第111話 狩りの半日

森をぐるっと万里の長城で囲んだ訳ですが、一つ見落としていた事がありました。

野生動物の処理です。

彼らの移動を土塁で妨げた訳ですが、里や平原に出れないと言う事が生態系に影響しないかどうか。

ツリーさんに聞いてみました。

「(ここで暮らしている動物は、リスなどの小動物、猪、鹿、狸くらい。キクスイの様に、人に襲い掛かる肉食獣は居ない。雑食か草食ばかりで平原には出ないから大丈夫)」


強いて言えば、街の狩人が入って来れないから 間引きが出来ません


万能さんから付け足しがある。

それは軍に任せても問題はないだろう。

狩人さんの仕事を奪う事になる訳だけれども、それは街の為政者が解決すべき問題だ。

コレットの街と東部方面軍の兵糧攻め合戦という訳だ。

さて、だったら明日は狩りに行きますか。

この世界の食肉レベルを測っておきましょう。


翌朝、ミズーリと姫さんは入浴に、ツリーさんは私が作る和定食をワクワクしながら待ってます。

今朝は鯖の塩焼きです。昨夜の会話の流れで川魚でも良かったのですが、鮎とか虹鱒を朝から食べたくないなぁ。ピクニックの時に外で食べたい魚だなぁと思ったので。

大根おろしと醤油で頂きましょう。

いつもの茄子と胡瓜の浅漬けと、姫さんが気に入っていた生卵もつけて。


ツリーさんは飛び道具を使った狩りに抵抗はありますか?弓矢じゃなく、火薬というこの国(世界)には無い、かなり乱暴な薬品を使いますが。

「(動物達は苦しむの?)」

弓矢と同じです。急所に当たれば即死します。

「(ならいい)」

凄い音がしますからね。あと、匂いも。

「(分かった)」


「なんか最近ツリーとトールの距離が近い様な気がするの。」

お風呂から上がったミズーリが、髪の毛をバスタオルで拭きながら食卓につきます。

脱衣所にドライヤーあるでしょ。

「ドライヤーはミクが使ってるわ。あの子くせっ毛だから朝は大変なのよ。だから毎朝シャワー浴びてんの。」

へー。てっきり朝からいかがわしい事する為に風呂入ってんだと思ってた。

「否定はしないわ。」

しろよ。

「それより、物騒な思念が伝わって来たから飛び出て来たの。トール、ライフルを使う気?」

「言うまでもなく私だけ使うよ。君と姫さんには昨日作った弓矢を試して貰う。」

「ならいい。」

兵器の無条件進化は私的に厳禁事項だ。この世界の人は弱すぎる。 

「まあ、トールの事だからそんな浅慮は無いと分かってたけど、最近暴走気味だから。」

暴走女神に指摘されるとは心外だな。 

「どっちかがストップ役しとかないとね。」

だな。

耳栓も作っとくので3人で使う様に。

君ら用に小型のアーチェリーも作っとく。

素材はカーボンファイバー、弦は人工繊維、矢の素材はジュラルミン、鏃はステンレス、羽根は七面鳥。前世の競技用アーチェリーを調べて作ります。

私には同じく前世メーカーのカタログをあれこれ調べて軽量狩猟ライフルを作ります。

熊もイケるらしいけど、熊居ないみたいだし。

「ご飯の前に何やら賑やかですね。」

姫さんがしっとりとしたままお風呂から上がって来ました。 

「だって私だけ仲間はずれになってて寂しいじゃないですか。」

姫さん、実はかなりの寂しがり屋でした。


「このお魚も海のお魚なんですか?もぐもぐ。」

「そうです。傷みが早い魚ですから、流通網が未発達のこの国では私達しか食べられないでしょうね。」

「なるほど。真剣に食べねば。もぐもぐ。」

「トールさん、川魚でも似たような味の魚はあるでしょ。もぐもぐ。あれはどうなの?」

「鮭、鱒、鰻などは通し回遊魚と呼ばれている、淡水でも海水でも身体を慣らす事で生域場所を変える事が出来る魚で、確かに海水魚と似た味がする種類もある。けど、帝国は海から遠過ぎる。帝国の人が知らない味を似てるでしょうと言われても困るでしょう。」

「そうですね。私は旦那様のご飯が食べられますから、後はどうでもいいですわ。」

さすがは育ちの姫さん。何気に自分勝手です。

「いいんです。私は旦那様のご飯を食べる為にこの世に生を受けたんですから。」

随分安っぽい運命ですね。


ツリーさんの案内で、狩猟場所は山になりました。追うのでは無く、定点で待ち伏せしようと言う事です。素人のやる事ですから、怪我をしないようにと言う事です。

ただし、万能の私と森の精霊がいるパーティですから。

猪と鹿と山鳩があちらから来ましたので、ミズーリと姫さんがそれぞれ一羽ずつ。

矢も一本ずつで。

私が弾一発で、一頭ずつ仕留めるのに、大した時間はかかりません。しまった、万能過ぎるとつまらないじゃないか。


獲物の血抜きをします。

と言っても女の子が3人いますから、ブッシャーという訳にもいかす、地底湖から水を引きかけ流し方式の池を作って、中に漬けておきます。水の冷たさもあっていい具合に血抜きと締めが進むので、このまんま一晩放置。

明日は焼き鳥か何かにしましょうか。


しかし、午前中でやる事が無くなるとは。

娘達はAV装置から午後を楽しむ為のDVDソフト探し。

ミズーリがあれこれ選択中。

姫さんはチビにツリーさんが跨って部屋を散歩する姿が大好きみたいで、絨毯に半分埋もれながらねっ転がってニコニコ見ている。

私はと言うと。ミズーリのリクエストでラーメン作り。

「食べた事無いラーメンが食べたいです。」

との事なので、豚骨でいきましょうか。

でも、私が本場の細くて固い麺が苦手なので、逆に太麺を豚骨醤油で頂きましょう。

具は定番のチャーシュー・煮卵・メンマ(メンマもいずれ竹の子から作りたいですね)・ネギ。ネギは白髪ネギと輪切りの二種類を準備。白髪ネギのラー油掛けも美味しいね。辛子高菜も別器に、あと生ニンニクも絞り器も出しとこう。

さて、うちの娘達はどうなるかな。


結果、どうとでもなりました。

ミズーリは元々ニンニク大好きな女神でしたが、姫さんも辛いの大好きだったみたい。

高菜をそのままもしゃもしゃ食べて、ラーメンには3粒の絞った生ニンニクを落とし、更にはラー油で真っ赤になった白髪ネギをたっぷり乗っけて、美味しい、辛い、痛い、美味しい、卵甘いと大騒ぎしてました。

ツリーさんは適宜具を乗せて王道ラーメンをちゅるちゅる啜っていたし。

で、君らニンニク臭いから全員お風呂入って歯を磨いてらっしゃい。

私は何して過ごそうかな。

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