第82話 次から次へと

私は今、姫さんの顔を抱きしめている。

姫さんの顔が真っ赤になっているのが耳だけで分かる。

どうしてこうなったかと言うと。

「いいなぁ。トール。次は私を抱きしめて。」

いいからミズーリは実験を終わらせなさい。

以前、小日向の街で拘束魔法を試したら町民の殆どが発狂した事があった。

そこで、魔力量を調整すれば別の使い方が出来るのではないか、という提案がミズーリからされたのだ。で、この6人で試してみたのだが、最初の2人はすぐ発狂してしまった。

とにかく、この世界の人間は常識外の事態に対する耐性がカケラも無い。

実験を続けると、更に2人が完全記憶喪失になってしまったが、最後の2人は無事、直近の記憶のみを消去する事に成功した。

何故か逃亡者になっている私達には、精神制御はそれなりに武器になり得る。というか、無駄に人殺しをしないで済む。

殺人量=ミズーリの成長という仮説を以前に立てた事があるが、今後の実績次第では、その仮説を否定出来る。

神にとって人とはその程度の存在でしか無いだろうけれども、決して肯定したい仮説ではないからだ。

当然、こんな実験を姫さんに見せられる筈がなく、とりあえず惚けさせている訳だ。

記憶を無くした2人はおかしくなった4人の同僚に必死に呼びかけ始めているが、当然私達は放置して先に進んだ。


はい、第二陣到来です。今度は3人。

歩き始めてまだ一時間も経ってないんだけどなぁ。

さて、姫さん?

「私には見覚えが無い人です。それに軍服を着て居ません。」

「敵意はあるけどね。」

はいはい。よいっと。

木の上に隠れていた男達は左足首を切られて落下。言葉一つ発する暇もなく、そのまま墜落死する。

「でもアレよね。トールが何かするたびにミクを抱いてたら、私が保たないわ。」

「ごめんなさい。ミズーリ様。私がもう少ししっかりしていたら。」

「でも、トールに抱かれていて幸せだったでしょ。」

「…はい。」

「実は、それがトール一番の能力なのよ。だから私は一緒に寝てるの。いつかは3人で寝たいね。トールに可愛がって貰いながら。」

姫さんの顔から煙が出始めたから、ミズーリはその辺で。

多分、姫さん色々想像し過ぎているから。

「ムッツリミクちゃん。」

「ミズーリ様酷いです。」

面白コントはそこら辺にして、コイツらの正体は何かね?

「正規兵でも私兵でもなく第三勢力。キクスイでも散々来たじゃない?」

あゝ、天狗のおじちゃんか。

「ご主人様のところに来たんですか?」

「全部ヤッちゃったけど。」

「それですよぅ。それで来たんです。」

そういえばアイツらなんだったんだ?


小日向の街でミズーリさんが全滅させた誘拐組織の仲間です。

正確には別系統の組織にあたりますが、まぁ悪の組織内での横の繋がりという事で。


万能さんが答えを教えてくれました。

「組織、ですか。」

どうしました姫さん。

「組織は犯罪組織の略です。国家が犯罪組織を管理する事で犯罪の暴発を抑える。組織は国家に管理される事で国家の介入を抑える。

そんな相関関係が何処の国にもあります。」

それは私の前世にもあったよ。 

「それはまた、国を超えてまでご苦労な事だが、私達に用があるなら余計な殺気を出さないで大人しく来れば良いのに。」

「話す気なんか最初からないんでしょ。私達を殺す事だけが目的の様だし。」

「ならば、全方位に宣戦布告と行きますか。」

万能さん万能さん。コイツらのアジトはどこですか。


…。

それは分かりやす過ぎです。

「何処なの?」

「公爵邸。」

「まぁそれはそれは。」

「あの、ご主人様ミズーリ様?何をおっしゃっているんですか?」

「あゝ、トールさんは謎の存在とコンタクト出来るの。」

「はあ。」

「もうさ、真面目に考えるのも馬鹿馬鹿しいでしょ。

貴方のご主人様は一から十まで非常識だから

もう、そう言うなんでも有りな人だと決めつけなさい。逆に言えば、ミクの願いを何でも叶えられる人だから、しっかり甘えときなさい。」

「なんだか分かりません。」

「分からない方がいいわよ。分からない人だから。」

色々酷い言われようだ。

「ミクはもう、何を見せても大体大丈夫よトールさん。」

精神制御が可能な女神様の言う事だ。雑談と言う形ながら、姫さんの精神強化をしていたのだろう。

それなら、ほいっと。

3人の死骸が目の前から消える。

姫さんの様子を伺うが問題は無さそうだ。

「彼ら居なくなっちゃいましたね。どうされたのですか?」

「返品返品。」

「返品?」

「また、面白い事してのけたわねえ。」

「?」

「あゝ、公爵に返品した。だだし切り離した左足首だけね。後は内緒。」

「えーと?」

「現地に行けば分かるわよ。さっ、先行こう先。おかわりは片っ端から殺しちゃうから。」

「あの、一応同国人なので手荒な事はなるべく控えて頂けると。」

「善処します。」

「善処してみようかなぁ。」

「ミズーリさまぁ。」

身長さはかなり差がある2人だが、姫さんがミズーリにしがみつく姿を見ていると、仲の良い姉妹みたいで、それはそれで微笑ましい。

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