第98話 一つの気付きと朝ごはん

さて、明日の朝食について打ち合わせをしたいんですが、

なんでカピタンさん号泣してんの?

「ありがとうございます閣下。うええん、姫さまが、姫閣下が素敵なレディになられていて。刮目相待いたしましたぞ。ぐすぐす」

だから何でそんなマイナー四文字熟語を異世界の人が知ってるのよ。いい歳して声出して泣かないの。おじさん。


はい?何ですか万能さん?


恐らく、マスターの影響かと


は?


マスターに触れる事により、この世界の人類に掛かっていた、ある種のリミッターが外れたと思われます


私は姫さんには触れた事は何度かありますが、カピタンさんには触りたいとも思ってませんが、

…まさか


そのまさかかと、マスターの作った食事がこの世界の人々に影響を与えているのでしょう


どうしてそうなるのよ?


マスターの前世の人類にも、ルネサンスや産業革命など、爆発的な文化文明進化時期がありました

なんらかの事象がきっかけで、それまで抑えられていたものが決壊して進歩した

そんな説もありますね

人類のDNAに予め仕掛けられている時限爆弾説、トンデモ説の類いですが、DNAや脳医学は何しろまだ解明し切れていない分野です


万能な貴方が、解明されて無いって言っても説得力皆無なんですが


原理などわからなくても力は使えます

むしろ原理の説明つかないのが私です


あゝそうですか。開き直ったら勝ちですね。

大体、姫さんって何か賢くなったのかな。下ネタが増えたくらいしか思いつかないけど


マスターと同衾しましたし、本人は発情して気がつかなかった様ですがマスターの祝福もきちんと受けています 下ネタはミズーリ様の影響と思いますが、マスターからの好影響もあるはずですよ


ごめんなさい帝国の皆様、よりによって下ネタの女神が私の隣にいたせいで下ネタ皇女が出来上がっちゃいました

 

何言ってるのよ、神様なんて下ネタの実演者である事は知ってたでしょ


私と万能さんの脳内内緒話に勝手に入って来ないで下さいミズーリさん


恐らく今後、同衾を重ねマスターとの会話と経験を積み重ねていけば、ミク姫は帝国に名を残す名君になり得るでしょう

皇帝とならずとも、1人の母としても良妻賢母になりますよ。夫を立てつつも、生まれの宿命として人の上に立つもよし。

表に出ずして、夫と共に国を家庭を守るもよし

更にマスターとの性交・受精で、人として或いはマスターの眷属として、ステージが上がるのでは


なんですか、その胡散臭い信仰宗教とかセミナーみたいなキーワードは

そんなの全部後回しにしますよ

いいですか。万能さん、ミズーリ。

まずは朝ごはんです


朝ごはんより軽いお姫様の人生ってなんなのかしらね


黙りやがりなさいミズーリ

女神の人生も姫さんの人生も、今の私にとっては大差ない事くらい思いつきませんか?


えーと。どうやってトールに媚びたらいいのかしらね。とりあえず脱いでみると言うのは


もう見飽きました


しまった。まだ初体験をヤッてもいないのに倦怠期が来ちゃったわ。


ハイハイ


「明日の朝食は、黒パン、スープ、果物となっております。」

やっと打ち合わせが再開して、カピタンさんのを解説が始まる。

「黒パンはコレットの街より3日に一度届きます。今日はその3日目、硬くなっており兵には決して評判の良い物ではありません。スープは何のスープなのかは不明です。その時に残っている食材をそのまま煮込んだ塩味のスープです。果物は、明日まで補給が来ませんので恐らくは森の中で採取した物。この時期だと

無花果を一欠片って言う所でしょうか。」

「おいこら、東部方面軍最高司令官、ミク・フォーリナーさんよ。兵に碌なもん食わせてねぇじゃねぇか。」

「ご飯は肉体と精神の健康を保つ大切なエネルギー」、が私のモットーなので言葉の一つも乱れようと言うものです。

上に立つ者が食べさせないと言う事は、許されざる事なんです。

「そうは言いましても旦那様。これが私達の普通なんです。朝も昼も夜もきちんと食べて、美味しいお水や飲み物をいつでも飲める旦那様が特別なんですよ。それに…。」

それに?

