第4話―羞恥を爆発させろ!―
それから一週間が経過した。靂はユーリカの特訓のおかげでシミュレーションでは一人前のパイロットへと成長した。
実戦訓練も練習機でだが、らむねについてもらい何とか戦えるレベルまで成長した。
一方のナクアも毎日のように周りのベテランメカニックから怒られながらもその技術をモノにしている。
霹はいまだに目覚める様子がなく、彼女がアーサーを靂に託した真意もわからないまま。
そんな時だった、彼女たちのもとにササメからイーマン軍の襲来の一報がやってきたのだ。
その連絡を受け、彼女たちはササメの待つ操縦ブリッジへ。そこではすでにらむねも待機していた。
「レッキー、出撃するっすよぉ」
「出撃……本当に敵がやってきたんですか?」
靂はササメに尋ねた。彼女は少しうつむきがちに、こくり、頷いた。
「えぇ。敵はこちらに向かってきています。目標はアーサーでしょう」
「だが向こうはスピード重視の小編成だ! 返り討ちにしてやれ!」
「たいちょ~はそう言ってるっすけど油断は禁物じゃんよ。裏を返すと少人数でも奪還する自信があるってことなんっすからねぇ。ま、あーしが付いてるっすから、レッキーは練習通りやればいいじゃんよ」
「わかりました……それじゃあ、出撃します」
らむねとともにブリッジから出ようとした靂。しかしそれをナクアが呼び止めた。
「待って、靂。あれからアーサーのメンテナンスをしていてわかったことがあるんだ。アーサーの隠された力のことなんだ」
「アーサーの隠された力? ただのハイスペックな新型じゃないってこと?」
「そうなんだ。その力を引き出すためにはキミに……裸で出撃してもらう」
その言葉を聞いてわけがわからないとあんぐりと口を開けたのは靂だけではない。
その場の一同が皆、バカみたいに口をポカンと開けている。
「え、えっと……は、裸って……何かな? え? わ、私が? その……すっぽんぽんで?」
こくり、ナクアが頷く。髪の隙間から覗く瞳は真剣そのもので、とても冗談を言っている風ではない。
「がははははっ! 嘘だろう!? 全裸でアサルト・ギアを操縦するだとさ! がははっ! ダメだ、笑い死ぬっ!」
がはがはとバカ笑いするのはもちろん羽場だ。彼は瞳から涙をこぼし、腹を抱えるほど笑っている。
だが靂は笑えない。何せ自分が全裸で出撃しろ、と言われているのだから。
「ナクちゃん……さすがにはだかんぼで出撃しろはないっすよぉ。パイロットスーツを着てないと怪我するじゃぁん?」
「いえ、アーサーの力を発揮するには裸じゃないとだめなんです。エモーショナル・システム、それを発動させなければいけないので」
「エモーショナル・システム?」
靂は首をかしげた。らむねも首をかしげている。数々の機体を見てきた彼女も知らないシステムなのだ。
「アーサーのコックピットに搭載されていたシステムです。脳波を分析し、感情が大きく揺れ動くとそれと比例して機体の性能が上がっていくんです。つまり、パイロットの喜びや悲しみ、怒りなんかの強い感情でアーサーはパワーアップするんです」
「へぇ……で、なんで裸にならないとなの?」
「裸になると恥ずかしいでしょう? 喜びや怒りを常に維持するのは難しいからね。常に恥ずかしいという感情があれば機体は普段以上のパワーを発揮できる。それにこのシステムは脳波だけでなくパイロットの全身をスキャンして感情を読み取ることもできる。AIに搭載されたパターン、例えば脈が速くなったり、体温が上昇したり、そういうちょっとした変化で感情を割り出すこともできるけれど、パイロットスーツのような厚手のものを着ていればそれが遮られてしまう」
「でもそれだと下着でよくないっすかぁ?」
「何言ってるんですか? ロボットアニメだとキャラが裸になると機体の力を開放したり覚醒したりするんです! それと同じ理屈なんですよ!」
「い、いやぁ……あーしはオタクじゃないからわからないっすよぉ」
「いえ、ナクアの言ってることは一理あるかもしれません……確かにアクエリオンとかはたびたび裸になるし……」
「じゃあお前は裸で出撃するのか? がはは! その貧相な体つきでか? 笑いが止まらん!」
いまだ笑い転げる羽場を、靂は思い切り殴り飛ばした。当たり所が悪かったのだろう、羽場はきゅぅと意識を失ってしまう。
「パワーアップするなら出撃しますよ! 裸で! ……やっぱ恥ずかしいから下着でいい?」
「う~ん……まぁ、いいや。今日は下着で出撃して、また今度裸で出撃してもらう。そのデータを見比べてあまり変わりなかったら今度から下着でいいよ。でももし裸のほうがよかったら……」
「わ、わかったよぉ……」
どうかデータが同じでありますように、そう願いながら靂は整備室へと向かった。
「じゃあ服はこっちで回収するから、メカニックの人に渡してね」
「ねぇ、コックピットに置いてちゃダメかな?」
「いつでも服が着られるっていうのは最大の羞恥を引き出すシチュエーションには邪魔だよね? 置いていって」
「うぅ……鬼ぃ……」
靂は泣く泣く服を脱ぎ、下着姿のままコックピットへと乗り込んだ。
「うわっ!? な、なにこれ!? モニターが前と変わってる!? ぜ、全方位丸見えじゃん……」
コックピットに乗り、靂は驚いた。360度視界が確保されているせいだ。
前にアーサーに乗ったときはホログラムモニターに目の前の光景が映し出されていただけだった。だが、今はどこを向いても外の景色がわかる。
それにより自分が今コックピットにいるということを忘れてしまいそうだ。
「こ、これ、ほんとに外から見えてないよね……ほんとはモニターじゃなくてガラス張りだってオチ、無いよね?」
これではコックピット内でも外にいるのと感覚的に変わらない。
「うぅ、恥ずかしいよぉ……泣きたくなってきた……」
自分が外で露出しているみたいで靂の顔はリンゴのように真っ赤だ。もう少しすると破裂してしまうのではないかと思うほど。
「てかこんな格好になるんだったらもっと大人っぽい下着付けてきたらよかったなぁ……こんな柄が付いてるのなんて子供っぽいよね……それに体つきも……ナクアみたいなおっぱいあればなぁ……もうちょっと自信ありげに脱げたのに……」
彼女は自分の身体を見下ろす。胸の膨らみは少しだけ、すとーん、と足の付け根までしっかりと見える。
もしナクアであればつま先すら見えないのだろうなぁ、なんて思ってしまう。
『靂、用意はいい?』
ナクアの声が通信スピーカーから響く。
「あ、ごめん、全然準備してなかった」
靂は急いでホログラムコンソールを立ち上げ、出撃準備をする。
『レッキー、それじゃ行くっすよぉ!』
「は、はい! 戸崎靂、アーク・サーヴァント、出撃します!」
靂は操縦桿を思いきり倒した。その瞬間機体が勢いよく発進し、周りの景色が高速で背後へと過ぎ去っていく。
やがて彼女はまた、宇宙へ飛び出したのだった。
「うわぁ……すごい……宇宙と一体になったみたい」
360度モニターを搭載したことにより、靂は宇宙に立っているような錯覚を覚えた。
前を見ても後ろを見ても、上も下もどこを見ても星々の輝く幻想的なカンバス。その中に自分はいる。
その感動はひとしおだ。だが、それ以上にそんな幻想的な場で自分はなんて格好をしているのだという羞恥もあるが。
「こんな格好じゃなかったらもっと感動できたのになぁ……」
『レッキー、観光気分じゃダメっすよ。そんなにふらふらしてたら敵から丸見えじゃぁん?』
「は、はい、らむねさん!」
靂はハッとし、あたりに漂う岩石やスペースデブリに隠れながら辺りを捜索する。
この広大な宇宙では重力がないため、すべてのものが規則正しく動いている。そんな中ジェットパックを駆使し動き回るアサルト・ギアは見つかりやすい。
敵の居場所が何となくでしか掴めていない今は、こうして隠れながら辺りを観察して進むしかないのだ。
『あのあたりで偵察用のスペースドローンの反応が途絶えたんだ。敵はどこかに隠れているかもしれない。気をつけてね、靂』
「うん、わかったよナクア」
靂は辺りを警戒しながらゆっくりと進んでいく。
いつ敵が出てくるか、彼女はドキドキとしていた。
『レッキー、敵がいたっすよぉ! 斜め上、2時の方角っす!』
言われ靂はそちらを向いた。そこには彗星のように素早く動く5機のアサルト・ギアが。うち一機は桜色の小型の機体。彼らは黒いカンバスを裂くように一直線に靂たちのいる方へと飛んでくる。
「らむねさん! 攻撃しましょう!」
『ちょい待つしぃ。向こうはあーし達に気付てないみたいじゃぁん? だったらあーし達から飛び出す必要なくなくない? ここで待ち伏せるっすよぉ』
「待ち伏せ……わかりました」
彼女たちは近くの岩石に身を潜める。
ドクン、ドクン、靂の心臓が痛いほどに脈打っている。油断すれば心臓が口から飛び出てしまいそうな緊張。
ホログラムだというのに、操縦桿を握る手のひらに、じわぁっと汗が滲み始めていた。
「はぁはぁ……まだ、ですか?」
「まだっすよぉ……引き付けて引き付けて、狙い撃ちにするんっすよぉ」
