第8話 奢り
不本意ながら委員会に参加している僕だが、真面目な性格ゆえ半分寝かけている三木の横でちゃんと先生の話を聞いてしまっているのが悔しい。
メモをとりながら委員会に参加しているレンは、誰かさんと違って頼りがいがありそうで安心する。
…まあ立候補したものとしては当たり前か。
第一回目の実行委員会は手短に済まされ、「目を通しておくように」と要項や実行委員の仕事が書かれた紙が配られた。
「班は男女関係なく3人以上か、高校生にもなるとなかなかテキトーなんだね」
と、メモを見ながらレンが言う。
先生の話によると自然学校では大部分を班員と過ごすらしい、つまり班決めはかなり重要となる。
男女関係なしか。…でも、
「入学してすぐだし自然に男女別になると思うんだけど。」
「たしかにね。でも気になる人がいる奴からすれば好都合ってわけだ」
なるほど、レンは僕と根本の思考が異なるようだ。そんなこと考えもしなかった。
そもそも気になる人を同じ班に誘う勇気と周りの目を気にしないメンタルをもってる奴しかそんなことできないが。
つまり僕はできないが。
……その勇気とメンタルの違いが僕とレンの差か。
「ゴサツとレンは気になってる奴とかいるわけ?」
委員会にほぼ参加してなかった奴が目を擦りながら口を開いた。
「僕はいないよ。ほとんど名前も分からないし」
僕は勘違いを防ぐために急いで答えたのに対し、レンがしばらく経っても何も言わない。
顔をのぞくとなにやら口が緩んでいる。
…ん?
「あれ、レン!お前早いなー!誰だよ誰だよ!」
眠そうだった三木が急に元気になった。
「ちょ、三木うるさい」
と言いながらも僕もレンの返答は気になる。
そのニヤけた顔の理由はなんだ。
「…オレね、」
「おーーーい!レーーン!」
突然廊下の方から聞こえてきた声で僕らの張り詰めた緊張感が解けてしまった。
「あ、チアキ」
声のする方を見ると松井さんがずんずんとこちらに向かってくる。
「あと5分でバス出るよ!これ逃したら30分後なんだから!早く!あ、ゴサツくん三木くんバイバイ!」
と早口で言いながら松井さんがレンを引っ張っていってしまった。
…ん?
「あれは…怪しいなぁー」
三木がわざとらしく拳を額に当ててながらニヤニヤしている。
何が怪しいのかはさすがの僕でも予測できる。
「それってつまりあの2人付き合ってるってこと?」
「さあねー」
目に入るだけでイライラする三木の顔を見ないようにしながら僕なりに推測する。
「いやでもそれなら中学が一緒だったっていう言い方する?付き合ってるって言わない?」
「公表するのが単に恥ずかしかったとかだろ!」
「…うーん」
残念ながら僕にはよく分からない世界だ。
「まあオレは付き合ってるに賭けるけどね!わざわざ一緒に帰るのはないっしょー!」
「帰る方向が同じってだけなんじゃないの?」
まあ明日本人に確かめればいいことだが。
「じゃあ負けた方がジュース奢りな!決まりー!」
1人で盛り上がっている三木を無視して僕はさっさと帰る用意を始める。
「…あ!ヤベ、オレ今金欠なんだった」
こいつは馬鹿なのか。
というか、せいぜい百円程度の出費が痛いほどの金欠ってなんなんだ。
「…別に何かを賭けなくてもいいんじゃない」
「いや!男に二言はない!」
…やはり彼は馬鹿なのかもしれない。
別に僕はどっちでもいいのだが。
「あー、なんとか来月分もらうしかないかー。いや、そんな弱気なことを考えるな!レンと松井さんは絶対できてる!」
教室の窓からオレンジ色の光とともにあたたかい風が吹き込み、カーテンをひらひらと揺らす。
静かな教室で1人で騒ぐ馬鹿な奴は放っといてそろそろ帰路につこうと思う。
帰宅途中、何度か自動販売機が目に止まる。
その度に奢りってなんだか青春ぽいなとか思ってしまう僕も馬鹿なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます