第107話 開発計画

例えば、畜産。

例えば、農業。

例えば、鉱業。

1万という人間が居て、1万という人間を食わせ、1万という人間を稼がせる。

現在、私達が持ち合わせているのは、森と山だけ。

地底湖と豊富な水はあっても、漁業は出来ない。戦争は出来ても(BBQに降参する兵隊さんに出来るのかな?)、物作りは出来ない。こういう人達を育てて、森の中に一つの都市を作る。

実業を育てる。コレットの街を時代遅れに置いておく。

その為に、牛・豚・鶏・山羊を集める。

猪がいても豚を知らないし、ウールという素材自体を知らない世界ですから、豚・羊の存在も確認しないと。

森の中で、山で育てられる植物は、果樹・野菜・山菜。

ここら辺の「タネ」はキクスイ経由で集められないだろうか。

鉱業は金銀鉱山の再開発がある。

森の中とはいえ、林業は極力控えたい。

森の自然が豊富だからこそ、森の精霊が、人外の存在が生きていける。


あれこれと考えていると、ツリーが私の前に腰掛けて私の顔を見上げていた。

そんなに変な顔をしていましたか?

両手で自分の顔をぐにゃぐにゃ掻き回していると、ツリーさんが吹き出した。

あ、この子の笑った顔は初めて見たね。

さて、考え事はこのくらいにして晩御飯の準備に入りますか。

さっきからミズーリと姫さんが不思議な踊りを踊ってるし。

「トール。キノコだわ。あれだけ見せられたらキノコの口なの。キノコを所望するわ。」

だからその珍妙な天衝体操はなんですか?

「キノコの成長を表現しているの。」

「なんなら旦那様のキノコでも可ですわ。美味しく頂かせて貰いますわ。」

よりによって酷い下ネタを一国の姫さんが言いやがった。

それもミズーリと一緒に珍奇な天衝体操をしながら。

あゝもう、分かりましたよ。万能さん、アレを。

万能の力という物は今更ながら大した物で、前世でも食べた事の無い物を容易に取り寄せる事が出来る。つまり、松茸。

MATSUTAKE。である。味はしめじの方が良いらしいが、そもそも松茸自体にそんなに食経験がある訳では無いから分からない。茶色い袋のお吸い物ならよく飲んだけど。

松茸ご飯。土瓶蒸し。七輪炭火焼。を乏しい経験値をフル回転して作ります。

一緒に、鉄板焼きで椎茸・エリンギ・しめじのバター醤油焼きも行きます。

お上品な料理と、アブラギッシュなスタミナ料理の取り合わせですが、ミズーリと姫さんは鉄板焼きに夢中です。

2人して、鉄板にバターを敷いて椎茸に切れ目入れて、時々もやしも追加しながら、エリンギやしめじを手で引きちぎり、醤油を焦がして。

うみゃーうみゃーと、雌猫二匹が騒いでます。

姫さんってあれ、一応育ちの良いお嬢様だよな。すっかりミズーリの妹さんと化して真似ばかりしてるし。

私はちょっと大人しく、日本酒を熱燗でのんびりと頂きながら松茸を楽しんでます。

もう少し生きていたら、こんな晩酌を楽しむ夜もあったのでしょう。

え?ツリーさんも飲みたい?

いや、精霊の歳や身体は分かりませんけど飲酒は良くないと思うんですけど。

変な混ぜ物が無ければ大丈夫ですか。

よござんす。私が呑んでいるのは加水アルコール抜きの大吟醸酒。

万能さんの力が無ければ飲めない超希少な日本酒です。これならば大丈夫でしょう。

でも、小さな身体ですから控えめにね。

早速ツリーさん用お猪口をこさえて、ちょこんと乾杯。ツリーさんは松茸ご飯がお気に入りで、ご飯をアテに日本酒を呑むという愉快過ぎる精霊になってますが、特に酔う様子もなく、お酒もご飯も本当に美味しそうに飲み食いしています。

あっちの姉妹は味が濃いおかず大好きの味覚お子様ですが、こっちの末娘とは良い飲み友達になりそうです。


湯上がり後、彼女達は何故かホラー映画を見ていた。

この世界では、演劇・歌劇という物しかいわゆるエンタメはない。

書物はあるが、そもそもの識字率が決して高い世界ではないので、あくまでも限られた層への娯楽でしかない。

しかも精神耐性が非常に脆い生物であるからして、怖がる驚くという感情がよくわからないという。ならばとミズーリが持ち出したのは超古典の井戸から出てきてお皿を数える奴。よくぞそんな映画を見つけてきたもんだ。白黒じゃん。


私はテーブルで地図を広げている。

天界謹製マップルは、植生についてもリアルタイムで纏められていて非常に助かる。

帝国の地図を出しなさいと言ったら、久しぶりに創造神さんが

「あんまり派手にはやらないでね。」

と渋々持って来てくれた物だ。

ひょっとして創造神さんが直接調べて書いてるの?

ミルクを冷たく冷やした物をチビチビやっていると一つ面白い記述を見つけた。

ツリーさん、は映画に夢中になっているので、万能さんには確認した。あのさ、これって。


竹ですね バンブーですね

マスターの前世に生息していた物とほぼ同じです

この一帯は竹藪になっています


ここからの距離は


馬で2時間 家ごと飛んでいけば瞬時です


と、言うことはだ

竹の子、めんま、竹細工。

しかも竹は成長が早い。使っても使っても使いきれない。おし、明日の指針は決まり。

竹の子掘りです。

竹の子の水煮、竹の子ご飯、竹の子焼き、竹の子の刺身。

竹の子って下処理が面倒くさいから自分で料理した事無いし、春先に定食屋で食べるだけだったけど、今は時間も「力」もある。

明日はレクの日としましょう。


因みに姫さんとツリーさんは

「トイレに怖くて行けませ〜ん。」

「(コクコク)」

と、お約束通りの反応で私にしがみついて来ました。

いや、我が家のトイレはそこのドアを開ければそうなので、別に暗くて怖い廊下とか有りませんよ。

結果として、ドアを開けっ放しで用を足す馬鹿三姉妹がそこには居ました。

何故か私に見てろと強制しようとしましたが、全力で拒否しました。

下ネタだけじゃなく、変態性も帯びて来ちゃったかな。

こいつら早いとこ修正しないと。

結局、灯りをつけたまま寝る事になりました。やれやれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る