第129話 ジャムを作ろう
シチューを食べながらなんとなく眼下を眺めています。
鹿や猪が時折山の稜線を横切る他は、木木木。木しか見えないから、普通なら直ぐに見飽きてしまう景色なのだけど。
ちょっと探し物がありまして。
娘達は飽きない様で3人して窓に顔を引っ付けて、あれこれはしゃいで居ます。ツリーさんの指定席は、私の肩から姫さんの肩にすっかりと移動した様です。
まぁ、オッさんのゴツゴツした肩よりは、柔らかい女性の肩の方が座り心地が良いでしょうけど。
などと、取り止めもなく機内と外を見比べていたら見つけた。
赤。緑の中に赤の色。
「ミズーリ。ちょいと行って来る。」
返事も聞かず、ドアを開けてひょいと飛び降りる。上空は山の高さを考えると500メートルくらい、山の稜線まで50メートルくらい。そのくらい飛び降りる事はすっかり慣れて、家族達も慌てる素振りすら見せない。
私が見つけた物。それは果実。別に万能さんに頼めばどうとでもなるけど、それじゃ味気ない。この世界の物を改良、改善して色々未来に進めたいんだ。
では着地。
も、つまらないから枝を掴んで大車輪一回転。狙いの枝に華麗に着地(誰も見てないけど)すると、目の前には赤い果実があります。
林檎に見えるけど、一回りいや二回り私が知っている林檎よりは小ぶりだな。
万能さん?
林檎に近い果実の原種です
食用可ですが やはり甘味にかけますね
ならば品種改良です。DNAごといじって二回り大きく、蜜入りにします。
周辺に何本か見える林檎の木を全部回収して万能さんに収納。さて、また植える場所を探そう。
しかし、枇杷と林檎って栽培の適温が違う筈だよな。私の乏しい知識では、林檎は寒いところ枇杷は暖かいところだった筈だけど。
そこら辺は本当に原種だからでしょう
商品果実として改良していくうちに適正な気候を経験として取捨選択されていったのでしょう
分かった様な分からない様な。
まぁ良いや。再びピョーンと飛んで飛行船に戻ろう。
「おかえり〜。何やってたの?」
林檎の木を見つけた。
「旦那様ぁ、林檎って渋くて酸っぱい奴ですよね。ペペペですわ。」
おや、林檎を食べる習慣があったのか。
「風邪を引いた時などに、すりおろした物などを乳母に食べさせられましたわ。」
何処の世界も同じ様だ。林檎はブドウ糖が豊富だから、発熱による疲労を補うって子供の頃聞いたけど、この林檎でも糖分摂取が出来るのかな?
さて、林檎の美味しさを味わって貰いましょう。
「まぁ、林檎も品種改良してますから、劇的に甘くなりますよ。」
と、蜜入りふじを3つ取り出した。シャリシャリとナイフでウサギに剥いて、娘達にご馳走する。ちっこい二本歯のフォークを添えた小皿を彼女達のテーブルに置く。
案の定の騒ぎが始まるのを横目に、1人考え事。
この世界には甘味が少ない。
というか調味料自体が乏しい。
塩分と糖分は生きていく為の大切な栄養素。内陸国でも適正な補給が出来る様にしたい。
塩は、岩塩を見つけた事にすれば良い(つまり適当な時期に適当な場所で作ります。)。砂糖は、常春な国だから気温も恐らく一年中今のまま一定だろう。…サトウキビが作れる気候ではないわなぁ。だとするとてん菜か。あれは北海道名産だった筈だ。とすると、日当たりが良ければこの国でもキクスイでも栽培は可能だな。
よし、決めた。
「次にする事が決まりました。」
シャリシャリんー。シャリシャリんー。
あの、聞いてますか?
