第5話 まさかのサトウ

 入学早々つけられた妙なあだ名はその日のノリではなく正式に決定してしまったようで、僕は次の日からゴサツくんになってしまった。


「ゴサツー、おはよー!!!」


そんなにでかい声で叫ばれると知らないやつから変な目で見られるからやめてほしい。


まだ数回しか通っていない通学路が不安で早めに学校に着いたつもりだが三木がすでに来ているのは意外だ。


「ゴサツ、はよ」


と眠そうに言う萩野。


外見は無表情だがこれは確実に面白がっている。


とにかく僕が目指しているのはイジられキャラではないことだけは知っておいてほしい。


「おはよう、ゴサツくん!」


意外にも遅めに登校するタイプの松井さんは天使のような笑顔で挨拶してくれるがそのあだ名だけ訂正していただけたら幸いだ。


せめてこの悪い流れはこの3人までで断ち切らなければならない。


僕は悪目立ちはせず、程よく爽やかな男子高校生を目指しているのだ。


「松井さん、お、おはよ、」


しかしまだこのぱっちりした目にまっすぐ見つめられるのには慣れない。


この辺に関しての対応だけは三木を尊敬する。


「松井さんおっはよ〜!なぁ、さっき聞いたんだけど1年は入学してすぐに自然学校があるらしい!春だから山かな、山登りか?バーベキューか?!とにかく絶対に楽しいやつじゃん!な!」


朝からなかなかうるさいやつだ。



しかし三木がいい情報をくれた。


こういう仲を深める系行事のやっかいなところはやっぱり班編成だ。


それを決めるまでに無難なやつとある程度仲良くなる必要がある。


男女混合の班の可能性もあり得るから女子の様子も観察する必要がありそうだ。


始業まで周りを観察しているとやはりそれなりにグループができているようで、特に女子はその傾向が顕著だ。


ただ、松井さんは例外のようで1人で席に座って脚をぶらぶらさせながら本を読んでいる。



「あの、」


「ふぁっ!」


突然話しかけられて変な声が出てしまった。


「あの、名前聞いていい?あ、こういうのは自分から言うんか。オレは佐藤。佐藤ダイチ」


「えっ?」


思わず心の声が盛大に漏れてしまった。


「…あ、急に話しかけたんはごめん」


僕のひどく驚いた顔を見て必要のない謝罪をさせてしまったのが申し訳ない。


「いや、じゃなくて。あー……いや、なんでもない」


もちろんイケメンに声をかけてもらえたのは嬉しいことだが。


でも、、、え?


「…名前、佐藤?」


「…え、うん」



 ……うっそぉ



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る