第109話 試し撃ち
少し広い空間を見つけて家を展開しておく。
今日の午後は自由時間、と宣言して各自好きな時間を過ごしてもらう事にした。
いや、普段も別に何かやる事ある訳でなし、誰かがトラブルを持って来るからそれに対処しているだけなんだけど。
何しろ私達が対処しちゃうと、トラブルが際限なく拡がり続けるか、トラブルを人も事項もまとめて物理的に叩き潰しちゃうかのどちらかなので。
何もしない時間というのは、私達にとってもこの世界にとっても大切なんだな。
という訳で、私は竹細工に精を出します。
我が家の三姉妹は、家の中でチビと戯れながらのんびりDVD鑑賞する様です。
竹林から採取して来た竹を縦にバリバリと裂き、長さを人より少し短いくらいに切り揃えます。
そこら辺の木から、枝を伐採して(ツリーさん認可済み、少しは枝切りも必要ですしね)同じ長さに切り揃えます。
竹はふた通りの太さに切り揃えて、細く裂いた竹を木から落とした木で挟み芯を作り、更にその芯を太い竹で挟む。
こうする事によって弓自体の強度が上がる、弓胎弓の完成です。
いや、知った様な事言ってますが、ただの元会社員が弓の作成法など知るわけなく、全部万能さんの受け売りですが。
弦はそこら辺に生えてる蔦で代用します。
矢尻は黒曜石の切り落とし、とか凝りたいのですが、今は矢とした竹の先を鋭角にしたもの。羽根は竹の葉っぱで代用しましょう。
改良は後で、です。さあ、試射してみよう。
的はゴミとなった竹のカスを適当に並べて。
とは言っても弓道部に居た事があるわけでなし、時代劇で見ただけですから見様見真似です。長い和弓を作った事もあってバランスを崩し、更に代用した蔓があっさり切れたので狙いが外れて木にあたりました。
…貫通しました。何故?
「(イタズラ)」
いつのまにかツリーさんが来てました。
森の精霊が、森を傷つけてどうするんですか。
「(幹じゃない、いずれ剪定が必要な枝)」
そうですか。
…最近、ツリーさんと普通に意思疎通が出来てるんですが?
「(トールさんの美味しいご飯を沢山食べたから)」
…まぁ、今更驚きも呆れもしませんけどね。
しかし、イタズラとは言え威力が凄いな。
「(私は先っぽの硬さを上げただけ、トールさんの弓矢自体がおかしい)」
…まぁ、今更驚きも呆れもしませんけどね。
その他に、背負い籠、わっぱ、ざる、あみ籠などをツリーさんと一緒にワイワイと作っていると
「あーーーー!。」
という叫び声が森の中に響きました。
ミズーリ、うるさい。
「知らないうちにツリーがトールと遊んでる。2人っきりで共同作業してるわ。」
「何ですって!いくら我が帝国が敬愛する森の精霊と言っても、許せる事と許せない事があるわ。」
いや、君達と違ってツリーさんはいつも私を気にかけてくれているだけですよ。
「しまった。」
「やられてしまったわ。」
なんでもいいですけどね。何か用ですか?
「あ、そうでした旦那様。カピタン将軍から連絡が入りました。昨日放ったキクスイ遠征隊の一部が帰隊したそうです。それを含めて相談したいと。」
私の有意義な午後はこうやって終わっていきます。
いつもの所に家を置いて待っていると、時期に扉がノックされます。
姫さんが出迎え、カピタンさんが1人入って来ました。
「余計な挨拶は抜きで、報告をお願いします。」
「はい、本日帰隊したのは2名。辺境の街にて商人と面談して来たそうです。見本に持たせた布と水に非常に興味を持ったそうで、継続的な取引を希望したとの話でした。」
シルクとウール、つまり蚕と羊がこの世界にいるのかどうか、これ重要。
万能さんに出してもらっても、養蚕牧畜の永続性が無いなら産業に出来ないからね。
「それと、水は完全に止まりました。閣下が掘って下さった井戸のおかげで動揺はありませんが。むしろ、閣下の水を飲んだら用水路の水など飲めないと言う意見しかありません。勿論、この水もキクスイの商人には好評で、もっと飲みたい、もっと買いたいとの事でした。」
「食糧はどうでしたか。」
「はい、コレットの街からは今日も補給は来ません。キクスイ商人からは余剰食糧を中心に貿易品にしたいと。」
「焦る必要はありません。いずれ自給自足が出来るまで考えていますが、キクスイ国民に影響が出るような無理な取引は絶対にしない様に。」
「伝えます。」
「こちらもこれから正式に手を打ちます。軍側も物を消費するだけではなく、物を増やす事を考えて下さい。例えばこれ。」
さっき作った弓矢や竹細工を渡します。
「これはこの森の中にある物で作りました。こう言った道具を作れば日常生活が便利になりますし、売れば食糧が買えます。」
ここで竹の子ご飯のおにぎりをカピタンさんに差し出します。
おかかと竹の子のおにぎりを瞬く間に完食したカピタンさんが物足りなさそうにしてますが、無視。
「これは同じ場所で採取した食材を調理した物です。今渡した弓は、現行のそれよりは威力・飛距離・耐久性が格段に上がっている筈です。昨日食べて貰ったキノコ。あれの養殖栽培も既にスタートしています。分かりますか?今、私達が始めた事は革命なんです。人を殺さず人を育てる革命なんです。」
カピタンさんの顔には「もう分かりません」と書いてありますが、
「カピタン。旦那様の言う事を聞いていれば、皆毎日美味しいご飯が食べられるのですよ。」
姫さんの一言で目に力が戻りました。
「まずは、幹部でキクスイとの取引の条件を書状にまとめて下さい。王都との折衝を最優先としますが、小さな取引ならば先行しても結構です。書状は姫さんに提出して下さい。軍司令もしくは皇女のサインで認可とします。」
「畏まりました。」
「それと。」
わっぱを3個カピタンさんに渡します。
「キクスイ遠征隊の兵に渡して下さい。私の祖国の郷土料理の一つです。彼らは今後この森の"国"の生命線です。いいですか?勝手に食べたりしないで必ず渡して下さい。不正が発覚したら、食べた者は絶食させますから。」
ビクンとしたカピタンさんは、背筋を伸ばして退室して行きました。危ない危ない。
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