「トールさんがこんなに美味しい林檎を出すからいけないのよ。なんで林檎の中に蜜があるのよ。」
品種改良してますから、蜜は林檎が自ら出した蜜です。究極の林檎は甘いんです。
その林檎の果樹園を作ろうかと。
「賛成賛成!旦那様!賛成ですわ。」
はい、1人堕ちた。
「枇杷の次は林檎かあ。でも森の人皆んなには行き渡らないわよね。」
別にキクスイで栽培しても構わないでしょう。その為の取引をしてるんだから。
そしてもう一つ。砂糖を作ります。
「さとお?」
姫さんは時々無垢で頓馬な顔をしますね。
砂糖は植物から精製しますから、とりあえず土塁の内側を耕して畑を拡張しましょう。
今、イリスさんが家畜の手配に走り回って居る筈です。
砂糖とミルク。これが揃えば甘くて美味しいスイーツが森でも沢山種類が作れます。
「(!!!)」
一番反応したのはツリーさんでした。
一番冷静なこの子も何気に甘いものを出されると、正気を失うんだよね。
という訳で、また枇杷の林に戻ってきました。風車が風を受けてゆったり回っています。
枇杷と隣接させない方がいいかな。
少し離れた、地形的に浅い谷というか切れ目の様な場所を見つけたので、ツリーさんの許可を得て南側の日当たりの良い斜面の木を移設しました。
万能さんから運んで来た12本の林檎を植えると、いくつかの原種の実が私の足元に落ちてました。林檎の木の贈り物かな。
では、林檎の遺伝子組換えをしましょう。
シャランラー。右手を振って完了です。
その林檎を拾うと、姫さんが酷い顔してペペペと言って来たので、酸っぱいんでしょう。
これはこれで後で使います。
ついでに枇杷の実もいくつかもぎって山を降ります。
帰宅後(と言っても我が家はいつもそこら辺で適当にふわふわ浮いてる、家屋が住所不定という珍しい家庭ですが)、私は1人厨房に立ちます。
今取ってきた林檎と枇杷をそれぞれ煮込みます。本当は砂糖で塗して一晩置くのが正しい作り方らしいのですが、私のやり方は最後に辻褄が合えば良いのでテキトーです。
大量の砂糖と一緒に林檎や枇杷を煮崩したら、万能さんの力で粗熱を取って冷蔵庫行き。
ペペペですわ、と一番嫌がっていた姫さんが、何故か私の側で私の料理をずっと見てました。
しばらくしてオーブンで軽くトーストした食パンを二欠片、娘達に渡して作ったジャムを試食して貰ったところにカピタンさん到着。
あゝ、よりによって姫さんが珍奇な踊りを踊っている。
「……まぁ、閣下の家庭の事ですから臣下の私にどうこう言う権利は有りませんが、姫閣下は何をされてるんですか?」
…誠に面目無い。これを食べさせたら踊り出しちゃったんだ。
と、林檎ジャム付きトーストをカピタンさんにも試食して貰った。
………姫さんと一緒に珍奇な踊りを踊り始めてしまった。
「話に戻ってもよろしいですか?」
「はい。」
「はい。」
狂気の時間が去った後、姫さんとカピタンさんは私の前で土下座しています。
私の手元には何故かハリセンがあります。
甘味が少ない国ですから、甘いは正義なのは分かります。姫さんがおかしくなるのはいつもの事だし、カピタンさんだってBBQで降伏した変な武人だしね。
そこで、この国でも砂糖を作ろうと思います。
「!」
「旦那様?ほんと?本当に砂糖が作れるの?」
考えてみれば、木を切らなくても開墾できる土地がたっぷりと余ってますから。
「土塁の内側の平地を開墾して頂きます。あそこは木の日当たりを考えて土塁を作ってありますし、内堀の水を容易に利用する事が出来ますから。」
なので、カピタンさんには、てん菜栽培の人員を選抜…。
大喜びで帰っちゃった。
あの人、今日の報告もしないで何しに来たんだろう。こちらもキクスイ王国との交流について報告があったのに。
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