第8話

「……というわけだが。手伝ってもらえるか?」

 静かな部屋。ワードのとなりにボクと、向かい合って座っている魔導師・リュウ。

 実は数分前のこと……。


 ボクたちは、ワードのところに戻ってきたんだけど……。

 立ち止まったボクを見て、リュウは首をかしげる。

「どうした? 入らぬのか?」

 いやー。ちょっとね……。

「うーん。リョウが入ってよ」

「あ、ああ。まあいいが……」

 リュウが扉に手をかけた瞬間。

 ドガッン!!

 リュウが後ろにふっとんだ。

「な、なんだ……⁉」

「帰って来た⁉ らんごはどこ‼」

 出て来たのは血相をかえた、ワードのお母さん。さすがに、リュウも後ずさる。

「な、なんだ。このご婦人は……」

 こそっとボクに耳打ちしてくる。

「あー、ちょっとめんどくさいんだけど……」

 そこまで言うと、ボクはリュウのポケットに飛び込む。

「あとはよろしく!」

「な、なぬっ⁉」

「あら、あなたは?」

 お母さんがこっちに気づいて、近づいてくる。

「あー。あ……」

 頑張れ、リュウ! 全てはお前にかかってる!

 リュウは、視線をおよがせていたが、深呼吸をすると、笑顔をつくった。

「初めまして。どうも、おとりこみちゅう申し訳ありません。実は、お宅の『ワード』さんにお話しをうかがいたく存じまして」

「うちのワードに?」

「はい。最近起きている不可解な現象のことで、調査しているんですけれども」

 お母さんは、しばらくうなっていたが、ニコッと笑った。

「そう。うちのワードに聞きに来てくれるなんて光栄よ。ワード、ちゃんと協力するのよ」

「あ、うん」

 ワードが、扉から少しだけ顔をだして、ぺこっとうなずいた。

「さて、あなた。帰りましょう」

「ああ。元気でな、ワード。フフフ……」

 不気味な笑みを残して、二人組は帰って行った……。


 てことで、今事情をうかがわれてる最中なんだけど……。

「ヤダ」

「なぜだ! こんなにも喜ばしい手伝いはないだろう⁉」

 さっきからこの繰り返し……。

 リュウは、黒いもやの調査を手伝ってほしいって言ったんだけど、ワードは「ヤダ」の一点張りで。

「だいたい。こっちだってひまじゃないんだ!」

「さっき、母上に協力すると言っていたのは誰だ! この薄情者!」

「はあ? あの状況じゃ、それ言うしかないでしょ! もうちょっと頭使ったら?」

「あ? なめるなよ小童。貴様より、私のほうが何千倍も強い」

「勝負したこともないのになに言ってんの? それともなに。やる気?」

「いいだろう。決闘だ」

 ちょちょ、どんどんヒートアップしていくんだけど!

「二人とも!やめなよ。とりあえず、店の合間に調査してみようよ。ワードもあの黒いもやのこと知りたいでしょ?」

 ワードはぐっとだまる。しばらくして、

「……わかったよ。協力する」

「ふむ。よいことだ」

 はあ……。こんなんで大丈夫かな……。

 ボクは、ひそかにため息をついた――。

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