第124話 空も飛べる筈
カピタンさんを追っ払ってふと気がついた。
兵隊さん達への指示が全部済んでた。キクスイ王国とのやり取り、農耕・畜産の準備。全部今すぐかたがつくものでの無し。後は基本的に大型工事だからなぁ。
いや別に官舎を建て直そうが、金山を掘ろうが、山の斜面を果樹園にしようが、別に私が疲れる訳じゃ無い。でも一度にやっちゃうと有り難みが無いと言うか。
それに幾ら広大だとは言え森の中、人が暮らす土地は限られているし、新技術が渋滞したら大混乱だろう。
先ずは物流に目処がついて、森の外との人流が終わってからだな。
と言う訳で、私は1人のんびりと読書の一日です。娘達は何やら女の子向けのアニメを見ています。
しばらく働き詰めだったし、今日はのんびりしましょう。
と、古典ミステリーを読み始めて数分。まだ淹れたコーヒーがまだ熱くて飲めないのにチャイムがなりました。
普段は門番の役目を買って出る「母ちゃん姫さん」が女の子の変身シーンに夢中になっているので私が応対します。
扉を開くと兵達さんが1人。おや、君は?
「王都に派遣された者です。姫閣下に、いや貴方様で良いのですね。キクスイ王家より至急の書状です。」
ふむ、どれどれ。
時候の挨拶、姫さんへの礼に続いて書かれている事は、〈怪我人達の異常〉についてだった。
怪我人の顔が固まってしまい、中には死ぬ者もいるが、治療法がわからない。と書かれている。
これは…破傷風ではないかな?
恐らく間違いないでしょう
この世界の医療レベルは中世以下ですし
外科内科以前に消毒の概念が有りません
なるほど。何処かの原住民がシャーマンを医師として、呪術を医療行為とする。
なんてのは聞いた事有ります。
でもそれって昭和中期のステロタイプな未開人のイメージですね。
どちらかと卑弥呼の時代のイメージの方が、今の時代穏便かな。
この世界は治療も原始的な精霊信仰ですから大差ないですね
しかし、破傷風か。ワクチンと抗生物質が有って初期治療が出来ればそれほど怖い病ではないけれど。
地震からもう結構、日が経っているし。
何しろ注射による接種とか出来る人なんか、この世界には存在しないだろう。
私も文系だし、オクスリもインシュリンにも縁がなかったしね。
そこで経口ワクチンを作ってみました
はい?
後、抗生物質も併せて一粒で服用出来ます
いや、私と万能さんですし、どこでも◯ア(とうとう言っちゃった)なんて明後日過ぎるフィクションの便利道具作っちゃったし。ただアレは私達だけの出オチだったけど。まぁ良いか。
この森の文明進化を進めちゃうと決心したんだ。
「おーい、姫さーん。」
「シャランラー。」
…絶句。古い。古過ぎる。懐かしのアニメ特集でしか知らない大昔の魔女っ子じゃないか。
何を見てるかと思いきや。(考えてみたらうちで魔法が使えないのは姫さんだけだったり)
「なんでしょうか、旦那様。」
「この方に褒美を。ワカメご飯のおにぎりと、鱈の西京焼きのお弁当が冷蔵庫に入っています。それと一枚書状を書くから署名をお願いします。」
「畏まりましたわ。」
「それと貴方。」
報告に来てくれた使者の兵隊さんに、その場で書いた書状を渡す。ちゃんと姫さんの署名と紋章を付けるのを忘れずに。
「貴方もお疲れでしょうから、別の兵でも結構ですが、この書状をキクスイ王家に届けて下さい。ミク・フォーリナー皇女が出来る限りの援助をしますと記してありますから。」
「お任せ下さい。」
使者さんはお弁当を貰うと、そのままキクスイに蜻蛉返りして行きました。別に貴方で無くても大丈夫なのに。無理しないでよ。
ところでこの駐屯地の医療体制はどうなっているんですか?姫さん?
「薬草をすり潰した物を塗ったり飲んだり。森の中は薬草が豊富ですから。」
つまり、特に内科の薬は漢方的な物しかないと。
そっちも整備しないとな。
というか、考えてみたら私達も旅をしてるのに薬を持ち歩くと言う事をしてないなぁ。
マスターと女神様はそもそも怪我も病気もしませんからねえ
なるほど、私達は反則な存在でしたね。
さてと、それじゃ救援の準備です。
万能さん特製経口ワクチンに消毒薬、毛布にテント、ベッド代わりの使い捨てマットレス(中身は藁)を用意しよう。
「でもこんなにあっても、馬車で運ぶには多すぎませんか。」
大丈夫ですよ姫さん。大量運搬船を作ります。
「え。川ってまだキクスイまで伸ばして無いですよね。」
船と言ってもプカプカ水の上でしか浮かばない訳では無いんですよ。
「トールさーん?今更止めやしないけど、本当にやるの?」
面白そうだろう?なぁに、どうせ責任を取るのは創造神だ。
「そういやそうね。でも、内燃機関は使わないんでしょうね。」
まぁ、万能さんの力で推進させますけど。内燃機関はどうしても自然に影響が出ますからね。
「段取りは全てキクスイ王家側に任せてある。あちら側の着陸地点を決めて物資を引き渡す。それだけの事だ。お互い高官の交歓不要と洒落を書状に書いておいた。一応こちらからは姫さんに出席して貰うけど、別にいつもの通り私達と一緒に過ごすだけの簡単なお仕事です。」
一通りのキクスイ救援について娘達に述べた後。
「という訳でこちら側の準備は終わった。終わっちゃった。なので、後は何しようか?取り敢えず私はミステリーとコーヒーに戻る。君達も今日は好きに過ごしましょうか。」とグータラ宣言。
「それでは旦那様。シャランラーですわ。さっきの続き続き。」
「あそうだ。ミク、ツリー、なんかジュースとデザート持って行こう。」
「(大賛成)」
やれやれ、私もコーヒーが冷めてしまったよ。新しく淹れ直そう。
お昼になりました。なってました。
こんなダラけた時間は、この世界に来て初めてかもしれません。
私はミステリーに、娘達は次から次へと魔女っ子アニメのハシゴをしている間に時間がダラダラと経っていました。
私達の生活はいつも無駄に賑やかですが、たまにはこんな日も良いですね。
さて、何を作ろうかな。
娘達の視聴の邪魔にならない様に、おにぎりかパンか。そうだ。菓子パンや惣菜パンを沢山作ってみよう。
粒餡、漉餡、鶯餡、クリーム、チョコクリーム、生クリームをお馴染みの丸いパンで。
アンパンには白胡麻と桜の花の塩漬けも乗せる本格仕様です。
惣菜パンは、コッペパン(手で丸めると小さくなっちゃうスカスカの給食パンが好み)を割り、ソースコロッケと唐揚げはキャベツを敷き、茹で卵にはマヨネーズたっぷりと。そうそう、マヨネーズと言えば粒コーンがあったな。惣菜パンは全部レンチンで美味しくしてあげよう。
変わり種で苺とキウイのフルーツサンドも。
娘達の前のテーブルに置いて、ピッチャーで牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳を並べるから後はご自由に。私はカレーパンを二つ作るとコーヒーを淹れ直してゆっくりと楽しむ事にします。
チビには特別に「ちゅー◯」もサービス。
一日二食で普段食べる事の無いお昼をたっぷりと食べたチビスケは私の足元でお昼寝タイム。アゴを私の足に乗せてグースカ。
カレーパンを食べ終えた私は2冊目のミステリーに取り掛かります。
あゝ至福の時だなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます