第108話 竹の子掘り

ミズーリと姫さんは、毎朝の日課で入浴中。ツリーさんもいつもの場所で、私の朝食作りを見学中。今日も私達の「いつも」が始まります。

今朝は、昼乃至夜が竹の子尽くしになる事を考えて洋食にします。

新たに万能さんから取り寄せたのは、コレ。

ホットサンドメーカーです。

食パンにハムチーズを挟むだけ。

スライストマトやレタス、スクランブルエッグやハンバーグなども用意しておくから、あとは各自でお願いするという事で。

ツリーさん用に取り寄せたホットサンドメーカーはお子様おもちゃみたいでちょっと可愛い。私の一世代前には、ママ◯◯と言う商品目名の本当に使える家事玩具があったそうですが。

「溶けたチーズとハムがこんなに合うとは、ちょっとした発見だわ。」

「ミズーリ様、チーズとハンバーグも美味しいですわ。でみぐらすのソースを控えめにするとお肉の味が朝からガツンと来ますわ。」

「(卵美味しい)」

お風呂上がりの娘達がワイワイガヤガヤ自分好みのホットサンドを作っている。

昨夜の鉄板焼きと言い、自分で作る楽しみも知って欲しいな。

今度は手巻き寿司でも作ろうか?

「私は嬉しいからぱんつの一つも脱いで裸踊りをトールに披露する気満々だけど、生の海鮮物をミクが食べられるかしら。もぐもぐ。」

「生の海鮮物ってなんですか、もぐもぐ。」

「貝や魚を生で食べる事よ、もぐもぐ。 あ、焼けた。」

「生のお魚なんか食べられるのですか、もぐもぐ。」

「煮たり焼いたりするよりも、生食が美味しい魚もいるのよ、もぐもぐ。」

「食べられなかったら罰でぱんつを脱ぎますわ、もぐもぐ。」

「食べられて美味しかったらどうするの、もぐもぐ。」

「脱ぐに決まってますわ、もぐもぐ。あ、ハム卵が焼けた。」

あの、君たちねぇ。


朝ごはんを食べているうちに、竹林ゾーンに到着です。竹の子掘りは朝が基本ですから。

万能さんから鍬を取り寄せると、地面の微妙な盛り上がりを注視します。

初めて竹林を見る姫さんは、珍しい緑の丸い幹が不思議でキョロキョロしては、そこら中を触っています。

あれ?この世界の飛び道具って弓矢じゃないの?万能さん?


ただの木の枝を使用しています

携帯弓としては、それこそ石器時代から進化していません

ですから軍に於いてカタパルトが主流なわけです


カタパルトの動力というか投擲原理は?


馬と石と木材の組み合わせです


なるほど、カタパルトというよりは、トロイ戦争で出てきたみたいなバリスタが特異進化したと考えていいのかな。。


さて、武器よりも先ずは竹の子です。土の中に鍬を差し入れると、よいさっと土ごと引き起こしました。

来た来た。茶色いおべべを来た三角のお子様が。前世で言うところの孟宗竹に近い様です。ちょっと小ぶりかな。

ツリーさんが直ぐに皮を剥いで鍋に入れます。

ツリーさんと長さが変わらないけど。

竹の子を抱えてふわふわ飛んで行こうとする直前でストップ。そのままだと服が汚れますよ。

お人形遊びでもするように、万能さんから取り寄せたツナギを着て貰います。

いや、服の上から着れる様にサイズ調整してますから、脱ぐ必要はないですよ。

…なんで残念そうな顔するんですか?

私達のやりとりを見ていた上の娘達も、ツナギ着たい鍬振りたい竹の子煮たいと騒ぎ出したので、お揃いのツナギを着て鍬を渡しました。

鍋はツリーさんが仕切る様です。ただのアク抜きなんですけど。任せなさいですか。では任した!

姫さんは腰付きがふらふら安定せず、最初の2〜3本はとんでもないところから切断したりと勿体ない真似をしましたが、そこは本職は軍人。鍛えられているだけにみるみるうちに上達し、我が家の竹の子掘りエースになりました。

ミズーリは、まぁなんですか。一応、女神ですから基本的な肉体スペックはべら棒に高いんですが、何しろ頭脳は熟女でも身体は小学6年生。鍬を振り回すのではなく、鍬に振り回されている有り様なので。

しばらくすると竹の子掘りを諦めて、掘った竹の子の皮を剥いて鍋に入れる係になりました。

私と姫さんが竹の子を掘り、ミズーリが掘った竹の子を運び皮を剥き、ツリーさんがアク抜きをする。いつのまにか出来上がった連携プレーで、ほんの一時間のうちに周辺の竹の子は掘り尽くしました。

「やり過ぎちゃいましたか?」

「あゝ、姫さん大丈夫。明日になったらこのくらいまた生えてるから。」

「え"。」

竹って言うのはそう言う植物なんです。

ついでに、竹を何本か切り落として家の中に運んでおきます。

弓矢以外にもアレコレ作りましょう。

水煮にした竹の子は、鍋4杯分。

土佐煮、竹の子ご飯、お味噌汁、きんぴら、青椒肉絲、取り敢えず浮かぶのはこの辺でしょうかね。

水に浸けておくだけで暫くは保つし、和食メニューの時は色々使えそうです。


では最初は土佐煮から。

水煮の竹の子を鍋に入れて、醤油、みりん、調理酒で煮込むだけ。出汁は鰹の生り節を一口サイズに切った物をそのまま放り込みます。

煮上がった竹の子に、煮汁を浸した鰹節をたっぷりとふりかけて出来上がり。

竹の子ご飯は、釜に醤油、みりん、出汁の黄金トリオを加え、薄くスライスした竹の子と鰹節、ちょっと変化球にグリーンピースを加えて炊くだけ。

お味噌汁は、白味噌で細切りにした竹の子(細いマダケを輪切りにした方が好きなんだけど)に玉ねぎ、ワカメをたっぷり加えて煮込んで、さあ美味しいぞ。

食卓を春に統一する為に、ウド、ふきのとう、タラの芽の春野菜と、お子様味覚の娘達用にカニカマ、ソーセージの天ぷらをメインのおかずにします。

竹の子と春野菜の、春ご飯の出来上がり。

飲み物は気持ち的に緑茶で。お昼ですからアルコールは抜き。苦い春野菜の天ぷらでビールと行きたかったけどね。

野菜大好きお米大好きツリーさんは、もう夢中になって黙々と食べてます。

ミズーリはお味噌汁が気に入ったみたい。竹の子ご飯とお味噌汁を順々に楽しんでます。

姫さんはどうかというと、穂先の土佐煮と生り節をひたすら食べてます。

私は穂先より、根っこの方の固い部分が好き。

味の濃い料理が多い我が家では珍しい、醤油と出汁の和のテイストを味わう事にみんな夢中。

うちの娘達は殆ど話さず、ただご飯をおかわりして、ふきのとうの苦味を面白がり、今さっき収穫した竹の子を味わったのでした。

…ソーセージの天ぷらは、思ったよりも不評でしたけど。

「トール。今日は野菜の日なの。半端なお肉はいらない日なの。」

「そうか。なら私が全部片付けよう。」

「誰が食べないと言いましたか。肉は別腹なんです。」

結局、全部食べるのね。

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