顔から完全無視で、軽度の岩石落下の報告書で7台廃車にした。
現在このホンダ・CR-Vが無事なのは、改造した一つの頑強なルーフキャリア台座にどかんと降りたからだ。どんなアクションスターでも出来まいとこの俺は誇りたいが、ミアンはハリウッドに興味無いから、話に全くノリソリが無い。そんなミアンが、ルーフキャリア台座から運転席を逆さに覗き込む。
「ねえ、アルマ、マッドドッグの弱点は、」
「そんなの無い、疾走する駆除マシーンそのものだ。いや、ある、顎を砕いて食い気の士気を低下させろ、目的地に滑り込むなら、それで十分だ」
「もう、さすが、イカしてるわ、アルマ、」
ミアンはそのまま走行中でも果敢に飛びだし下車しては、少ない振りも早いローキックを、マッドドッグの顎中央を正確に狙うも、本能で呆気なく躱された。
全く、ミアンは欲を出して仕留める気満々を完全に読まれたからだ。ミアンは遠く彼方で地団駄してるが、それ可愛いは、後で猛喧嘩になるので絶対止めておく。
もはや、マッドドッグのターゲットは、憎しが募り中々餌食にならないホンダ・CR-V、いやミアンがたっぷり着けたフレグランスの助手席、いやもう残り香の移ったこの俺だろう。そんな旨い部位はないのだが、マッドドッグもユーロを長らく横断してると雑食にも慣れたものか。いや猛獣の頂点に立つのなら、狙ったターゲットは残らず狩るが培った矜持やもしれない。
そんな矢先に、ショートカットしまくっているミアンからの無線が入った。
『アルマ、何故か、兄妹がいるよ。どうしよう』
『ミアン、絶対触れるな、近ずくな。この状況下でミアンのフレグランスが移ったら、兄妹が丸呑みされる』
『でも、』
『ミアン、アルマ、確認出来た。幼い兄妹は俺達が救助するから、カタルーニャの願いを遂行してくれ』
無線には、当事者の定点観測員へと無数の拍手が送られた。俺達は餌食ルート最南部迄伸びては回避行動に出た。
その後の無線からは、兄妹達は妹の睡眠時のお友達のテディベアを取りに、北部の避難先の体育館から積極的に飛び出して来たらしい。これは本当に一日かで終わるかのバルセロナ市民の不安を感受性そのままに受けたからこそだろう。察して余りあるアーメンを唱える声が適時に起こった。分かってる、主に縋ってでも必ずや成功させて見せる。
そして曲がりしなに、クラシックなアパートメント3階のベランダからミアンが飛び出て、抜群のセンスでルーフ車体をトンと鳴らした。そして間も無く、ルーフキャリア台座に着いてるハッチボタンを押しては30度に固定された助手席の扉から滑り込んだ。程なくもだ。
「ほら、アルマも好きなガリシアパン食べる」
「俺は死ぬ気で運転中だ、」
「そう、飛び出たベランダの一室から貰ったの、一層香ばしくて食べ応えあるよ。パン屋さん開けば良いくらいだよ」
「ミアン、またかよ、そういうの泥棒だからな」
「そこ、名刺置いて来たから。アルマ、また同行よろしくね」
「ミアン、もう良い、散々怒り疲れた。付き合うよ、どこ迄もさ、」
「そうか、アルマはお仕事に夢中ね。仕方ないな、ポケットに詰め込んできた3個全部食べちゃおうか」
「ミアン、1個残しとけ、美味いんだろう」
「アルマ、死ぬ気じゃなかったの」
「それはバルセロナをもっと満喫してからだ。しかも、死ぬのはもっともっと先だ」
「うん?」
「どうした、ミアン」
「何故玄一があそこにいるの」
「玄一はモヌメンタル闘牛場前で最後の追い込みだ、持ち場を離れる筈が無い。定点観測員の誰かで、俺達がコース外れたのを身を以て旗振りに来たんだろ」
「そうかな、ライフル銃じゃなく、日本刀持ってるけど」
見えた、そして息を飲んだ、確かに玄一だ。モヌメンタル闘牛場迄にはまだ700mある筈だ、どうした玄一も。玄一は右手で俺達に行けのサインで交差した。
