第78話 お姫様その2
私とミズーリと万能さんとチビで梟首会談をした結果、助ける事に決定しました。
ワン(助けましょう)。
いきなり攻めて来た汚物は消毒しても構わないんですが、皇族ならば情報の一つも得られるんじゃないかという判断です。
さて、問題となるのは助ける方法ですが。
「今、家は見えなくなっているのよね?」
当然です。
「この世界の人って、驚かせ過ぎると死んじゃうから厄介よね。」
ね。うさぎじゃあるまいに。
「空飛んでる家がいきなり目の前に現れたら死んじゃうかも。むう。」
かと言って、私達が飛んで迎えに行っても、彼女を浮かせて回収してもショック死しかねないし。
「意識を失わせる?」
「後で説明するのが面倒だ。圧倒的な力の差を見せて大人しくさせたい。」
「ならどうすんの?」
一個思いついた。意表をついて何もわからない様にすれば良い。
玄関からぴょんと飛び降りると、ミズーリも反射的に一緒に落ちてきた。
お姫様抱っこっで受け止める。万能さんからとある空飛ぶ乗り物を引き出した。
気球である。木々の隙間は狭いので、本当は空に浮くほどの大きさの風船を広げられないのだけど
最初から物理法則なんか無視出来る私達なのだ。見かけだけ見かけだけ。
ベッドサイドからわざわざ持って来たランタンに火をつけ灯りとし、ゆっくりと上昇していくと姫さんが気球に気がついた。
この世界にはまだ気球はないだろう。
予想通り、彼女にはなんなのか理解出来ないみたいで、大人しく気球を見守っている。
歳は10代後半、栗色の髪の毛をショートに切り揃え、少し切長の目を持つ容姿は充分整った顔立ちと言って良い。
「おい、君?助けて貰いたいか?」
直ぐ反応がある。
「当たり前でしょ。早く助けなさい。」
おやおや。
「そんな口を利く奴は助ける道理はないな。勝手にそこで干涸びて死になさい。或いは木から墜落して首の骨を折って死になさい。」
そのまま気球は姫さんを無視して上昇していく素振りを見せる。
「ま、待ちなさい。私は帝国第四皇女なのよ。助けなさい。何故助けないのよ!」
慌てて手を伸ばすが、あと数センチで届かない。
絶妙な距離で気球を浮かべているのだ。
「私はこの国の住人ではない、ただの旅行者だ。例え君が皇女であろうとなんだろうと、何故助けなきゃならない?ましてや、そんな偉そうな口を利く小娘をだ。君には敬意を払う必要を一切認めない。」
ここまで頭ごなしに罵倒された経験も彼女には無かろう。
驚き、焦り、恐怖、怒り。色々なものが垣間見える複雑な表情を浮かべ始めた。
「あ、あなた誰にもの申してるかわかってるの?」
「知ったこっちゃないな。大体、君は私達を殺そうとしただろ。地位からすれば恐らく総指揮者だと思うが。ま、全員簡単に撃退したがね。」
そこまで言うと、彼女はようやく私達の正体に気がついた。黒髪の青年と金髪の少女。それが手配書に書かれた特徴なのだろう。
木にぶら下がっていた彼女がどこまで事態を把握しているから分からないけれど、今この近辺で生きている「私達の敵」は彼女だけだ。
そして「彼女の味方」は現れない事も彼女には分かった。
みんな私が殺した。殺し切った。
目の前の男に私の部下は全滅させられた。
そこまで理解が及んだと同時に、彼女の心が折れたらしい。臆面も無く号泣し始めた。
「助けて。死にたくない。死にたくない。死にたくない。お願い。何でも、何でもします。助けて。殺さないで。助けて。助けて。」
これで充分。姫さんの意識を刈り取ると私達は家に戻った。
「トールも結構酷いわね。よっぽど怖かったみたいで、この子おしっこ漏らしちゃってるわよ。」
それでも、彼女の希望通り生きてるんだから。
「とりあえず魔法で綺麗にしとくわね。」
姫さんの色々な掃除をミズーリに任せると、私は家の増築を考える。
簡単に言えば座敷牢の増築だ。
とは言ってもきちんとベッドとトイレ付き、シンクも付いて、ミズーリさんが転がってふにゃふにゃするのが日課のでお高い絨毯も母屋から延長。
そこら辺のビジネスホテルよりも住み心地は良い筈だ。
姫さんの今後次第で鉄格子も外せるだろう。
姫さんが出て行った後は物置にでもすれば良いし。。
金属鎧を外し、材質は綿と思われる鎧下だけにした彼女を座敷牢のベッドに寝かせて監禁する。
さて、やっと風呂に入れる。万能さんあとはよろしくね。
「あ、そうそう。報告が一つ有ります。」
何ですかミズーリさん。
「さっきお風呂入ってて気が付きました。私のあそこに毛が生えてます。」
はいィィ?
「見ますか?」
「見ません。」
「見なさい。」
「チビ。お風呂入りますよ。」
ワン(お風呂♪)
「トールのヘタレ。」
ワン(ヘタレ)
うるさい。
不意打ちにとんでもない爆弾を投げつけられたな。
さて。
今回のミズーリ成長のきっかけはなんだろうか。
浴槽に口まで浸かり、何とは無しに考える。 チビは子供プールで既に眼を瞑り、幸せそうに溶けている。
昨日のキクスイ王都での鬼退治。
帝国に来た今日もさんざっぱら兵隊を殺したし。
身に覚えがある事たくさんあるなぁ。
まぁ、分からない事は全部先送りにするけどね。
風呂から上がった後、ミズーリが性的悪戯を迫られるかと思いきや、割と聞き分けよく直ぐにベッドに入り寝てしまった。
ミズーリにはミズーリで、何か考えがあったのだろうか。
翌朝、身体中にねぼすけ女神を絡ませたまま牢の方に目をやると、姫さんが鉄格子の向こうで土下座していた。
神族といい皇族といい、何故お偉いさんがどいつもこいつも私に土下座したがるんだ。
「おはようございます。」
昨日の罵詈雑言が嘘の様に静かに挨拶をされた。
「ああ、おはよう」
「監獄で生きていると言う事は、私はしばらくは、死なないでいてよろしいんでしょうか。ご主人様。」
「ああ、暴れたりしなければ別に殺す気は無い。……今、私の事を何と言った?」
「はい、ご主人様と。」
…あゝ、うん。どうしようか。これ。
「おい、ミズーリ。大変だ。姫さんがおかしくなった。」
陰毛女神は気を抜き過ぎもいいとこで、私の胸に埋もれたまま眠そうに答えた。
「トールは私(女神)を使役してる人なんだから、皇族を奴隷にしたところで誰が驚くのよ。」
そういやそうか。
「あと人を陰毛言うな。」
ご開帳しようとしたくせに。
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