第22話 ミトラ
「ちょっと確認な。お前の言う場所と地図を照らし会わせると、もうちょい南西だな。はあ、これからは道なき道ってやつだ」
ニールは磁針や地図などを使い、巧みに現在地を割り出し、確認をしながらぼやいた。
ニコはその様子を流石という風に感心しながら見たが、ニコの側を離れることなくついてきたアンドレアはその行動が不思議に見えたようだった。
「あ、あの、ニールさん?」
アンドレアがニールに恐る恐る声を掛けるとニールは不意をつかれたのか、きょとんとした表情でアンドレアを見た。
「初めて話しかけてもらえたな。ああ、そうだ、ニールでいいよ。呼び捨ててくれてかまわない、堅苦しいの嫌いなんだよ俺」
「え、ええ、では遠慮なくそう呼ばせてもらうわニール」
「そうだ、それでいい。気楽にいこうぜ門の外だしよ」
ニールは言葉を選ばずに、普段と変わらぬ調子でアンドレアに接した。
一方のアンドレアはニールの一見軽く見えるその調子を、出会ってからずっと苦手に思っていたのだが、門の外という心の琴線に触れるような言葉を聞いて、何かを思い出したか急に笑顔になり弾むような声でニールに返した。
「そうだったわね! ここは屋敷でもない、街でもない、籠の外だったわね。私、すっかり忘れていたわ、今は身分だとか気にしなくてもいいのよね!」
突然に豹変したアンドレアの姿にニコとニールは顔を見合せ笑いだした。
「で、何か俺に聞きたかったんだろ?」
「そうだったわ、また忘れてしまうところだった。なんだか私、外にでてからそそっかしくなったみたいね、色々な事がありすぎて。あ、そうそう、ニール、あなたさっき地図と磁針で現在地を知ったでしょ? あれが不思議でならなくて」
「へえ、変な所に興味持つんだな。あんなのは大したことないんだぜ? 遠くの目標物を決めてさ、こうしてこうやれば、ほら、この直線の交わった場所が現在地ってわけだ。やり方さえ知ればこんなのわっきゃないって。それよりも凄げーのがよ、ジプシーなんか星を読んで現在地を割り出すんだぜ。なんでも大昔の方法らしいけどな、今そんなことを出来るのはジプシーの奴らとえーと、なんだっけかな。ど忘れしちまった」
言葉に詰まったニールは首を傾げながら視線を上に逸らせた。
「星の民だよ」
ニコが間を置かずにニールをフォローした。
「そうそう、星の民。つまりミトラ古墳に住んでる奴等な」
「ミトラ? 聞いたことないわ、有名なのかしらその地は」
ニールは再び首を傾げ、記憶を手繰りながら話す。
「いるっちゃいるし、いないっちゃいない。あるようで無いし、無いのにある。ハハ、面白いだろ。ミトラのことを指す言葉だ」
アンドレアは自分の質問がはぐらかされたと思いぶすっとした表情になった。
「ニール、あなた意地悪よ、私がなにも知らないからってからかってるのね!」
笑って見ていたニコは、アンドレアが本当に怒りだす前に、ニールの足りない言葉の補足をすることにした。
「アンドレア、ニールの言った事は意地悪とかでなく、ミトラそのものなんだよ。リングランド北部、ノースランド公国との国境にある古墳群がミトラなんだ。さっきした父さんの話し覚えてる? あれもミトラに語り継がれる民話なんだ。
でね、ミトラの面白いのは、太陽は邪神だとかって考え方で、人々は昼間姿を表さないんだ。
太陽の姿が見える間は地下に広がる古代の都市で生活してるんだって。ずーっと昔の天変地異で地下に埋没した巨大都市に。
星読みの術や今では失われた技術なんかも沢山あるって話だけれど本当のとこは分からないんだ。
なんてったって会えないのだから。だからさっきのニールの言葉は嘘じゃないんだ、からかってるわけでもね」
ニールはアンドレアをチラチラ見ながら、どうだと言わんばかりの態度でニコの話に続いた。
「ミトラ周辺のジプシーはさ、元はミトラの民だったみたいだな。自分から出たのか追い出されたのかは分からないけど、幾つかの術を共有してるみたいだし。俺も星読みの術教えて欲しいもんだよ」
一通り説明を聞いたアンドレアは素朴な疑問を二人に投げ掛けると共に、自身の心中を吐露した。
「二人供、随分と詳しいのね。私が世間知らずだからその古墳の存在を知らなかったの? 学者先生にあれだけ勉学に勤しめと言われて近隣諸国の事は学んだのに、自国の事は何にも知らないだなんて滑稽だわ」
眉間にシワを寄せ、やや視線を落としたアンドレアに、ニコは優しい語り口で話す。
「知らなくて当然だよ。だってつい最近までただのおびただしい数の小高い丘だったんだもの。まさかその丘の下に古墳が隠れているなんてね、誰も想像出来なかったはずさ。ましてや人が暮らしているだなんてね」
「ああそうだな。俺だってジプシーから聞かなきゃミトラの事はわからなかったしな。っと、余計な話は又あとで。随分時間を食っちまったみたいだな」
と、ニールはそこで話を打ち切ると三人の後ろには、他の者が準備万端といった様子で馬に跨がり横一列になって待っていた。
そしてゴードンはニールとの事前の打ち合わせ通り、適格な指示をだした。
「スネイプル、話は済んだか。ここからはお前が先導してくれ。我等は警戒に徹するとしよう。
陣形は
ここからは道なき道を行く事になろう、話では湿地帯と聞く。いずれも慎重に進むように。では出発としよう」
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