第83話 森の人
確認事項が一つある。東部方面軍駐屯地をどうするかだ。
勿論、こちらからちょっかいを出す事は無いし、あちらからちょっかいをかけられたら粛々と撃退するだけであるけど。
ちょっかいかけられたら、かけられたで鬱陶しい。
姫さんに聞いてみた。
「東部方面軍は、基本的にキクスイ王国軍との備えとして設立された部隊です。
キクスイ王国からいらっしゃったご主人様、ミズーリ様には言う必要もないと思いますが、キクスイは基本的に平和な国です。建国以来、他国と戦火を交えた事は有りません。実際の仕事は、この森を中心としてのコマクサ伯領の警備隊ですね。キクスイ・帝国両国を旅する商人を守り、コマクサの街を守る。それが私達の任務です。」
一国の軍隊を自家警備隊にしてた訳だ。
「そういう国ですから。」
諦めと共に苦笑する皇女。
「貴族は皇族より偉い。それがこの国の不文律です。」
皇都を遠く離れた辺境軍で、皇子でもない皇女がおざなりに指揮官として据えられるほど皇族の扱いが軽い。そういう事だ。
「お飾りの指揮官だったとはいえ、あそこは私の家でしたし、あそこに居るのは私の家族だった人です。一方的にご迷惑をお掛けした指揮官が言えた義理では有りませんが、出来れば御慈悲を賜りたく…。」
姫さんの語尾に力が無くなっていく。
改めて、この娘がその細い両肩に背負わされていたものに気がつく。
私達はその背負わされていたものくらい幾らでも吹き飛ばせるし、現に吹き飛ばしたから、帝国第四皇女が私達と旅を始めた訳だが。
「割と責任感の強い方なのね。」
「間違えて誰かをこの世界に送っておいて、その誰かに飯をたかってばかりの誰かさんよりはずっとね。」
「むううう。あまり本当の事言うとなくぞ。
ハットリくんのシンちゃんみたいに。」
君、どこからそんな情報を拾ってくるんですか?
「オバQのOちゃんでも可。」
それは私も見た事ない古い漫画ですよ。
「万能さんで検索してコミックを取り寄せました。今、全集が少しずつうちの本棚を侵食しています。」
それは気がつかなかった。今晩早速読んでみよう。
「あの、ご主人様ミズーリ様。私を置いていかないで下さいよう。」
寂しがり屋の姫さんが私達に割り込んで来て、ミズーリの頭を後ろから抱きしめる。
これはこれで、新しい関係が出来始めたようだ。
それでお次の方なんですが。
いつもと少し違います。
鬼の女性以来、久しぶりの人間以外の何かです。身長1メートル前後の小さな女の子です。
身長20センチくらいの、もっと小さな娘もいます。
「これは…。」
姫さんの食いつきが激しい。
私の右腕に自身の左腕を絡ませると、右腕を彼女達に伸ばして居る。
女の子は姫さんの右腕を不思議そうに眺めて居る。
「これは何だい?誰だい?」
「森の人ですよ。森の人。人前には滅多に姿を現してくれない、森の精霊です。」
森の精霊ですか。姫さんが私に無理矢理貼り付きながら森の人さんに手を伸ばしているポーズにどんな意味があるんですか?
「ご主人様、ほら。」
小さい方の森の人がふわふわと宙に浮き、私の顔のに前で礼をしてくれた。
「普通、森の人は人間に近寄りません。目撃情報は昔から数限りなくあったのですが、こんなに近寄ってくれる事なんか聞いた事ありません。これはご主人様かミズーリ様が居て下さるから。だからご主人様とくっついてご主人様の仲間をアピールしたんです。」
「ふーん。ミクは私よりトールを取ったんだ。女の友情なんて男の前には砂上の楼閣なのね。寂しいわ。」
「そ、そんな事有りませんよぅ。だってほら、ご主人様に森の人は用があるみたいですし。」
「いいもん。いいもん。」
「ミズーリ様ぁ。」
「ツーン。」
「どうしよう。ミズーリ様を怒らせてしまったの。ご主人様、私は育ちなので人付き合いがよくわかんないの。どうしたら良いですが。」
「お風呂。」
「はい?」
「今晩も、私と一緒にお風呂に入ったら許してあげる。」
あ、姫さんがまた真っ赤になった
「私のお風呂のお供になるなら許してあげる。」
「………はい。あ、あの。お手柔らかに。」
君達はお風呂で何してたんた?
森の人、森の少女は何も話さなかった。
ただ私の腕(右腕は姫さんに掴まれたままだったので左腕を)を取ると、じっと私の顔を私の目を見つめている。
小さな妖精は私の左肩に腰かけて私の髪の毛を弄るのに忙しい。
やがて森の少女は身を翻して森に消えて行った。が、森の妖精は私の肩に座ったままだ。
姫さんも森の妖精を見て惚けた表情になったままだ。
森の妖精さん。もしかしたら、私達に同行したいと?
こっくり。
私達に何か頼みがあると?
こっくり。
あ、姫さんが立ったまま失神しちゃってる。
「大丈夫。幸せ過ぎて精神的にイッちゃっただけだから。…替えのぱんつ用意したら方がいいかも。」
なんだかなぁ。
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