だんだんと敵の機体との距離が縮んでいく。だがそれと比例して靂の心臓は恐怖を叫んでいる。
もし見つかってしまったらどうしよう、と。
バクバクと叫ぶ心臓の音が聞こえてしまっているかもしれない、緊張のせいで少し動いてしまうかもしれない、そんな不安が頭を支配する。
彼女はギュッと瞳を握り、祈った。どうか、どうかバレませんように、と。
その不安と恐怖が機体に伝播し、青紫色に発光する。
「お姉ちゃん……私に、力をください……!」
もう敵の機体は靂たちの目と鼻の先に。だがらむねはまだ合図をしない。
靂はもう突っ込んでしまいたくなるのを必死に抑え、岩の後ろで息を潜める。
そして彼女たちが隠れた岩を敵の機体が通り過ぎた時、ようやくらむねが合図を出した。
『行くっすよ、レッキー!』
らむねのテスラ・ステラは敵の背に思い切り斬りかかった。雷電を帯びた刃が敵の機体を切り裂き、爆裂する。
「わ、私も!」
らむねに続くべく、靂も岩陰から飛び出した。狙うは反応の遅れた一機だ。
アーサーが腰に下げたエクスカリバーの柄を抜く。その瞬間光が集まり、刃を形成した。
そしてその刃を、敵の機体へと向けて振り下ろす。
が、一瞬のためらいが彼女の手を止めた。また人を殺してしまう、何度も覚悟をしたつもりだったが、それでもやはり命の重みが彼女の手にのしかかってしまう。
『靂! 約束したよね!? ボクも一緒に背負ってあげる! だから戦って! 生きて帰ってきて!』
「そうだ……私は、ナクアのところに帰らなくちゃいけない! ナクアを守らなくちゃならない! だから、戦うんだ! もう、覚悟は十分だ!」
靂はためらいを捨てて、敵の機体を切りつけた。刃が一瞬のうちに敵の胴体を焼き切り、爆破させる。
「はぁはぁ……大丈夫……あなたの命が生まれ変わったとき平和な世界にしておくから……その世界に私が連れて行ってあげるから……だから今は安らかに眠って……」
彼女は震える手で強く操縦桿を握り、もう一機の敵へと斬りかかった。
アーサーの速度は前に靂が乗った時よりも圧倒的に上がっていた。エモーショナル・システムのおかげだ。
彼女の感情の振れ幅が機体を強くしている。
その速度から逃れられなかった機体はエクスカリバーの餌食となる。
『やるじゃぁん……あーしも負けてらんないっすよぉ!』
テスラ・ステラは腕の隙間から小型のナイフを撃ち出す。そのナイフが敵に突き刺さるが、そんな小型ナイフでは頑丈なアサルト・ギアには蚊に刺された程度のダメージしか与えられない。
ナイフが刺さった敵はテスラ・ステラをあざ笑うように突撃をかけた。
『あーしの攻撃がこれで終わりとでも思ってるんすかぁ? そんなわけ、ないじゃぁん!』
テスラ・ステラが装備した刀を天に掲げた。その瞬間、真っ暗な宇宙に閃光が走る、目が眩むほどの。
靂はそれに思わず目を細めてしまった。だが、わずかに開いた瞳が捉えていた、テスラ・ステラの攻撃を。
刃の先から迸った電流が、敵めがけてまるで獣のアギトみたく襲い掛かったのだ。いや、正確に言えば敵ではなく、敵に刺さったナイフに、だ。
あのナイフは避雷針の役割を果たしていたのだ。
雷鳴に呑まれた機体は内部からショートさせられ、動きを止めてしまう。
コックピットの生命維持装置もやられただろう、中のパイロットも生きてはいない。
「すごい……これがらむねさんの戦い方……私も負けてらんない!」
残るは桜色の小型アサルト・ギア、カリギュラⅣのみ。
靂はアーサーを駆り、カリギュラⅣへと飛びかかった。
だが、機動力を上げたアーサーでもその動きに追いつくのがやっとだ。カリギュラⅣは小型化、無駄の排除により徹底的に素早さを増した機体なのだ。
その速さは現存するアサルト・ギアで一、二を争うレベル。
『レッキー! あーしに任せるっすよぉ!』
テスラ・ステラが腕から連続でナイフを撃ち出した。ライフル銃の連射のようにナイフが撃ち放たれ続ける。
数撃てば当たる、とは誰が言ったか、そのうちの一つがカリギュラⅣの胴体へと突き刺さったのだ。
『刺さったっすねぇ。じゃあ、あーしの勝ちじゃぁん!』
らむねが勝利を確信したように得意げに叫び、剣先から雷を放出させた。
雷鳴のアギトがカリギュラⅣに襲い掛かる、その刹那だ。
カリギュラⅣは恐るべき速度で胸のナイフを引き抜き、それをテスラ・ステラに向けて投げ返したのだ。
雷が方向を変え、主に襲い掛かる。
「らむねさん!」
テスラ・ステラに雷が直撃した。青白い稲光に飲まれる機体は、やがて動かなくなる。