「先程も私達の兵務について申し上げましたけど、キクスイ王国との国境警備や、森の警備という兵務に対し我が軍の規模が大き過ぎるんです。予算や補給という面で、どうしても無理が生じます。」

「生じますよね。ならばご飯を減らすという選択ですか。有事でも無いのにそんな選択を強いる無能な上官は誰ですか。」

「あ、あの。姫閣下を叱らないで下さい。姫閣下も、その上司の前では黙らざるを得ないんです。」

「まさかその上司というのはコマクサじゃ無いだろうね。」

「そのまさかです。旦那様。」

「まさかコマクサが強引な軍拡を押し広げたとか言わないだろうね。」

「そのまさかです。旦那様。」

「何故、そんな軍拡を進めた?その理由は?」

「分かりません。旦那様。」


…想像は付きますけどね。

だとしたら私にも考えがあります。

「カピタンさん?。」

「はい。」

「私達はしばらくこの駐屯地に滞在します。ただし、駐屯地のはどこに私達や姫さんがいるのかは内緒にします。どうせ私達が本気でかくれんぼしちゃうと、例えカピタンさんの目の前に居ても気がつかれない様に気配を消す事など容易い事です。」

「はあ。」

「そして、その間に私はこの駐屯地が完全独立・自給自足が出来る様にしておきます。カピタンさん達はコレットの街からの命令に対して自由に振舞って貰って結構です。先程のイリスさんでしたっけ?彼らとよく話し合い、自分達に取って最良と思われる選択を自由に取って頂いて結構です。私達はあなた方の選択に合わせて最良の改造をこの地に行います。必要がある無くなったと判断したら私達は勝手に出ていきます。」

「あの、必要が無くなったらとは?どの様な事なんでしょうか?」

私達が出て行く、という言葉にカピタンさんが不安になった様だ。口調に力が無くなった。

「私達はとある目的を持って帝国を通過している最中です。ところがとある縁が出来て彼女達の望みを出来るだけ叶えてあげたくなった。姫さんが私達に合流してなかったら、姫さんが姫さんで無かったら、恐らくこの駐屯地を全滅させてましたよ。」

全滅。

それは私達には容易い事。それを戦場で思い知っているカピタンさんから言葉が無くなった。ただ、少し不思議そうな顔をしているので、私は「彼女」を呼んだ。

彼女達の1人の、「彼女」だ。

彼女は人間の多さを嫌い、ずっと留守番をチビと一緒にしていた。

言うまでもなく森の人の事だ。森の人は、私が作ってあげた小さなベッドでずっと私達を見ていた。晩御飯に加わらなかった理由は、留守中に冷蔵庫の物をいくらでも飲食して良いと伝えておいたから。彼女はお腹いっぱい食べて飲んで、私達のトンチキ騒ぎを、将兵の腰を抜かす様をただ眺めていた。

私に呼ばれた森の人は、ふわふわと宙を飛び、私の肩にふんわりと腰掛ける。

人には絶対に近寄らない幻の森の精霊。

なのに、私に懐いている森の精霊。

既にカピタンさんの脳は焼き切れんばかり。

「私は彼女の願いも叶えたいんです。そのかわり、彼女も森の精の力を持って私に協力してくれています。私が、私達がこれから成す事はもしかしたら近視眼的には人を不幸にするやも知れません。でも、私達を簡単に排除しようとするならば、遠からず帝国の人民に不幸が訪れる。それは厳然たる事実になりますと、ここに宣言しておきますよ。」

幻と言われる森の精霊を肩に宿す転生者の私、死と転生を司る天界ので女神ミズーリ、彼の直属の上官であり第四皇女ミク。

静かに立ち上がった私達の姿に、東部方面軍五将軍のひとりカピタンさんはただ頭を垂れる事しか出来なかった。

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