第99話 兵糧攻めには森の人

「今更ながら、私達の姫閣下はどんなお方にお嫁に行かれるのだろう。」

その婿候補(私)の顔を見ながら、カピタンさんがぶちぶち言い始めたので、外に追い出した。鬱陶しい。

ついでに荷車を準備させる。

万能さんから取り出して、ドラム缶に入れたのは、蜂蜜、レモン果汁、コンソメキューブ、干し葡萄、みかん。

改めてマリンさんを呼び出し、黒パンは食べ易い薄さにスライスしてレモン果汁に数分漬けておき、浸かったパンを焼いて蜂蜜を垂らす事。

スープは倉庫にある物を予定通りで良いからコンソメで煮込む事。

みかんは1人1個ずつ、干し葡萄はそのまま食べてもパンに乗せて食べても良い。

レシピを簡単にメモをさせると、マリンさんは大喜びで荷車引きの指揮を取って厨房に戻って行った。

カピタンさんにも指揮所に戻ってもらう。

コマクサの干渉がいつ始まるのかはわからないものの、東部方面軍が駐屯地に居る事がコレットの街に伝わるのは今日明日の事だとは容易に想像出来るからね。

どんな結論を出すにせよ、ある程度の態度と覚悟は決めておいてもらわないと。

あ、この桶持って行って下さい。必要な時はこの桶に水を張って呼んでくれれば即参上ですから。

「はあ。」

すっかり疲れ果てたカピタンさんは、私が冗談で頭に桶を被せたら、そのまんま帰って行った。


さて、とりあえず今日の仕事は終わりました。ので、家を非視認化しましょう。

2人とも、いや3人かな。お風呂に入っていらっしゃい。

「一緒に入って、私とミクの乱痴気騒ぎに混ざると言うのは?」

混ざりません。というか、とうとう乱痴気騒ぎと申しやがったか。

「あー、姫さんは、別に入るか?」

一応、気を使って声をかけてみた。

「お湯が勿体無いです。女は女で入ります。」

万能さんからお湯を引いているから、勿体無い事もないんですが、なんか所帯じみたお姫様ですね。

森の人は大丈夫ですかね。いやいやダメです、私とは一緒に入りませんよ。かわりにチビも連れてきますか?そうですか。

森の人はチビに跨るとお風呂場に消えていった。女神と皇女と精霊とポメラニアンが一緒にお風呂に入る。

相変わらず滅茶苦茶な我が家ですね。

さて、私は昨日読み損ねた漫画でも読みましょう。コーヒーも入れ直してね。


私がお風呂から上がると、森の人を始めとして全員席で私を待っていました。

チビ用にソファを並べる周到さです。

ま、こちらのチビは私と脳内会話で意思表示が出来る特製ポメに進化してますからね。

「トールさん。寝るにはまだ早いし、新しい事を始めるなら私達にも一言あって然るべきだと思うの。」

昼のBBQ騒動からここまで、超特急でしたからね。

私とはある程度意識共有が出来るミズーリには分かっているでしょうけど、帝国離脱を正式に宣言しちゃった姫さんと、半日留守番してた森の人には詳しく話した方が良い。

と、うちのへっぽこ女神が改まった訳だ。

その前に。

「まずは姫さんに問います。この国の気候を教えて下さい。」

「姫さんじゃないです。」

「…ミクさん教えて下さい。」

「さんはいりません。」

「…ミク。」

「はい、旦那様。」

やれやれ。

若干辿々しくも一生懸命に説明してくれて分かった事は、キクスイより南にあるとはいえ、基本的に常春である様だ。

降水量も大差ないと。

この森は広大だ。木は針葉樹が多い様に見受けられる。何より木々の一本一本が背が高い。ん?万能さん?


いわゆる熱帯雨林とは違います

降水量的には若干少なめかと


「さて、コマクサ侯が次に取ると予想される行動ですが。」

「まずは駐屯地への怒鳴り込みよね。」

「次は?」

「敵対行動。ミク?コマクサ侯の残りの戦力はどのくらいあるの?」

「せいぜい100。」

「力押しが出来ない訳だ。ならば次に取る手段ですが。」

「皇都から応援を呼ぶ、とかでしょうか。」

「ミク、それは多分ない。一万人以上がいる軍隊を制御出来ない地方領主。普通に考えれば無能を晒す訳じゃない。やるなら嫌がらせね。簡単に出来る嫌がらせが一つあるじゃない。」

「…………物資を止める、ですか。」

「そうね。これだけ大人数だもん。消費される物資だって並大抵の量じゃないわ。」

「もう一つ、ミクに質問です。駐屯地で使用される水はどうなっていますか?」

「いくつかの井戸もありますが、用水路に頼っています。!。まさか。」

「水止め。攻城戦における兵糧攻めでは基本中の基本です。」

「そんな。水を止められたら、井戸では対処出来る人数ではありません。」

途端にわたわたし出した姫さんだが、チビがテーブルを歩いて姫さんに落ち着く様に顔をペロリと舐める。チビは良く分かっているね。

「それをなんとかするのが私の役目だよ。降水量を聞いたのも、確認の一環だから。」

チビの慰めと、私やミズーリ、そして森の人の姿を見て姫さんは落ち着きを取り戻す。

「森の人に質問です。私が望むものが、この森にはありますね?」

森の人はコックリと頷いた。やはりか、まぁ無ければ万能さんとなんとかすれば良かっただけですけど、出来るだけ森の人との共同作業がしたかった。

「旦那様。先程兵糧攻めと仰いましたが、そちらは大丈夫なのですか?」

「うん、ここにこの駐屯地が現在抱えている量末在庫管理簿がある。」

「先程、カピタン達に持ち込ませた物ですね。」

「うん、これを見ると最後の米を食い尽くすのに、せいぜい3週間ってところだね。栄養面から見ると1週間保たない量だ。」

「通常ならば3日と経たずに補給が入りますから…それも旦那様ならなんとか出来るんですか?」

「普通、攻城戦に於いて兵糧攻めを行う場合、城の四方を包囲する必要がある。城内外との通商を遮断しないと兵糧攻めの意味がないからだ。しかし、我々の後方は山越えがあるにせよ全部開いている。キクスイとの貿易でいくらでも食糧を輸入することが出来る。」

「貿易には対価が必要になりますわ。それだけのものが私達にありますか?」

私は森の人の顔を見た。私の考えを読み取った森の人がコクリと頷く。

「それも大丈夫。今、キクスイ王都は地震により復興支援を募っている。その為の取引材料を私達は持っている。」

「そうですか。旦那様を信じて良いんですよね。」

「任せておきなさい。それにだ、もし兵糧攻めを始めると先に飢えるのはコレットの商人だろう。」

「あ。」

「そう、満単位の物流が止まった時何よりも困るのは、こんな帝国の辺境で卸売で食べている商人。恐らく莫大な利益を出しているだろうし。売上から発生する租税はコレットの街とコマクサの懐を潤わせてきただろう。それが止まれば、街の内部で内輪揉めが始まるかもね。」

「旦那様。結構エゲツない方でしたのね。」

「何。こんな事大した事じゃない。なんなら、コレットの街を逆に干上がらせてみようか?」

「あ、あの。正式に叛旗を起こすのですか?」

「うんにゃ。帝国全土より私達が強くなるだけですよ。別に攻めて行く必要なんかどこにもありません」

あ、ミズーリに笑われた。

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