「らむねさん……まさか……死んじゃったの……?」
『レッキー……あーしはダイジョブっすよぉ。テスラ・ステラちゃんは雷を操るんす、電気対策はばっちりしてるっす。でも、やっぱりあーしの機体はすごいじゃぁん……操縦系統がショートして動けなくなってるじゃんよぉ』
動けなくなったらむねにとどめを刺すべく、カリギュラⅣは腕に搭載されたレーザーブレードを展開させ、襲い掛かった。
「らむねさんを死なせはしない!」
らむねを守るべく彼女の前に立ち塞がり、カリギュラⅣの攻撃を受け止める。そしてそのままカリギュラⅣを抱え、ジェットを噴かせた。
『レッキー!?』
「とにかく遠くに行きます! その間に救援を呼んで、らむねさんは逃げてください!」
らむねを逃がすため靂はカリギュラⅣとともに宇宙を駆ける。
やがてジェットパックがオーバーヒートを起こし、機体は止まった。
「ここまでくれば、大丈夫でしょ」
靂は辺りを見渡した。このあたりにはコロニーが一つもない。そして足元には、真っ青な地球が。
「うわぁ、地球かぁ……できればこんなシチュエーションで見たくなかったなぁ」
靂はアーサーのジェットパックのエンジンをパージさせ、予備のエンジンを手早く取り付けた。
そしてカリギュラⅣと向かい合う。
カリギュラⅣは両腕にレーザーブレードを展開させ、本気モードだとうかがえる。
コックピット越しに両者の瞳が交差したと思われたその瞬間が、勝負の始まりだ。
先に動いたのはカリギュラⅣだ。軽量さを生かしたスピードで一撃を入れては距離を取り、また一撃を食らわせては離れを繰り返す。
硬い装甲を持つアーサーには微弱なダメージにしかならないが、積み重ねられればたまったものではない。
アーサーは攻撃を加えようとするが、動きが素早く、さらに小さな的を狙うことは難しい。
「くっ……! 早いし小さいから攻撃が通らない! このまま動かずにいたら気付いたらハチの巣だ……こっちも動かなくちゃ!」
靂は機体を駆り、カリギュラⅣを追いかける。だがそのスピードにはあと一歩届かない。
エンジンを最大に吹かしても、届かないのだ。
「くっそぉ……なら、これで!」
靂はアーサーのエクスカリバーをしまい、腰に装備されたもう一つの装備、バズーカライフル、カリバーバスターを装備した。
バズーカから伸びる電極をアーサーの腕に差し込み、そこからエネルギーを供給させる。
コックピットのモニターにカリバーバスターのポインターが映る。それをカリギュラⅣにセットしたが、彼女はそこで手を止めた。
「もしこれを撃ったら、地球にも届く……?」
靂はカリバーバスターを使う際の注意をナクアから聞いていた。
『カリバーバスターは超高威力のバズーカライフルだよ。射線上の物はたいてい破壊できるエネルギー波を撃ち出せるんだ。でも気をつけて。もしその射線上に味方やコロニーがあればどうなるか……わかるよね?』
「もしこれを撃って、地球にまで届いたら……ううん! そんなことダメだ!」
彼女は首を振り、カリバーバスターを解除した。だが、その隙を突きカリギュラⅣが猛攻を仕掛けてくる。
コックピットが揺れ動く。疑似重力が靂の身体を固定しようと働くが、それも間に合わず彼女はコックピットの床に転んでしまう。
ホログラム操縦桿はどんな体勢でも彼女の手元に現れる。彼女は床に転んだまま操縦桿を引き、カリギュラⅣから距離を取った。
その隙に何とか立ち上がり、エクスカリバーをもう一度装備させる。
「ふぅ……これじゃダメだ……あいつより早くならないと……アーサーの性能じゃ追いつけない……ン? 性能……?」
彼女は思い出した、出撃前に聞いたことだ。
エモーショナル・システム、それがアーサーの性能を上げる。そしてそれは靂自身の感情に起因していることに。
「ねぇ、アーサー……もし私が裸になったら、あなたは力を貸してくれる? 多分私は、めっちゃ恥ずかしくなる。でも今の私は恥ずかしいってことより、あいつに負けてあなたが取られちゃうのが嫌なの……だから、私に力を貸して。私の羞恥を、全部平らげて!」
彼女は意を決して下着を脱ぎ去った。ついに彼女は、コックピット内で全裸になったのだ。
普段布で覆われている秘部が露わになる。何も覆わなくなり身体はすぅすぅとしているが、肌が熱く上気していく。
顔だけでなく、身体も羞恥で真っ赤に染まる。
誰にも見られていないはずなのに、見られている感覚。
いや、彼女の裸体を見ているものが一人、アーサーだ。
機械の瞳を通し彼女の身体状況をチェックし、計り知れぬ羞恥を検知したアーサーはその体をぎらぎらと真っ赤に輝かせた。
