第6話―エピローグ「スクラップ&ビルド」―

 世界は一度滅んだ。しかし、人間は死に絶えていない。故にもう一度世界は動き始めた。

 ゾンビはもういない。

 人々はもう死の恐怖と対面しなくて済んだのだ。

「あいつらに会うのも久々だな、恵奈」

「そうだね、純也」

 あれから3年、日本も世界も復興の一途を辿り、ある程度まで昔の生活を取り戻すことができていた。

 待ち行く人の数は以前よりも少ないが、それでも活気付いているように見える。

 俺と恵奈は夜の街を歩き、とある店へと向かう。居酒屋九龍だ。

「やっ、純也、恵奈、久しぶりだね」

「大智も久しぶりじゃんか。元気してたか?」

 九龍に着き、通された席ではすでに大智がいた。彼は枝豆を食みながら、ビール片手にもう晩酌を始めていたよう。

「もう始めちゃってるの? あたしたちも待っててよ」

「待とうかなと思ってたんだけど……やっぱ農作で疲れた体がビールを欲してさ」

 大智はあの後、日本の食を取り戻そうと農業の道へと進んだ。自ら田畑を耕し、死んだ土地でも育つよう種を改良した。

 今では日本の食を支える第一人者として雑誌によく取り上げられている。

「じゃあ僕もビールにしようかな」

 と、俺の背後で声が響いた。森崎だ。

 彼は昔のままのにやけ面。しかし格好は違った。パリッとしたスーツを着ている。

「森崎!」

「そういえば昇進したんだってね、おめでとう」

「ありがとう、恵奈くん。君のほうこそおめでとうだよ。無事教員免許取れたんだって?」

「あ、はい。来年からはあたしも先生です」

 森崎は自衛隊として二本だけでなく世界中の復興に携わっている。努力の甲斐あり、今では多くの部下を持つ隊長格だ。

 恵奈も努力し、夢であった教師の道を進んでいる。

「で、あとは紗英だけだな……」

「あーしはもういるでござるよぉ」

 掘りごたつの下からにゅっと這い出してきたのは紗英だ。彼女は以前にも増して不健康そうな目のクマに青白い顔。

「はぁ……やっぱり暗いところは落ち着くでござるよぉ……思わず寝落ちしかけたでござるからなぁ……徹夜明けはきついでござるぅ」

「そういやお前、もうすぐゲームがリリースするって言ってたな」

「リリース前だってのにバグが見つかって……てんやわんやでござる」

 紗英はゲームプログラマーとして多くのゲームを世に出している。

 どんな世界でも娯楽は必要だ。彼女のゲームは多くの人の心の癒しとなっている。

「ま、こんなところで立ってるのもあれだし、みんな座りなよ」

 大智の言葉にみんなで席に座る。

「ほんと久しぶりだな、みんな。変わってないようで何よりだ」

 見た目は変わっていないが、彼らのしていることは変わった。

 昔はただゾンビを倒し、自らのために日々を生き抜くことに必死だった。

 しかし今は人のために働いている。

「で、純也君はどうなんだい? 映画製作、うまくいってる?」

「あぁ、まぁまぁいい出来になってる。もうじき公開されるだろうな」

 俺は映画を作っている。

 あのゾンビパニックを舞台にした映画だ。

 もちろんただのゾンビ映画じゃない。あの日の事実を伝えるノンフィクション映画「ヘルス・オブ・ザ・デッド」。

 ノアのことを世界に公表するのだ、これ以上あの子のような犠牲を出さないために。

「そうか、ならあの子も報われるな」

 昔を思い出しながら話していると、酒が運ばれてきた。

「さて……じゃあ乾杯するか、平和になった世界と、俺たちの未来に!」

『乾杯!』

 世界の終わりが過ぎ、復興に向かう世界でも俺たちは戦っている。

 死んでいった者たちの魂を未来へ繋げるために。

 そう、俺たちはヒーローだ。

 人間という名の、ヒーローなのだ。


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ヘルス・オブ・ザ・デッド 木根間鉄男 @light4365

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