第10話

「うおっ!」

 入った瞬間、頭の上を何かがかすめた。

 ――本だ。

 そう気づくと、さあっと血の気が引いた。

 だって、あの分厚い本だぞ? 当たったら、どうなるんだ……。

「お前はらんごだから、気にしなくてもいいだろ」

「欠けるだろ! 頭が!」

 あきれるように言うワードに、怒る。

「騒ぐな、図書館だぞ」

「いや、本が飛んでる時点でおかしいだろ」

 一応、声を小さめにしながらツッコむ。

 上を見ると、大小、様々な本が飛びかっている。

 なんで飛んでるんだ……? 読めないし。

「さて、とりあえず似たような話が書いてある本を探すか」

 ワードが前へ出る。

「え、でも飛んでるよ? 取れなくない?」

「ああ、飛んでいる本は気にするな。あれは、特別な許可がいる本だ」

 リュウが説明してくれるが、どうも納得いかない。

 特別な許可がいる本でも、なぜ飛ばす? というか、そういう本こそ丁重にあつかわなきゃいけないんじゃないか?

「おい、考えてる暇ないぞ。手伝え」

「あ、うん。どんな本を探せばいいの?」

 黒いもやに関する資料だろうけど……。

 どんな本に書かれているのか、さっぱり検討がつかない。

「うーん。一番いいのは、『世界時件名簿』だろうね」

 下から、ワードが答える。

 せかい……じ、けんめいぼ……?

 頭がはてなマークでうめつくされていると、リョウがあきれながら説明してくれた。

「それも知らないのか。『世界時件名簿』っていうのはな、世界でいつ、どこでなにがどうなったかをそれは詳しくのっている、いわば辞書だ」

「あ、それで以前にも似たようなことがあったか調べるんだね!」

 なーるほど。それなら、なにかしら収穫はありそうだ。

 ふと周りを見渡すと、構造は転生前の世界と変わりがなかった。

(司書さんぽい人もいるし、机で本読んでる人もいるな……)

「じゃあ、許可をとってくるか」

「あまって、オレがいく」

「は? 貴様じゃ力不足だ。私がいく」

「あぁ? そういうあんたも力不足なんじゃないの?」

 またもや険悪な雰囲気になりそうだったので、あわててとめる。

「ちょ、まってまって。なんの話よ? 許可って伝えるだけでしょ? そんな争わなくても……」

 ……なんでそんな、あきれるような目で見るんだ。

 とめただけなのに……。

「ほんっっっとになにも知らないんだね」

「あーいう本は、許可が必要だ。そして、その許可は……」

 リョウは少しためてから宙に飛びかう本たちを指さした。

「あの本を捕まえなければ、おりない。捕まえられなければ、読む資格がないという意味だからな」

 ……聞いてないんだけど。


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