第105話 始まり
すっかりしょげてしまって、えぐえぐ泣いている姫さんを抱きしめてあげると、それだけで顔を真っ赤にしながら泣き止んでくれます。この子ひょっとして風邪くらいなら、抱きしめるだけで治るかもしれない。
男として最低な女心のもて遊びをしている自覚はありますよ。
でもね、私が叱る=私に捨てられる恐怖と言う公式を叩き込んでおくと話が早くなるんです。
「それって典型的な洗脳の手口じゃん。」
分かってますよミズーリ。今は我慢して貰いましょ。
さて、キクスイとの取引について考えましょう。現在、キクスイ王都は震災からの復旧がそろそろ始まる頃ですかね。
実は一つ思い付いている事があります。
私達が王都で殺しまくった鬼。アレの死骸を高価買取しちゃいます。
対価?それは金です。ゴールドです。
私の∞の財産も放出するわけですが、ちょっと気になった事がありまして。万能さんに確認したら、大正解だった事項がありました。
キクスイ側に廃坑となった金山がありましたね。しかし、この世界の技術レベルでは掘り起こせない金がまだ存在するのではないか。
更に金山があれば銀の産出も期待出来るのではないか。灰吹法や水銀アマルガム法など絶対に知らないだろうし。
という訳で万能さんを走らせて調べて貰ったら、金の露頭が帝国でも確認出来ました。
が、それは次の産業開発の一つに回します。今は私の財産放出で賄いましょう。
次に物資ですが、こちらとしては食糧が欲しい。あちらも炊き出しの為の食糧も必要でしょうから、王都近辺の町村では買占めが始まっているかも知れない。
その為というのは自慢しすぎになりますから、たまたま防犯の為に王都から離れた場所にトンネルを掘って正解でした。
田舎町経済がインフレにならない様、適切な買取を、それも各地に分散して行います。
場合によって、もしくは物資の内容によっては王都まで足を伸ばして貰います。
こちらから今出せる物資は、衣類・毛布と言った毛織物。地底湖の美味しい水。くらいかな。
まずしばらくは駐屯地に備蓄した食糧で凌げますし、金と物資であちらの商人に顔を繋いで貰う事を最重点課題とします。
ただし、こちらの提供する物資は、私(万能さん)特製の時代外れの最高級品質ばかり。
ウールやシルクといった物は、それ自体が存在しない世界の様ですし、たっぷり度肝を抜いて貰いましょう。
水を入れる容器は、10リッター入りプラスチックボトル。返還してくれたら高額の保証金も付けちゃえ。
復興支援用の建築資材は、運搬が大変だから、やはり鬼の死骸買取でいいか。
大理石や木材はツリーや森の人達との相談も必要になるだろうし。
さて、ここで姫さんの地位が生きてくる訳です。帝国第四皇女の名前と、こちらが差し出す金と物資。
まだまだ急がなくて良い。たっぷりと私達を、森の中の別世界の存在を売り込む事です。
という訳で、
ここにコレットの街との開戦を宣言します。
と言っても経済戦争です。
さて、一つ「時代をぶち壊す」遊びを始めましょうか。
と、その前に。
おにぎりを沢山準備します。具は鮭・梅・たらこ・昆布の定番品。おにぎりには海苔をこれでもかと巻き付けます。
おかずは、茹で卵(味付け)、昨日作った鳥の唐揚げ、椎茸と人参の煮物。
うちの三姉妹が涎垂らしてますが、あなた方への物じゃありません。というか泣きじゃくっていた筈の姫さんはすっかり元通りになってませんか?
これらを竹の皮で作ったお弁当箱に詰めます。
殺菌作用と、捨てても自然に帰るエコ素材。
飲み物くらいは自分で用意して貰いましょ。
時を置かずして、カピタンさんが手配したキクスイへの使節団が集合しました。
総勢20名。それぞれ荷車を引く馬に乗っています。
ここで用意したものを積み込み、それぞれの人脈と属性に従って向かう場所をカピタンさんと決めて行きます。
各町村に向かう者には特製地下水セットと金と、東部方面軍ミク・フォーリナー署名の文書。
王都に向かう者には救援物資一式と金と、帝国第四皇女+東部方面軍ミク・フォーリナーの紋章印付き署名文書。
そして各人にお弁当を配布すると、全員が平伏しました。私のお弁当は三葉葵の印籠ですか?
馬くんが引くチャリオットに乗る私達を先頭に荷馬車隊が森の中を行きます。
駐屯地からどう荷馬車隊をトンネルまで運ぼうかと思ってたのですが、
木を移動させましょか?
コクコク。
と言う万能さんの意見具申をツリーが許可してくれたので、皆に見えない様に家の裏からこっそり道を作っちゃいました。
「舗装とかしちゃおうかな。」
「ほそお?旦那様はまた何かしでかすおつもりですね。」
「コンクリート舗装とかしちゃうと、自然に対する影響とか大丈夫なの?」
「通気性、通水性に優れたアスファルト素材を使います。」
ど根性大根とかよく話題になってましたね。
だから植物は大丈夫。動物は、まぁ動けるし。では万能さんいきますよ。
音もなく大木達が脇に逸れ(相変わらず珍奇な日本語)、間を紺色のアスファルトが敷かれて行きました。勿論、既に温度は下がり硬化は完了しています。
では、出発。
知らないうちに出来た(今作った)新道に一行はどよめきますが、ショック死した人は居ません。みんな強くなったな。
凸凹や傾斜が殆ど無い道なので、馬に対する負担が少なく元気なままトンネルを抜けていきます。
昼過ぎにはトンネルを抜けてキクスイ領内に到着しました。
姫さんが改めて各人の目的と目的地を確認させると、お弁当を食べて良しの許可を出します。お礼を言われますが、此方の都合で動いて貰う訳ですから、このくらいはサービスしないとね。
私からも一言。
「今、キクスイ王国は未曾有の混乱の中にあります。今回のあなた方の任務はコレットの街以外からの食糧調達先の確保に有りますが、決して無理強いはしないで下さい。」
いざとなれば、私と万能さんでどうとでもなりますから。
「今回は顔繋ぎだけで大丈夫です。キクスイの商人と、役人と、農民と、狩人と、沢山の人と縁を紡いで下さい。結果はイリスさん(大丈夫かな)かカピタンさんに報告して下さい。あくまでも軍の下命では有りますが、帰国しましたら私特製のご飯をご馳走しますよ。」
その瞬間、恐ろしい程の歓声が草原に響き渡った。
馬鹿三姉妹まで一緒になって歓声を上げてますが、貴方達は毎食私が作ったご飯を食べているでしょう?
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