第3話 儚い系女子
入学式までのあいだでなんとか自分のレベルを及第点にはもっていこうと、近所の床屋でしか切ったことのなかった髪を勇気を出して駅前の小洒落た美容室で切ってもらった。
外見が特別変わったかは分からなかったが、店員や他のお客さんがみんなかっこよくてなんだか自分まで美意識が高くなったような気になり、調子に乗って勧められたワックスを買ってしまった。
我ながら典型的なカモである。
入学式は思ったよりも淡々と時間が過ぎ、人間観察をする暇もないまま気づいたらクラス分けされ担任の先導でそれぞれの教室に向かった。
周りを見る限り顔見知りのやつは1人もおらず、まあそちらの方が都合が良いのだが、運がいいのか悪いのか先日チェックした王道イケメンと塩顔のっぽイケメンも同じ教室にいた。
一応もう一度確認してみるがどちらもかなり顔面偏差値が高い。
塩顔の方も高身長マジックではなくちゃんとイケメンである。
担任はいかにもベテランそうなおばさんで、全体での自己紹介は後日にするからとりあえず近くの人と挨拶を交わすようにと指示された。
これは印象を決めるのにとてつもなく大事な瞬間だと意気込み、隣の男子に声をかけようとすると、
「どうもー!三木セイヤでっす!中学は青野中で小学生からバスケしかやってません!高校もたぶんバスケ部!元気だけが取り柄!よろしくー!」
隣から勢いの良すぎる自己紹介をされ分かりやすく戸惑ってしまう。
が、ここで狼狽えたような感じを出せば自分とは違う人種認定されることが目に見えている。
と、瞬時に判断した僕は頭をフル回転して必死にこの状況に対する正解を考える。
とりあえずは圧倒されてる感を出さないことを優先して同じようなことを返すか、と覚悟を決めたところで三木の前の席の女子がそっと口を開いた。
「えっと、松井チアキです。寺坂中出身でテニス部だったんだけど、あ、ゆるい部活で全然うまくはなかったんだけどね。高校ではまだ何に入るか決めてません!あ、えと、1年間よろしくおねがいしますっ」
緊張しながら頑張って話している途中で一瞬目が合い、思わず目を逸らしてしまった。
僕の何かが危ない、と黄色信号を出した。
長めの前髪からちらっとのぞいた大きな瞳に吸い込まれそうになった。
ぱっちりとした目、肩の下あたりまですとんと落ちたサラサラの髪、恥ずかしさからか少し赤く染まった透き通るような頬。
緊張からか語尾はかなり小さな声になっていたが、女子っぽい高めの声。
ジャンルで分けるとしたら儚い系女子だな、と冷静になるため一旦落ち着いて分析する。
「そんな、1年間なんて言わずに3年間よろしくでいいでしょー!笑」
と瞬時に言える三木を僕は尊敬する。
目が合っただけで動揺する僕とは違う人種だ。
「あ、そっか。じゃ、3年間よろしくね!」
そう言いながら松井さんが見渡す3、4人の中に僕も入っていることを嬉しく思う。
また一瞬目が合ってにこっと微笑まれる。
自然体でこの感じね…りょうかい。
これは経験値の低い僕が推測するに、自覚なくモテるやつだ。
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