第4話 ゴサツくん
しばらくの間があり、前の席の男子が次オレ?とでも言うように自分を指差してから
「えー、萩野コウっス。水泳やってます、よろしく」
と無愛想に言い放って首から小さくお辞儀する。
色黒でガタイがよく、松井さんとは対極に目に光がないからか少し恐怖を感じる。
街で見かけたら絶対に目を合わせたくないやつだ。
「よろしくー!水泳やってんのかぁ、めっちゃぽいわー!陸上か水泳かなって考えてた!」
三木の辞書に恐らく恐怖などと言う言葉はない。
しかし短めの自己紹介によりこの後のハードルを下げてくれたのだから個人的にはありがたいものだ。
などと考えてる間に流れ的に次は僕の番で、だいたい用意していたフレーズで手短に挨拶を済ます。
周りのそこそこいい感じの反応を確認して安堵。
と、そのとき
「えー!あだ名絶対五千円札だったやつじゃん!」
という三木の発言。
数秒間の沈黙。
「え、いや、初めて言われたけど…」
ヘラヘラしながらの予想外の発言に思わず目が泳ぎモゴモゴ話してしまう。
思い返してみてもそもそも僕はあだ名がつくようなキャラではない。
「え、初めて言われた!?マジー?じゃあ五千円札って呼ぼうぜ、なんかおもろいし!な、萩野!」
「…五千円札は長いだろ」
なぜ割と一般的な名字からわざわざ五千円札を連想したのか、なぜネーミングセンス皆無のあだ名になりかけているのか、なぜ三木が僕ではなく荻野に確認しているのか、なぜ萩野の論点がそこなのか、全てにおいて僕の思考はフリーズしていた。
考える気も起きなかったが。
「うん、たしかに呼びにくいかもねぇ…」
急に会話に参加して考え込む松井さんに嫌な予感。
「あ!じゃあゴサツくん!…とかどうかな?」
いや、松井さん。
あなたさっきまで緊張でガチガチでしたよね。
ゴサツくん…ガサツみたいで嫌だからやめていただきたいのが正直なところだが、
「え、めっちゃいい!松井さん天才じゃん!なんかかわいいし!おい、ゴサツ〜!笑」
「…じゃ、オレもゴサツって呼ぶ」
なんだか僕が抵抗する余地はなさそうだ。
ちらりと松井さんを見るとくすくすと笑って楽しそうにしている。
僕は苦笑するしかなかった。
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