登場人物・閑話

  登場人物



 ニコ


 リングランド王国の王都にてパステル工房を営んでいる青年。おっとりとした性格の中にも熱い情熱を秘めている。趣味は鉱石と植物採集。


 アンドレア・ロイ・リンクス


 リングランド王国の名家、リンクス家の末娘。世間からはその美しい容姿を白百合と比喩される。常に明るく振る舞う彼女は心に闇を抱える。


 ガビー・ガストロフ


 天才老画家。芸術活動の傍らアカデミーにて教鞭をとる。ニコの父親と深い親交があった。ニコの成長を見守る。元軍人。


 ニール・スネイプル


 広域貿易商スネイプル商会を背負ってたつ若き代表。ニコとは幼馴染み。自信家ではあるが、思いやりに溢れるニコの親友。


 メル・トーリア


 三十路手前の女傭兵。その腕は一流で、近隣諸国にまで名を轟かす強者。容姿端麗だが男勝りな性格が災いし、未だ言い寄る男性はいないらしい。


 ソール


 最北の地、リリア王国出身者。道化の格好を好んでする性格の軽いお調子者。未だ素性は謎に包まれている。


 ゴードン・ウィルテマーロ


 リングランド王国・第三門兵団団長。大柄な体格に強面の髭面。その容姿でかなりの損をしている人情家。話好きで涙もろい。


 ジョエル・ロンドポール


 リンクス家に仕える筆頭執事。アンドレアを幼少の頃より見守ってきた。観察力や考察力はかなりのものである。




 閑話『パステル・白銀の獣』


 ニコは父親がしてくれたおとぎ話や昔話が大好きだった。


 まだあれはニコが十歳になるかならないかの頃。


 よく練り込んだ灰色のパステル原料を父が形成しながら、傍らで遊ぶニコに話た。



「私の故郷、ラングドンではよく狼が出てな、夜な夜な羊や鶏を襲われていたんだ」


「狼? 大きい犬だよね。本で読んだことあるよ」


「ハハハ。そうだ。そして人とは決して心を通わすことはない誇り高き動物だ」


「ふーん、それでそれで」


「ああ、困り果てた村の住人はある計画を立てた。子供の狼を囮にし、助けにきた大人を狩って一網打尽にするというものだ」


「そんなあ、ひどいや」


「そうか? ニコはそう思うか。だがな、それは村人にとっては生きるか死ぬかの出来事なんだ。大切に育てた羊や鶏を狼にただでくれてやるほど裕福な土地ではない。故に狼も家畜を襲うのだがな」


「仲良くは出来ないの?」


「ああ。人には人の、狼には狼の世界があるからな、それは決して交わることはない」


「うーん、なんだか難しいや」


「話を戻そう。村人は森へ入り、狼の巣穴から幼い狼を捕獲してきた。そして村の広場に子供の狼を入れた檻を置き、夜になるのを待った」


「可哀想だなあ」


「だがな、待てど暮らせど狼達は子供を助けには来なかった。不思議なことにその間は村の家畜が襲われることもなかった。次第に衰弱していく子供の狼を村人は哀れに思うようになっていった」


「……」


「ある日、村人が檻の中に子供の狼が居ないことに気付いた。大変な騒ぎになったんだ」


「大人の狼が助けにきたんだね!」


「いや、そうではなかった。村の一人の若者が逃がしてしまったんだ。そして、その若者は行方をくらました」


「なんでなんで?」


「噂では、その若者は動物と心を通わせる事が出来たそうだ。きっと子供の狼を抱え、森に入り狼に詫びを入れたのだろう。その代わり村を襲わぬように懇願したのかもしれん。それ以降、村の家畜を狼が襲う事もなくなったんだ」


「ふーん、なんだかよくわかんないけど、不思議な話だね。でも。その若い人はそのあとどうなったの?」


「ああ、何処かに旅に出たらしい。きっと幸せに暮らしてるだろう。可愛い息子とな」


「ん? もしかして父さんだったの?」


「ハハハ。おとぎ話さおとぎ話。さて、作業に戻ろうか」



 ニコは父親の大きな背中を見つめながら、その不思議なおとぎ話を胸にしまいこんだ。




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リングランドのパステル工房 黒猫屋 @kuronecoyasan

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