第110話 城塞化

カピタンさんが帰った後、私は3人を集めました。

「いよいよ始める事にします。」

「何を?」

「何をですか?」

「(何を?)」

「この森全体の防御力を上げます。」

「どうやって?森ったって広いわよ。」

「姫さんはわからないかな。ミズーリは堀と言う物を知っているね。」

「トールの国にある城や砦の防御施設よね。」

「ならば土塁は?」

「土手でしょ。」

「それを作るんだよ。」

万能さんとイメージを共用する。通常、土塁は掘った土を盛り上げて土手を作り、掘った部分を空堀として残す。

そこで土塁の両方向を掘り、外側を空堀・内側を水堀とする。水堀にするには色々水漏れ防止策が必要になるけれども、それは万能の力を持つ私。水漏れどころか循環させて、せせらぎを作ります。堀で魚の養殖もしちゃうのもいいね。しかも、土塁の外からは、川のせせらぎが何故起きているのかわからないオマケ付き。

いずれ堀の水を農業用水に使っても良い訳だし。

土塁の高さは大人3人分。空堀の深さは大人2人分で。土塁の上には逆茂木をつけたいな。ツリーさん、なんか手頃な植物ありませんか?

「(トゲトゲなら)」

いばらの野生種みたいですね。んじゃ、それを敷き詰めますか。水気は根っこを堀まで伸ばして貰います。ついでに空堀の方までトゲトゲを伸ばしてもらいましょ。


そっちは一つ考えがあります


万能さんの悪巧みを聞いて即採用。

では、日照を考えて森の外側5メートルのところに土塁工事開始、1秒後完了。

土木関係者の方には聞かせられない酷い話です。

あ、ついでに昔からの用水路も、土塁で外から独立してるし森側は通水させておこう。下水に落水させる様にすれば、生活用水にも使えるし。

「極力事なかれ主義のトールにしては随分と派手にいったわね。」

「???。」

「なんとなくね。これは万能さんの勧めでもあるんだ。」

「???。」

「この国に来てから、万能さん妙に積極的よね。」

「て言うか、万能さんよく怒ってる。」

「あの旦那様?何をされたんですか?」

「見たいかい?」

「はい。」

「ならば見せよう。万能さん家を高度上昇させて下さい。姫さんは窓から外を眺めて下さい。」

「はい、ええと、、…うわぁ。」

「何が見えますか?」

「あの、森の周りに池と土手が見えます。果てしなく向こうまで続いてます。」

この森の外周っておよそ500キロあるからね。

「こんなものを作って、旦那様の狙いはなんですか?」

「一つ、外から攻めてこようにも物理的に乗り越えるだけで一苦労。二つ、コレットの街に東部方面軍が敵対した心理的圧迫感を与えられる。三つ、豊富な水資源を利用して食糧調達や新しい産業が生まれる。そして。」

「そして?」

「私が楽しい。」(ゲームみたいで)

「同感。私も楽しいわ。」

「旦那様とミズーリ様に着いていくのは大変ですわ。私も頑張らないと。」

因みにツリーさんはなんだかご機嫌でした。


「土塁で防御壁を作った次はお城ね。江戸城の天守閣を再現しようよ。」

「いや、そんなもん作っている暇があるなら官舎だろう。半地下と言う事もありここの住宅環境はあまりに劣悪だ。」

怒りのあまりに姫さんを泣かすまで説教したのは記憶に新しい。

「次にカピタンさんが来たら、この駐屯地の住人編成を確認しよう。独身者・既婚者・性別。それによって戸建てか集合住宅かに分けられる。それに今私が勝手にこの森と帝国を分断したけど、別に監禁したいわけじゃない。里に帰りたい人、森を出ていきたい人の意思確認も必要になる。」

これでコマクサ侯や、或いは帝国軍本隊からもこの森を守る事が容易になる。

別に急ぐ必要はどこにもないしね。

一応、各調味料をマリンさんの為に大量補給しとこう。

砂糖・塩・醤油・味噌のさしせそを詰めたドラム缶を置いておく。そういえば、酢を使った料理はこの世界の人にご馳走した事無かったね。

今朝、話題になった事だし今晩は手巻き寿司にしよう。

先に言っとくが、お前ら脱ぐなよ。

「えー。」

「えー。」

「(えー。)」

えー、じゃない!


用意しますものは、ます酢飯と海苔。わさびはご自由に。

漬けマグロ・甘エビ・サーモン・いくら・イカ明太・納豆・きゅうり

変わり種で、ツナマヨネーズ・ローストビーフ・牛肉の時雨煮なんかも。

後は、自分で包んで醤油をつけて食べるだけ。

「生魚な駄目な様なら、野菜や肉の具材も用意しますよ。」

「大丈夫ですわ旦那様。ミズーリ様がぱんつを脱ぐと言った気持ちが分かります。初めて食べるお魚ばかりなのに、止まりません。どうしよう。この丸くて赤い粒々が口の中で弾ける感触が癖になります。」

「(この赤いお魚美味しい)」

「私なんかトールがお寿司をご馳走してくれると言われた時、おかしくなった覚えがあるわ。」

君は鰻とかステーキとかでも、おかしくなってましたね。

「ミズーリ様がおかしくなっちゃう様な料理で私達が正気を保つ事が出来るだろうか、いや出来ない(反語)。」

反語ギャグまでお姉ちゃんに習いましたか。

「このお魚を駐屯地のみんなにも食べさせてあげたいです。何処からか大量入手は出来ないでしょうか。或いは土手の池で育てるとか。」

「姫さんは海を知っているか?」

「塩っぱくて大きな湖ですね。3つくらい国を跨いだ先にあると聞いてます。」

なるほど、淡水・汽水・海水の区別はある様だ。 

「今日用意した魚は基本的に海のものばかりだ。つまり塩水でしか生きられない魚ばかりだ。私だから用意出来るが、そんなに遠方ならば腐敗してしまいこの国にいる以上、死ぬまで食べる事は無理だな。」

「…そうですか。」

「因みに淡水、つまり陸地の水にいる魚は大体臭みや寄生虫がいて生食には向かない。生だと毒のある魚もいるくらいだ。」

「…残念です。」

「そのかわり、陸の魚は陸の魚でしか味わえない料理方が沢山ある。美味しい魚をお堀に放して育てれば、いつか誰でも食べられる様になる。」

「美味しいですか?」

「美味しいです。」

あのね姫さん。私とミズーリがこの地を去った後、この国がどう変わるかわからないけど

姫さんやこの国の人が美味しいご飯を絶対に食べられる様にしていきますよ。絶対にね。

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