「ひぃ……やっぱり恥ずかしいよぉ……すぅすぅして変な感じ……でも何だろう……この解放感……! ちょっと、気持ちいい! 行くよ、アーサー!」
羞恥に赤く染まった彼女の手がアーサーの操縦桿を握る。その瞬間、アーサーはそれに応えるように、発光しジェットを噴かせた。
その速度は先ほどの比ではない。物凄い速度でカリギュラⅣを追い込み、連撃を加えていく。
これが羞恥を食らったアーサーの本当の力なのだ。
どんどんとカリギュラⅣに攻撃を食らわせ圧倒していく。
「行くよ、アーサー! 最後の一撃だぁ!」
アーサーは剣を高く振り上げてカリギュラⅣへととどめの一撃を食らわせる。だが、その一瞬だ。
カリギュラⅣはアーサーの身体に抱き着き、思い切りジェットを噴かせたのだ。
その向かう先は靂の故郷、地球だ。
「なっ、何するの!? このままじゃ大気圏に突入しちゃうよ! 下手したら二人とも死んじゃう!」
『へへ……アーク・サーヴァントが敵の手に渡るくらいなら……ここであたし共々燃やし尽くす!』
機体同士が重なり合うことで、コックピットのお互いの声が聞こえるようになったのだ。
「え……? 女の子……?」
『女だからどうした? あんたも女だろう? 戦場に男も女も関係ない! それに、今からあたしたち、死ぬんだからなおさら関係ないわ』
「し、死ぬ……? ダメ! アーサー! 早くこいつを離して!」
『無駄よ。もう地球の重力に捕らわれてる。ジェットに頼っても宇宙には逃げられない。あんたはここで死ぬのよ、あたしとね』
コックピット内にけたたましい警告音が響く。靂はジェット噴射などを試してみたが重力には逆らえない。
やがてモニターが赤く染まり、自分が大気圏に突入しているのだとわかった。
『はぁ……イーマンのためとはいえ、地球の重力に引かれて死ぬなんて……最悪ね』
「あぁ、神様……お願い……無事大気圏を突破させて……お姉ちゃん! 助けて!」
モニターがやられ、コックピットが真っ暗になる。その暗闇が彼女には死の闇のように思えた。
靂は床に膝を付き、神様に願った。どうか助けてほしい、と。
やがて大きな衝撃が機体に走り、彼女は思い切り頭をぶつけてしまう。そして彼女の意識はそのままコックピット内と同じ真っ暗な闇へと落ちていった。
「はぁはぁ……私、生きてる……?」
彼女はゆっくりと起き上がった。それと同時に、目の前にぼんやりとホログラムの操縦桿が現れる。
「ははは……コックピットはまだ生きてる……でもモニターはダメみたいだね……」
彼女は試しに操縦桿を動かしてみた。ぎぎぎ、と嫌な音がコックピットの外で響く。
「一応まだ動くみたい……よかった、無事に大気圏を突破できたんだ……」
彼女はほっと胸を撫で下ろした。が、その瞬間自分が裸だということに気が付いた。
カリギュラⅣとの戦いで下着を脱いでしまったのだ。
「ど、どうしよ! パ、パンツだけでも見つけないと! あぁ、もう! 暗くて何も見えないよぉ!」
彼女は暗闇の中、手探りで下着を探していく。だが、その時ふとコックピットの開閉スイッチに触れてしまい、眩い光がコックピット内に溢れこんだ。
それと同時に少女の声も、コックピット内に響き渡った。
「ようやく開いたわね! さぁ、観念するのよ、ザコな地球人!」
その声はカリギュラⅣのパイロット、ジュラのものだ。ジュラはハンドガンを構え、コックピット内に乗り込む。
「さぁ、おとなしくあたしの機体を……え……?」
「え……?」
だがそこで二人は目を合わせ、ぱちくりとその眼を瞬かせた。
ジュラが靂の身体を上から下までゆっくりと眺め、またも素っ頓狂な声を上げた。
「え……?」
靂もまた、自分の身体と相手の銃を交互に見て、素っ頓狂な声を上げた。
「え……?」
ジュラは自分の目をこすり、もう一度確かめるように靂の身体を上から下まで眺めた。
そしてワンテンポ遅れて、声を荒げて叫ぶ。
「はぁ!? なんであたしの機体に痴女が乗ってんの!? え!? へ、変態!」
靂はばっと自分の身体を隠すみたいにかがんで、声を荒げ返す。
「ち、違う! 痴女でも変態でもないよ!」
「はぁ!? その格好で違うってよく言えるね! コックピットに裸で乗ってさ! いろんなところに自分の擦り付けたりして気持ちよくなってたんでしょ!?」
「ち、違うって! 何もしてないって!」
「ナニしてないっていうなら、何してたのよ!? あぁもういいや! こんな変態地球人なんて撃ち殺しちゃえ!」
「ま、待って!」
