第104話 (無駄な)兵糧攻め開始

多幸感に呆然としたままの姫さんの目を覚ます為に、ミズーリが朝からお風呂に連れて行く。なんだか2日でもうルーティンワークになってしまった我が家です。

私はいつものように朝食の支度。ツリーさんは、私の邪魔にならない様に肩から降りるとテーブルの端に腰掛け私の調理姿を見ています。これもいつの間にか、それもいつもの風景に。小さな足に足をぶらぶらさせながら。

今日の朝御飯は私の好きな旅館風和定食。

ご飯にワカメ豆腐のお味噌汁。おかずは生卵、味付け海苔、納豆、お漬物。メインは肉より魚。さて、どの魚にしよう。鮭、鯵、鯖が参加した脳内トーナメントを勝ち抜いたのは鰯。メザシです干物です。

そして取り出したるは七輪です。炭焼です。

お魚の焼けた匂いが室内に広がると、馬鹿姉妹がお風呂から飛び出して来ました。

…あー。全裸に肩に掛けたバスタオル一丁で。

誰も取りやしないし、全員の分はちゃんとありますから、まずはぱんつを履きなさい。

「ぱんつよりご飯よ。」

「旦那様は何故私に無理矢理ぱんつを履かせるのですか?」

もう、朝から2人共何言っているのか分かりません。下ネタはミズーリの影響なのはともかく、2人が言うには毎晩同衾しながら一つも手を出してくれないのは女として悔しい、と言うアピールなんだそうですけど。

一通り裸を見せたら2人共ちゃっちゃと服を着てくれるのですが、そのくせ着ているところを見ると叱られます。

女心はよくわからない。

とは言えねぇ、ミズーリは知識こそ熟女(本人談)と言っても身体は思い切り小学生だし。姫さんは婚姻可能な年齢とはいえ、私の精神年齢は32歳なので前世で言うなら、おじさんが高校生に手を出す様なものだし。

それはちょっと倫理的にというか、良心的に色々引っ掛かるし。

それにいずれ私はこの国を出て行くしね。私の最終目的はミズーリを天界に帰して、元の世界に転生する事。万能さんは、2人共来世に連れて行けと言いますけどね。


なんなら森の精霊もお付けします

2人貰えばもう1人おまけのお得品


さて、お味噌汁の出汁は何にしましょうか。


マスターのヘタレ


うるさい。というか君、いつから冗談を言う様になったんだ。


「これがトール一番のお気に入り朝ごはん」

それを踏まえて彼女達は、納豆をカキカキ掻き回して、海苔を器用にご飯に巻いてミニ海苔巻きを作り、卵をご飯にかけてTKGにと大騒ぎ。

改めて我が家製卵の美味しさに気がついた姫さんは、掻き混ぜた卵だけを啜っている。こら、はしたないですよ。

それにしてもツリーさんは、お箸を本当に上手に使いこなしてますね。

お豆腐を掴めるのは大した物ですよ。

などといつも通りの寛ぎの時間を過ごしていると、ブーブーという間抜けな音がなった。

「あら、誰かしら。」

来客応対は姫さんの担当。桶に水を入れて覗くと

「カピタンさん、朝から何の用かしら。」

「姫閣下、閣下に面会をお願い出来ないでしょうか。」

「カピタンさんが旦那様にお会いしたいと申しております。」

あゝそういえば、家は今視認化不可能にして宙に浮いてるんだっけ

「姫さん、彼らにあと15歩下がる様に伝えて下さい。あと、駐屯地の建物配置図を用意する用伝えて下さい。」

「はい、旦那様。」

出てこい我が家ぁ。アイアイサー。

「そんなの何処で知ったのよ。」

「万能さん特製AVセットに付いてたアメリカ懐かしのアニメシリーズから。」

「トールって時々変よね。」

ふにゃこふにゃお先生の漫画を取り寄せてゲラゲラ笑ってる天界の女神に言われたくないなぁ。


今日来たのはカピタンさんだけかな。

「いえ、閣下ご要望の駐屯地平面図を取りに戻らせています。」

そうですか。まぁまぁ、駆けつけ一杯こちらをどうぞ。

「この茶色い汁は何ですかな。」

「カピタン将軍。旦那様が作って下さる旦那様の祖国のスープです。是非ご賞味あれ。」

ええと、いつもの騒ぎになった訳ですが、これは単純に歓迎式典なので。

そろそろ我が家のやり方も分かってきたでしょう。さて、本題です。どうしましたか?