まだ早い玄一。そしてバックミラー越しに玄一とマッドドッグが微かに見えた瞬間、爆音とパイルドライバーⅡ4発目による爆煙が、玄一とマッドドッグの中間に舞い上がった。
爆煙を何事ぞで本能で突っ切るマッドドッグに、玄一はいつの間にか抜刀済み。感覚が鋭く研ぎ澄ましたまま、下段の構えのから抉るかの様にマッドドッグの右顎を切り裂き、深く右顎後ろ迄達する。初めてマッドドッグに致命傷が上がり、尚も突進したまま鮮血を撒き散らして行く。
玄一一人、思いのままに。
「確かに柔い弾丸なら弾く酷い筋肉だ、それでも前進とは意外にタフなのが、俺もまだ甘ちゃんって事か」
(玄一、無線本当に聞いてるの。アルマの指摘通りに顎砕かないと駄目よ)
「無線なんて、この目で達観出来る。それに狩場が目の前で、俺が柔く成敗しようものなら、回避されたらどうする。そうなんだろう」
(凶獣は、考え事多いから、その線も確かに過ったわ。だから玄一に相談したでしょう)
「行動即決大いに良し、どうせ腹案あるんだろう」
(玄一は取り敢えずモヌメンタル闘牛場迄戻って。カタルーニャの願いはどうしても成功させるわ)
「若手5番手なのに、頼もしい事だ」
(だから、共闘してくれてるのでしょう)
マッドドッグとの距離は適度に保っている。背後は、鮮血甚だしいマッドドッグの動きが急激に鈍ってる。どうやら玄一の抜刀が効いた様で、通りにこびり付く鮮血量から、明らかに右目に鼻に口元にも伝い士気がとことん落ちたと思われる。
俺は速度を落としては、鮮血塗れのマッドドッグが前足で必死に拭おうと只管悶えてるのをどうかと観察してる。ミアンはやっとトドメを刺せると助手席から出ようとしたが、釘を刺した。マッドドッグは仮にも生真面目なドイツの戦車中隊の砲火を潜り抜けた以上、生きる為のあざとさは持ってる筈だ。
俺は300m離れてホンダ・CR-Vを止めてはアイドリングにしたままに推移を見守った。何としてもモヌメンタル闘牛場へと誘い込まないと全てが終結しない。
マッドドッグから離れに離れた1.2km手前のサグラダ・ファミリア。建築中のその中での南部一棟に聳える高さ165mの二手腕のタワークレーンは英国のコーンウォールスチール製PD03号機で、最後の仕掛かりに入る。
既に任務顔のヴァイス・ジーザスの口元が緩み、ポータブル型無線機の電源を落としては、徐にサーモスタット衛星スイッチャー・偵察衛星スイッチャー・気象衛星のスイッチャーを一気にONに倒し、正面のタッチモニターに映った3つ囲み線の内輪郭の強い1つを電子マーカーで固定しては見る見る補正解像度が上がる。
ヴァイスは両手のフィンガータッチレバーで巧みにPD03号機の向きを修正しながら、これ迄の無線による支援有りきの直観射撃からタッチモニターに映った目標地図の焦点マークを見つめる。
「多分、会った事のあるお姉さん。無線切ったから、もうフランクに話しても良いわよ」
(ヴァイスさん聞こえますか、ラストシューティングです。マッドドッグはサルダニャ帽子店前にいます。血液が凝固し始めてきたので、憤りが爆発する前に手を打ちましょう)
「ありがとうは言っておくわ。まさか私に出番回るとはね。アルマは援護射撃だって、玄一に教わったゆびきりげんまんしたけど、きっとこっぴどく怒られちゃうわね」
(ヴァイスさん、急での接触で驚かないのですか)
「まあね。私の始父は、皆に愛し愛されたのだから、テレパシーの一奇跡はまま自然とね。頑張るじゃない、日本語調の硬い英語のお姉さん。これで絞れたわよね」
(終わったら、一杯奢らせて下さいね)
「喜んで。いいえ、謹んでお受けするわ。それでイマジンをもっと貰えるかしら」