ジュラはためらいなく引き金を引いた。だが、銃弾は出ない。
「あぁもう! 壊れてるじゃん! さいっあく! とにかく出て行ってよ、あたしの機体なんだから!」
「これ、私のなんだけど……」
「もとはあたしのなの! いいから、出て行けぇ!」
「お、お願い! パ、パンツだけでもいいから見つけさせてよ! 後生だからぁ!」
靂のお願いも届かず、ジュラによってコックピットから引きずり出されてしまった。
ギラギラと煌めく太陽が靂の裸体と辺り一面の銀世界を照らす。
「うぅ……どうしてこんなことにぃ……死にたいよぉ……」
「じゃあ殺してあげよっか?」
「いえ! 遠慮します!」
「まぁ殺すのは今じゃなくてもいいわね。ここがどこかわからないし、あたしの機体も動かない。当分は地球の案内役が必要だからね。で、あんた、ここ、どこよ」
靂はぐるり、と辺りを見渡す。だが周りはどこも雪に覆われた大地しかない。看板らしきものや、めぼしい建物もない。
「さぁ……? どこか私にもわかんないなぁ。ただ、こんなだだっ広い雪国って言うと、ロシアかカナダか……はっくしゅん! うぅ……寒い……あの……着るもの、貸してほしいんだけど」
大きなくしゃみとともに靂は鼻をすすった。こんな雪原に裸でいれば当然だ。
彼女の顔は青白く染まり、早くも末端の感覚が無くなってきている。
「はぁ……わかったわよ。ほんとは変態なんかにあたしの服着てほしくないけど、死んじゃいそうだし、特別よ」
彼女はそう言うと自分の機体に戻り、そこから袋に入った洋服一式を靂に差し出した。ちゃんと下着も靴も入っている。
「はい。あたしの替えの服。長期任務になることもあるから一応持ってたのよ。ありがたく思いなさいよ。ま、あんたの貧相な身体じゃ胸の部分スカスカになるかもだけど」
「一言多いよ……でも、ありがと。えっと……名前」
「はぁ? なんで敵に名前なんて……って思ったけど、長い付き合いになるかもだし教えておいてあげる。あたしはジュラ・イザナミ」
「ジュラ、ね。ありがとう、ジュラ。私は戸崎靂、よろしくね」
靂はジュラへと手を伸ばしたが、彼女はそれを払いのけた。
「地球の奴と仲良しこよしするなんてごめんだから。あたしはあんたを利用してる、それだけ。用が済めば殺すから」
こうして靂はジュラとともに雪原を歩き10分ほどが経過した。だが辺りの景色は一向に変わらない。
「何よ、この足に纏わりついてくる冷たいのは!」
「雪だよ。知らないの?」
「本でしか読んだことないわ。コロニーに雪なんて降らないもの」
「あぁ、そっか……確かに雪は降らないね。たまに雨は降るけど」
だがコロニーの雨は地球の気まぐれな雨と違い、定期的に降る。それはコロニー内の建物や地面の汚れを洗い流すためだ。
コロニーで雪が降らないのは、雪が何の役にも立たないからである。
「まったく、これだから地球は嫌なのよ……コロニーに比べて空気も汚いし」
「そうかな? 私は全然感じないよ。気のせいじゃない?」
「猿みたいなバカ面のあんたにはわからないでしょうね!」
「はいはい、それはごめんなさいね」
靂はこの10分でジュラのいなし方を覚えた。ジュラは地球に対して酷い嫌悪を持っている。
それを刺激してやると話がこじれてしまうので、靂は適当に流すことにした。
「待って、靂。何か音が聞こえない?」
「風が吹く音じゃない? コロニーじゃこんな強い風吹かないでしょ」
「違うわよ! 何か、機械のような音がする……それが近付いてるの!」
靂は言われ、耳を澄ましてみた。たなびく風に乗り、ぎゅらぎゅら、と機械的な音が聞こえてくる。
それは次第に彼女たちのほうへと近付いてきていた。
やがてその音は地面を揺さぶる轟音へと変わり、その主が彼女たちの前に現れる。
「あ、あれは、戦車だよ!」
「はぁ? 戦車? ……あぁ、思い出したわ。アサルト・ギアの前に主流になってた兵器よね。地球ではまだ動いてるのね。さすが野蛮人だわ、文明が進んでないのね」
「そんなこと言ってる場合!? 逃げるよ! たとえ昔の兵器だとしても丸腰じゃ殺されちゃうよ!」
靂はジュラの手を取り、駆けだした。背後からは戦車隊がぎゅらぎゅらと機械的なキャタピラ音を鳴らし近付いている。
さらにまずいことにその一機が砲弾を撃ち放ったのだ。
「嘘! 撃ってきた!?」
それは靂たちの右前方に着弾し、爆発。真っ黒な爆炎とともに真っ白な雪が宙に散らばった。
靂は戦車に狙われないようにジグザグと逃げ回る。
だが、いつの間にか手を引いていたはずのジュラが前方で靂の手を引いていた。