用水路の水でも来なくなりましたか?

「何故それを?」

テンプレだなぁ

「ねぇ。もう少し考えたらいいのにね。」

「旦那様方は一昨日から予測されていました。なんか不思議です。」

帝国とか仰々しく名乗っても、帝国軍人で御座いって踏ん反り返っても、実は戦争とかした事ないんじゃ無い?

「確かに、我々の戦争経験という物は初代皇帝の統一戦争以外に有りません。我が軍の最初の実戦は閣下が相手でした。」

ハイハイ、姫さんからも言われましたよ。初代皇帝ってガストンさんだっけ?ファミレスみたいな人。それ、いつの事よ。

「今からざっと300年前になりますかな。」

あゝ。前世日本でも、戦国時代の大砲を幕末まで大切に保管していたエピソードがありましたね。

成る程、この国は停滞していて歴史に学ぶという事が無いんだ。ならば簡単に説明しましょう。

「セオリーですよ。人類が積み重ねて来た経験から学ぶセオリーです。どちらかと言うと、もう少し考えてくれると思ってたから、あちらの頭の悪さが残念です。」

「それよりこのスープは何が溶けているのでしょうか。初めて食べる物ですが、美味しいですな。」

水留めよりもお味噌汁か気になるあたり、すっかりカピタンさんも懐柔されてます。

あ、そういえばイリスさんとやらはどうしたのだろう。

「食堂から出て来ません。おかわりしまくりです。」

そうですか。あの人どんどん残念な参謀長に堕ちていくな。

みんなで仲良くお味噌汁を啜っていると、使いの者が平面図を持って来てくれました。

ご褒美にミルクを一杯差し上げて帰らせてます。


さて、平面図ですが、、、、、何コレ?

「おい!ミクさんよ、なんだこの基地。」

「ななななななななな何でしゃふか。だだだだだだだだだだた旦那様ゃ。」

私がちょっと声を荒げると姫さんの声が身体ごとひっくり返りました。

「いや、ダメだろう。何コレ。蛸部屋以下の酷い居住環境じゃねぇか。」

「えとあのその、ごめんなさいごめんなさい。脱げばいいですか?ご奉仕しますか?」

混乱している割には余裕があるじゃねぇか。

「閣下お待ち下さい。姫閣下は内部の環境整備の管理はしておりません。実務の足りない部分は私が責任を負っております。」 

「旦那様ごめんなさい。私が悪いんです。ごめんなさい。」

アレ、ちょっとやりすぎた?帝国高級軍人が2人して泣き出しちゃった。

とは言うものの、わかりやすく例えれば4畳半の部屋で20人も過ごしている。蛸部屋というか蚕棚だ。プライバシーも衛生環境もあったもんじゃ無い。

「姫さん。この住環境整備は私の一存で勝手にやります。いいですね。」

「はははははははははははい。だだだだだだだだだだた旦那様。どうぞご存分に。」

それは明日以降に回して、取り敢えず。

各宿舎と厨房に4本ずつ水道を引く事にしよう。万能さんよろしく。

案の定、家の外のそこら中から驚きというか、悲鳴が聞こえるけど無視無視。

ピーピー泣いてるカピタンさんに命令、キオツケ。

それだけで泣き止んでビシッと立て直したあたりは流石はプロの軍人ですね。

「カピタンさんに蛇口の使い方を教えてあげて下さい。」

姫さんは泣いてばかりいる子猫ちゃんなので、ミズーリが家のシンクで水道の使い方をレクチャーしてくれました。

「引き続きカピタン将軍に命じます。全居留者に30分以内に水道の使い方を教える様手配をして下さい。終わったらキクスイへ向かう選抜隊を荷車と共に集合させて下さい。」

改めて見事な敬礼を一つ、私達に決めるとさっきまで号泣してたとは思えない程、背筋を伸ばして退室して行きました。

さてと、姫さんを慰めないとな。

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