第100話 やっと気づいた皇女様
「これからの、この地における行動指針を発表します。一つ、水源の確保と水道の整備。二つ、食糧の確保。三つ、産業の確保。四つ防衛体制の整備。どこまで必要になるか分かりませんが、やるなら文明レベルぶっちぎってやりたい放題します。森の人の力が大切になります。お願いしますね。」
森の人がコクリと頷く。
うーん。森の人と言うのも面倒ですね。彼女以外にもいる訳ですから。
お名前はなんと言うんですか?
森の人はブルブルと首を振る。つまり名前はないと。コクリ。
なら名前をつけましょうかね。
すると森の人は嬉しそうに私の顔に抱きついて来ました。
「名前をつける、受け入れるって行為は、隷属の意味を成す事なんだけど。まぁ精霊さん喜んでるからいいか。トールの第三夫人ね。」
うるさいミズーリ。さて、森の人だからフォレスト?だと姫さんのフォーリナーと被るし。森だから木、ツリー、うーん。え?ツリーでいい?
安易過ぎるんですが。
「喜んでるから大丈夫よ。トールが考えてくれた事が嬉しいみたいよ。」
「いいなぁ。旦那様にお名前貰えて。」
「何言ってるのよミク。これから子供の名前を沢山考えてもらわなきゃならないのよ。トールはこれから大変ね。」
うるさいミズーリ。Part2。
「と言う訳で、ツリーさん。貴方の力を頼りにしますよ。明日からトンネルを沢山掘ります。」
「トンネル〜ぅ?」
「トンネル〜ぅってなんですか?」
「掘れば分かる。というか鉱山があるのにトンネルが分からないんですか。まぁいいや。さて寝ましょう。」
「はあ。」
「で、ですね。姫さん。」
「はい。」
「これからベッドに入りますが、いやらしい事はしません。」
「えぇ〜!」
「若い娘が本気でブーイングしないの。そのかわりですね。今晩、貴方が味わう経験を大切にして下さい。もうミズーリもツリーも知っている体験です。昨日は姫さんがいやらしい事考えてばかりいたから分からなかったみたいですけどね。」
「いやらしい事考える前に寝ちゃったんですが。」
「今夜も最初から何もする気ありませんから、そう言う事でさっさと寝て下さい。」
ぶーぶー。ブーイングを馬鹿姉妹から食らった。いや、ツリーまでブーイングに混じってやがる。全く馬鹿三姉妹が。
失敗したかな?
翌朝、姫さんは私達と同時に起床したけれど、ぼうっとしたまま返事がない。
昨日の朝は割と目覚めが良く、同衾したのに手を出さなかった私に拗ねていたはず。
ミズーリは私と同衾する事に多幸感を得られると言っていたし、彼女からの反射か私自身も多幸感を感じた経験もあった。
森の人改めツリーさんは私の頭の上に腰掛けて、ゆったりと身繕いをしている。
ミズーリはチビにご飯をあげる為、さっさとベッドから出ていった。今日はカリカリではなく、缶詰を開ける様だ。
チビ大喜びでぴょんぴょん跳ねてる。
ベッドで身を起こしているのは私。姫さんは半開きの目で寝たまま私を見つめ、私の手を握っている。大体、多幸感って脳内麻薬の分泌によるものって言う認識が私の中にあるが、それは大抵達成感から来るもの、もしくは「オクスリ」だ。
ひょっとしてこの世界の人間には、常習性のある危険作用だったとか。
「それは大丈夫よ。多分ミクは逝っちゃってる状態だから。」
逝っちゃってると言うのはまさか?
「精神的オルガスムス。トールの様な男性にも訓練次第で出来るテクニックよね。肉体オルガスムスよりも女性には来るみたいよ。まだ思春期処女のミクには刺激が強すぎたかも。」
まだ見た目、小学生高学年の君に言われると、なんとも生々しくて引きますが。
「中身は何千歳の熟女だから、経験は無くとも耳年増ですから。」
自分で熟女って言っちゃったよ。
「と言う訳で。ミク!お風呂行くわよ。シャワーを浴びてシャキッとしなさい。」
「は、はい。ミズーリ様。」
反射的に返事をしたけど意識が朦朧としたまま姫さんは起き上がり、ミズーリに手を引かれて浴室に消えて行った。
大丈夫なのかな、なんですかツリーさん。ん?大丈夫。ですか。それよりも朝ごはんって。あの、本当に姫さん大丈夫なの?
「昨日のサンドイッチが美味しかったから、今朝もサンドイッチをキボンヌ。」
古いネット方言でミズーリがリクエストして行ったのでそうします。
昨日、サンドイッチを食べなかったツリーさんが肩の上で、私の手元を見ながらワクワクしていますし。
スライスチーズ、ゆで卵、トマト、ツナ、ローストチキン、レタスをパンで挟むだけの簡単クラブハウスサンドの出来上がり。
手抜きもいいとこだ。
野菜をコールスローサラダで補って、冷たいミルクと、昨日ミズーリが用意してくれたコーヒーを豆から入れました。
まもなく馬鹿姉妹が上気した顔でお風呂を上がってきました。相変わらず何をしてるんだか。
「旦那様!」
おや、姫さんが復活した様です。
「旦那様。何ですか昨日のアレ。どうしようどうしよう。なんだかわからないままわからないの。」
うん、私も貴方が何言ってるかわからない。
「なんかね凄い幸せだったの。旦那様がくれる幸せってミズーリ様が教えてくれたけど、なんかねわかんないの。」
大混乱中の姫さんを引きずってミズーリが席につき、まずはコーヒーをカップに注ぐ。
ツリーさんも自分の特製席で大人しく待っている事に初めて気がついた姫さんは、ツリーさんにごめんなさいと頭を下げて大人しく席についた。
「では、いただきます。」
「いただきます。」
「いただきます旦那様。」
「……(いただきます)。」
「もぐもぐ。なんで旦那様が作って下さるご飯はパンにしてもお米にしてもお野菜にしても、こんなに美味しいのですか。もぐもぐ。」
「(コクコク)。」
「それはね。ミク。この国では品種改良って言う事をしてないからよ。」
「品種改良ってなんですか?」
「お野菜とか、時々たまたま凄い美味しい一個があるでしょ。その苗や種を取っておいて、成長した時に花粉を掛け合わせるの。そうして何年も何年も試行錯誤していくと、美味しいお野菜と美味しいお野菜の融合で凄く美味しいお野菜が出来るの。お肉もそう。ミルクもそう。美味しい個体の掛け合わせでいつか美味しくなる事がある。トールの国では何年も何十年もかけて、美味しいご飯を作っているの。」
「なるほど。それは帝国でも取り入れたい技能ですね。」
「それは難しいわね。」
「何故ですか?ミズーリ様。」
「それはね。研究者から現場の農家まで、ある程度の教養が必要になるからよ。経験則をきちんと記録して、次世代への記録の積み重ねが必要になる。それだけ、人の教育って大切なの。
残念ながら帝国の教育レベルはさして高いとは思えないわね。」
「…。(残念です)」
それをなんとかしちゃおうと言うのが、今回の企てです。ただし、この森の中だけね。
この森に住む人には遥か未来の生活が出来る準備をしちゃいますさ
「はあ。あの旦那様、どうかお手柔らかに。」
善処します。
「いやあの。」
善処します。
「(こうなったら旦那様言う事聞きませんって分かって来ましたわ)…はい…。」
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