「あんた、遅いよ?」
「い、イーマンの体力ってすごい……」
雪上でも走り続けられるイーマンの運動神経に靂は驚くが、それもすぐになりを潜める。
今は一刻も早く後方の戦車隊をどうにかしなければならない。
「ジュラ! 私の機体まで走れる!?」
「はぁ? あたしの機体なんだけど!」
「今は私の機体なの! とにかく、アーサーはまだちょっとだけど動けるから、あいつらを倒せるかもしれない!」
「わかったわよ、ここで死んだら元も子もないからね!」
二人は全力で戦車から逃げきり、アーサーのもとまで辿り着いた。
靂は急いでコックピットに潜り込み、ホログラムコンソールを起動させた。
「あたしが操縦するの!」
「私のだって言ってるでしょ!? ジュラは外見てて。モニター壊れてるから外の様子がわからないの!」
「なんであたしが」
「死にたくないでしょ!? わがまま言わないの!」
「は~い……変態に怒鳴られた……」
靂は操縦桿を操り、アーサーの腰に下げたカリバーバスターを装着した。
腕に接続し、バズーカにエネルギーが充填されていく。
だが、コンソール上にエネルギー低下の警告が浮かび上がった。
「このままじゃエネルギーがなくなっちゃうけど、死ぬよりましよ! ジュラ、照準はどう?」
「もうちょっと下。うん、それくらい。それでちょっと右側に。あ、行き過ぎかも。うん、それくらい」
「本当に撃つからね! 死ぬほど痛いよ!」
バズーカの先端に集まる光、それを見ても戦車隊は退きはしなかった。
このまま本当に引き金を引けば多くの人が死んでしまう。しかし何もしなければ死ぬのは自分たちだ。
最終警告の光を無視した戦車隊に、ついに靂は覚悟を決めた。
「出てこなければ、やられなかったのに!」
アーサーがバズーカの引き金を引いた瞬間だ。朝焼けの如く眩い閃光が砲身から溢れ出し、戦車隊へと一直線に向かっていく。
その光は戦車をすべて包み込み、やがてそれが消えるころには包まれた戦車はどこにも見えなくなっていた。
「すっごいパワー。さすがあたしの機体ね!」
「私の……あぁ、もういいや」
一安心すると靂の身体にどっと疲れがやってきた。無理に雪上を走り回ったせいだ。
彼女はへたり、地面に座り込む。それと同時にホログラムコンソールも消えてしまう。
エネルギーをすべて撃ち尽くしてしまったせいだ。
「これから、どうしよ……誰か助けに来てくれるかな?」
靂がふとそう呟いた時だ。コックピットに軍服を着た男たちが乗り込んでくる。
彼らは皆銃を持ち、靂たちを取り囲んだ。
「大人しくしろ! この機体は我々、ソビエト革命軍がもらい受ける!」
「ソビエト革命軍……? じゃあ、ここはロシアか……」
「喋るな! 両手を上げて地面に伏せろ!」
銃に囲まれては勝ち目がない、靂は諦めて地面に伏せたがジュラはそうはいかなかった。
彼女は手近の兵士の銃を蹴り飛ばし、その顔面を殴り沈黙させる。
「なっ! こいつ、イーマンだ! 捕らえろ!」
ジュラを取り押さえるため軍人たちは彼女に襲い掛かる。だが、彼女は華麗な身のこなしでそれを避け、反撃に移った。
「はっ! 誰があんたたちに捕まるか! 地球のうすノロに捕まるあたしじゃないっての!」
ジュラは取り囲んでいる軍人を全てのして、コックピットの外へ。
しかし次の瞬間、彼女の短い悲鳴が聞こえた。
靂はこっそりと外の様子を窺う。アーサーを取り囲むように軍人たちが待機しており、飛び出してきたジュラに対して麻酔銃を撃ち放ったのだ。
「連れて行け」
周りとは違う軍服を着た右目の無い老爺、たぶん部隊のリーダーだろう、が命令し、ジュラは連れていかれてしまう。
あぁ、自分も連れていかれてしまうのだ、と観念した靂。しかし老爺は靂を優しく抱え起こし、懐から飲み物の入ったボトルを彼女に手渡した。
「さぁ、もう安心だ。イーマンは我々が捉えた。脅されていたのだろう? かわいそうに。さぁ、ウォッカだ。これを飲めば嫌なことはすぐに忘れられるぞ」
「い、いえ、その……未成年なので……遠慮しときます」
そうか、と老爺は悲しそうにボトルを懐にしまう。
「えっと……あなたたちは一体?」
「我々はソビエト革命軍。イーマンと戦う地球の部隊だよ」
老爺は自分をウルフと名乗った。本名ではないだろう。だが、年老いてなおギラギラと獲物を狙うハンターのような目付きは、確かに狼だ、と靂は思った。
靂はウルフたちに連れられ、海沿いのとある施設に辿り着いた。
「ついたぞ。ここがわしらの基地、アルゴーサナトリウムだ」
