第11話 風邪


「…最悪」


僕としたことが自然学校の3日前に風邪をひいた。

朝からずっと喉が痛いのと体が重だるいのが辛い。



「じゃあ、お母さん仕事行ってくるから。何かあったら電話してね」


午前中休みをとってくれた母さんが家を出ると、静まり返った寝室ですることもなく目を閉じる。


朝から散々寝たせいか、眠れない。



「あー、今日最後の実行委員会だったな」


レンに謝罪の連絡を入れようとスマホを手に取るとたくさんの通知。




レン ゴサツちこくー?


三木 不在着信


佐藤 ゴサツ体調不良なん?


レン はい、今始業なりましたー


三木 不在着信


レン え、死んでる?おーい!


萩野 休みか


佐藤 休日は昨日で終わりやで


三木 不在着信


レン 今担任に聞いたわ、休みかーい


佐藤 三木が休み時間ごとに電話しとるのもしかしてゴサツ?笑笑


三木 不在着信


佐藤 やっべ、今授業中スマホ触っとるのバレるところやったわ笑


カルビ ゴサツ君休み?


レン ゴサツもしかしてみんなから連絡きてる?もうグループ作った方がいいね笑


佐藤 ゴサツ着信ごつくてすまんな、みんなが連絡しとったの知らんかったわ笑


松井さん ゴサツ君風邪?お大事に!!


レン グループ作ったからまた入って、とにかくお大事に。三木の電話は無視して笑


レンがあなたをグループに招待しました。


佐藤 安静にして寝ろよー


三木 不在着信




…ツッコミどころが多いけど。


しばらくして暗くなった画面にうつる自分の緩んだ顔から思わず目を逸らす。


謝罪は明日すればいいか。



誰にも返信せずもう一度ベッドの上で目を閉じる。







目が覚めると窓の外はオレンジ色で

なんだか無駄な一日を過ごしたようだ。


「…宿題だけ聞こ」


学校のある日に一日中寝ることへの幸福感よりも、抜けた授業や委員会の心配が勝ってしまう。




ピンポーン ピンポーン




こんな時に宅配かよ、と物理的にも精神的にも重い腰を上げて玄関に出る。


…覗き窓から訪問者を確認しようとしてやめた。



「おい、やっぱ寝てるって」

「さすがに迷惑だろ」

「もう来ちまったもんはしょうがないって」



…こいつら。


ガチャ



「おー!ゴサツー!来ちまった!」


今日は三木のでかい声がいつも以上に頭に響く。



そんな僕を察したのか


「ちょっ、三木うるさい。

…LINEも返ってこないから心配してたけど無事ならよかったわ」


と、レンがポカリとエネルギー補給用ゼリーの入った袋を差し出す。


「…え、ありがとう」


こいつはどこまでも完璧だな、と毎度の如く感心する。品物はありがたく受け取る。


そういや今日は何も食べてない。

 


「お金はまた返…」


「いや、母さんに持たされただけだから笑」


…もうここまでくると尊敬だ。

絶対自分で買ってるやつだろこれ。



「様子見に行こうって言ったんは萩野やで」


と佐藤が後ろに控えめにいる萩野を押し出す。


「体調悪いのにごめん…」

と本当に申し訳なさそうに言う。


「いや、全然。わざわざ家までどうも」


何も考えてなさそうな萩野の好意が素直に嬉しい。


もうちょっとマシなお礼が言えればよかったがあまり頭が回っていないのが事実。


…まあ普段でもこんなもんか。











「あら、誰か来てくれたのかしら」


帰宅した母さんがリビングでつぶやくのが聞こえる。おそらくテーブルの袋を見てのことだろう。



「高校のともだちー」


ベットで寝転んで漫画を読みながら叫ぶ。

熱はあるが朝よりはだいふマシになった。


「今時こんな気使える子がいるのねー」


「うん、僕もびっくりした」



ここでふと思い出してスマホを開く。


グループに参加のボタンを押して再び目を閉じる。




今日は5日分くらい寝よう。






それで明日からまたあいつらと騒ごう。



…騒ぐのはだいたい僕じゃないんだけど。

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結局のところ。 いずも @izumokku

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