第10話 カルビ

 


「班長が決まったら言いに来てくださーい」


ざわざわとした教室中に聞こえるように

教卓から大きな声で指示をするレン。



僕も実行委員だが

こういう目立つことはレンや三木に任せている。



まだ新しい環境で2週間も経っていないが、

3人以上というテキトーな条件での班編成は

そこまで難しいことではないようで安心する。



松井さんもいつのまにか友達ができていたようで

ショートカットの女子と一緒にしゃべっている。



「男子の班はほぼ決定してるみたいだけどなー」


と不思議そうに三木が言うのも納得で

女子の班はなかなか班長報告に来ない。


見た感じ仲が悪いわけではないが、

班自体もまだ決まっていないようだ。



「まだしっかりグループが確立してないときの女子って1番やっかいなんだよね、みんな仲良しって感じになっちゃって分裂できないんだよきっと」


さすがレン、なかなか鋭い考察である。


まあ真相は知らないけれど実行委員としては

次の決定事項に取りかかりたいところなのだが。




「あー、そういやオレらの班長どうするん?」


と、教卓に腰をかけ足をぶらぶらしている佐藤。



「実行委員はできるだけならない方がいいみたい」


僕が書類を見て言うと

スッと目線を逸らしたのは佐藤と萩野。



「えー、そんなんオレらどっちかしかおらんやん」


「やりたくは、ない」


「それはオレもや!どうせ面倒くさいこと頼まれて遊ぶ時間減るんやろ…」


僕としては実行委員を代わってくれるなら

喜んで班長の職を全うするが。



…と、


「ねぇ、あの、私たちも同じ班じゃだめかな?」


突然透き通ったような明るい声が聞こえた。



…松井さん?!

……と、知らない子。


「なんか女子の班決まらなくてさ、

 私ハルヒ以外は特に仲良い子いないし…」


ちらりと女子が集まっているのを見ながら話す。



揉めてはいないが話を取り仕切る人がおらず

頓着状態の女子たちが見える。



「なるほどね。3人はいないと班できないしね」


「…あ、でもさすがに迷惑か!ご、ごめん!」


大変そうだな、と女子の方を眺めていると

松井さんが我に帰ったかのように謝る。



迷惑とは思っていないが、こんな男子ばかりのむさ苦しい班でいいのかと逆に心配する。



「…え?全然迷惑じゃないけど!」


「おん!班長やってくれるなら、大丈夫やでー笑」


「うん!全然いいよ、逆に手際が良さそうな人たちがいてくれてありがたいし」


と、口々に言ったのは三木、佐藤、レン。



「え!ホント?ゴサツくんと萩野くんもいいの?」


と聞かれ、もちろん、と萩野と頷く。



あの3人には心の底から尊敬の念を送る。



僕も迷惑とは思っていなかったが、

さらっとフォローできるのが、羨ましい…





「…あ!えっと、この子は島津ハルヒちゃん!」


と、松井さんに紹介された島津さんは

ショートカットでクールな顔つきをしている。


松井さんとは違うタイプのかわいらしさだ。



僕たちもそれぞれ名乗ると、にこっと笑い


「島津です、好きなように呼んでください!」


と最後に危険なフレーズを放った。




「あだ名はオレに任せてー!」


…あ。


なんか出てきた。




「え、ありがとう!」


と嬉しそうな島津さん。


あー断った方がよかったよ、そこ。



「…島津ハルヒかー、うーん、ハルヒ、ハルヒ…」


経験者の僕は正直言って嫌な予感しかしない。


「……カルビ!響き似てるじゃん!」


「かるび?」






あほだ。






「いや、女の子にカルビはさす…」


「え!かわいい!ありがとう!!」



「おー、…ええんや笑」


と苦笑いの佐藤の横で笑顔の島津さん。



「かわいい!ハルヒからのカルビ!」


松井さんも楽しそうだ、…女子にはウケるのか。




「じゃ、チアキか島津さんか班長してくれる?」


流れを切るように質問するレン。


「おいー!今オレがカルビってつけただろー」


「…島津さん、ホントにいいの?」


と心配そうに確認するレンに大きく頷く島津さ…

………カルビ……さん?


…下の名前からきてるのに「さん」はおかしいか。




「じゃー、チアキか……カルビ笑、班長やる?」


…………カルビ、か。



結局松井さんが班長をやってくれることになった。




というわけで僕たちの班は

三木、佐藤、レン、萩野、松井さん、……カルビ


の7人班となった。






放課後、忘れ物を取りに教室に戻ると



「私あだ名つけられたの初めて。ハルちゃんとかはもちろんあるけど……なんていうかー」


「原型とどめてないあだ名ってこと?笑」


と松井さんと話す声が聞こえて思わず立ち止まる。





「そうそう……なんか新鮮で結構嬉しいかも!」


「あはは!嬉しいんならよかったね、

私もカルビって呼ぼっかなー笑」





……………よかったー。

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