真っ白なその建物に通され、彼女はそこで毛皮のコートをもらう。
(このコート……ちょっと臭い? なんだろう……獣みたいな臭い……)
「どうだ、クマの毛皮のコートだ。温かいだろう?」
「クマ!?」
「あぁ。わしが狩った」
「そ、そう……」
靂はそっとクマのコートに触れる。もさもさとした手触りだ。
「災難だったな、キミも。イーマンに人質にされていたのだろう?」
「……はい?」
「戦車部隊の者が言っていたぞ。イーマンに無理やり連れていかれている女の子がいる、と」
靂は少し考える。
(そういえば、ジュラのほうが足早くて私が引っ張られてたっけ……たぶん勘違いしてるんだろうな)
「あの」
「いい、何も話さなくても。ほら、温かいスープを飲んでゆっくりしていきなさい」
そう言うとウルフは部下にスープを持ってこさせ、靂の前に。
温かな湯気を上げる赤色のスープ。湯気に混じり食欲をそそるトマトの香りが靂の鼻孔をくすぐった。
ぐぅ、と彼女の腹の虫が叫ぶ。それに従うようにすぐにスプーンを握り、スープを喉に流し込んだ。
トマトベースのスープに野菜のうまみがギュッと凝縮されている。靂はスプーンをさらに沈め、スープを掬う。
ごろり、と大きく角切りにされたお肉も入っていた。靂はそれをおいしそうに頬張る。
「おいしいなぁ……すごく煮込んであるんですね。濃厚な野菜の味がおいしいです。それにこのお肉もほろほろでおいしい。ちょっとクセのある味ですけど、何のお肉ですか?」
「あぁ、ウサギだよ」
「ウサギ!?」
「わしが狩った」
「は、はぁ……」
靂はウサギの肉を噛みしめながら思う。宇宙にまで進出する技術力があるというのに、この人たちはいまだに狩りなんてしているのだ、と。
心のうちまで見透かしてしまいそうなウルフの鋭い瞳が、ギラリ、輝いた。
「わしらがいまだ狩りをしている時代遅れだ、とでも言いたそうだな」
「っ!? げほげほっ!」
本当に心を見透かされ、靂は思わずむせ返ってしまう。
だが、ウルフは楽しそうにほっほ、と笑う。
「わしらが狩りをするのは暇つぶしだよ。ここは退屈だからね。だから刺激が欲しくてね、狩りに出るんだ」
「そ、そうなんですね……あれ? でもここは軍なんですよね。暇、なんですか?」
「あぁ。革命軍とは名ばかりの、行き遅れ集団さ。宇宙で戦おうにもアサルト・ギアなど操縦できない。もう老体には堪えるからね。だがイーマンとは戦いたい。だからこうしていつか来る地上戦のために部隊を率いているのだよ」
今度はウルフが寂しそうな目を浮かべた。靂にはそれが、まるで世間から忘れられたもののように思えた。
「さて、キミはどこの部隊に所属しているんだい? よければわしらが連絡を取ってやるぞ」
「あ、い、いえ、大丈夫です」
「本当か?」
「は、はい……墜落する前に仲間に連絡しましたから。多分迎えに来てくれるでしょう」
もちろん嘘だ。連絡などしていない。
だがここで靂は自分の所属を明かすわけにはいかない。何せ彼女は第三勢力なのだ。
一応、地球軍も敵ということになる。
(嘘吐いちゃったなぁ……ま、あとでこっそり連絡しよっと)
「では迎えが来るまでここでゆっくりしていくといい。キミのような若い女の子が楽しめるものは何もないと思うが……たまには本でも読みながらのんびりするのもいいだろうさ」
ウルフはそう言って、よっこらしょ、と重そうな腰を浮かせて部屋を出ていく。
靂はその背中に声をかけた。
「あの! ジュ、いや、私と一緒にいた女の子はどこに?」
尋ねるとウルフはまたも鋭く目を細め、彼女を睨んだ。
「知って、どうする?」
「い、いや、その……ちょっと気になっただけで……」
「キミには関係ないことだろう? それともなんだね、キミは忌まわしいイーマン共の肩を持つのかね? 可哀そうに、なんて思って?」
「あ、いえ……ただ、ほんとに気になっただけなんで……別に、教えてもらわなくても、大丈夫です……」
靂が引き下がると、ウルフは優しげな瞳に戻り、部屋を去っていく。
(ここのどこかにジュラが捕まってるんだ……助けなくちゃ……敵だけど、服ももらったし……それに、もしかしたら仲良くなれるかも……キミシマ先生もイーマンだけどこっちについてくれてるし、分かり合えるかも)
ジュラを探し出そう、靂はそう決めた。そのためにはまずは腹ごしらえだ。
彼女は残ったスープを急いで平らげ、部屋を飛び出した。
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