(サルダニャ帽子店、正面陳列棚上のガスパールさんのとてもお話の長い自慢の赤の山高帽がイマジンに現れます。行けますよね、ヴァイスさんなら、きっと)
「カウンターのサーカスの像の置物と言われるかと思ったけど、まあいけそうね、さてと」
ヴァイス、不意に背後の長距離照準スコープのアームを伸ばしては裸眼に被せては、リレーションからの精密投影が瞬く間に展開し、ヴァーチャルのサルダニャ帽子店内の倍率を最大限に上げる。
「残り1発、左腕固定、射出準備オーライ。マックスの思いつきの無反動蓄電レールライフルは上々だけど、これって地上を走る装甲車でこその無反動よね。薬莢受けでちょっと重くて振動伝うから、精密射撃でこれを修正するなら右腕アームで姿勢制御しないと厳しいわね。まあ両手利きなら私は問題無し。あとは奇跡を願うばかり。お姉さんも祈ってもらえる」
「父と子と聖霊の御名によって、アーメン、」
(父と子と聖霊の御名によって、アーメン、)
ヴァイスの左手のフィンガータッチレバーの左手の強く押し込むと同時にトリガーが反応し、左腕からの強烈な閃光とパイルドライバーⅡの射出音、辛うじての振動は右腕アームの姿勢制御に相殺され、ラストショットは抜群に冴える。
「始父、ジーザス・クライスト、最大のご加護を子供達の未来の為に、」
パイルドライバーⅡ5発目の射出閃光が開いたのも、もはや束の間。初速そのままにマッハ1.5に到達し、高さ165mの二手腕のタワークレーンから地上に向かって直進する。
遮蔽物の第1は、避難の済んだ新築の7階建のアパートメント。突き進むパイルドライバーⅡはそのままに、衝撃で4階以上が豪快に吹き飛ぶ。
遮蔽物の第2は、完全閉鎖されたアスレチックジムのビルディング。快適な空間のそのものが、マッハ1.5の轟音で音響大爆発を起こし1階迄崩落、周辺一帯にジム機器の爆片が飛び散る。
遮蔽物の第3は、直線そのままに完全閉鎖されたスポーツバーの二階のビリヤード場を直撃し、スポーツバーは垂直爆発を被る。
そして、直進そのままのパイルドライバーⅡは、これらをたった2コンマ数秒で通り抜け、サルダニャ帽子店の玄関前で必死に鮮血を拭おうかのマッドドッグ迄、すぐそこに。
パイルドライバーⅡの意匠そのままの聖なる真鍮槍は、今迄の所業を悔恨させる暇なくマッドドッグ迄の頭上左側面を、隆盛した筋肉にヒットし無慈悲に捩じ込まれる。更に溢れ出る鮮血に脳漿に、苦し紛れか今日迄痛覚が麻痺したその凶獣でも、やっと悔恨したと思われる嗚咽で涙が果てしなく散る。
マッドドッグのキャンの確かな嗚咽と、パイルドライバーⅡそのままの爆音は、聖なる真鍮槍と共にサルダニャ帽子店の店内を巻き込み漸く進撃が止まる。
ヴァイスによるパイルドライバーⅡ全弾射出と、確かに居た筈のマッドドッグが消失した事で、定点観測員より先に、まさかとサルダニャ帽子店の急進派の店主ガスパール・サルダニャが動揺し躓きながらも、店先に到達したその先には。
無残に半壊したサルダニャ帽子店内に、1.2mの聖槍がマッドドッグの左側頭部を貫いたまま、何の事は無いガスパール自慢の赤の山高帽迄突き刺さってる無情さ。マッドドッグは未だ全身痙攣したまま目を見開いたまま、凶獣に最後の悔恨を促す涙がただ溢れる。最後の滴る涙が出でたその瞬間、マッドドッグは強烈な筋肉硬直を起こし生き絶える。聖槍のせめてもの慈悲か、マッドドッグの瞼はしっかり閉じられたまま。
定点観測員が徐々に集い始め、マッドドッグの今までの兇状を戒める十字が切られて行く中、サグラダ・ファミリアの鐘楼全塔から安寧を約束した鐘が存分にバルセロナ市内を存分に包んで行く。
闇は光に購えないものと、ここでも具現化される。
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