第79話 お姫様その3

とにかく話をしましょう。

「いやんだめん」と鳴くミズーリの手足をひっぺがえしてテーブル席に移動した。

万能さんに鉄格子を外して貰い、外に出てくる様に促しましたが、姫さんは正座したまま出て来ません。 

「トールさんトールさん。間違い無く彼女はトールさんに隷属していますよ。」

君もさっさとベッドから出て来なさい。

大体、そんな魔法はかけていませんが。魔法のかけ方とか知らないし。

「一種の吊り橋効果ね。トールさんという絶対的な存在を前に心の底から絶望したから、貴方を主として隷属する事で心の安寧を図ったってとこかな。弱い生物だから出来る一種の自己洗脳というべきかしら。。夜伽に呼べば喜んで身を差し出すわよ。彼女。」

最後の件はともかく、命令すれば彼女は従うというわけですね。

「では君に命令します。牢屋から出て来なさい。」

「はい。」

彼女はそっと立ち上がると足音をさせずに近づき、テーブルの側で両手を足の付け根付近で前に組み、私の言葉を待っている。

「まずは名前を名乗りなさい。」

「はい、ご主人様。私の名前はミク・フォーリナー。帝国第四皇女で東部方面軍司令官でした。私の事はミクと呼び捨てにして下さい。」

「ではミク。命令です。一緒に朝ご飯を食べましょう。」

「え。あ、は、はい。」

捕虜への扱い方が自己認識と覚悟とは違ったのだろう。尋問されるどころかまず飯を食えとか。姫さんは目を白黒させている。

「ミズーリはミクを洗面所へ、いや。」

ここで私はアレな事を思いつき、我ながら悪い顔をした。

「ミクをお風呂に連れて行きなさい。あんな目に遭わせたんだ。身体を隅々までしっかりと綺麗にしてあげなさい。」

「分かったわ。」

私の企みを瞬時に理解したミズーリは、同じく悪そうな顔をして、頭から???をたくさんう浮かべ始めたミクの手を引っ張って浴室に消えていった。


さて私は朝ご飯の準備をしましょうかね。

「んなああああああ。」

さっきまでのお淑やかさを全て帳消しにする叫び声が浴室から響いて来た。

「白いお湯なんかに浸かったら死んでしまいますよう。」

「頭から水が、水の塊が落ちてきます。痛い痛いです。でも気持ちいいです。」 

「お湯が腰にお湯が腰に。うひい。お腹に当てたらくすぐったいです。え?あ!そこは駄目です。許して下さい。ひゃああああ。」

はて、帝国には湯船に浸かる習慣がないのかな。だとしたら我が家の、温泉・打たせ湯シャワー・ジェットバスは、そんな姫さんには前代未聞の初体験だろう。

絶対的文明格差を身をもって体験してもらうと思ったんだけどね。

そのうち静かになったので、ミズーリが上手いことしたと判断。

で、朝ご飯ですが。ここも一つ度肝を抜く献立優先と行こうじゃないか。

どうせ皇族の姫さんならお上品な美味しいもの食ってんだろうから、下品で味が濃いインパクト満点なもの。何が良いかな。

チキンライスのオムライス(半熟じゃない堅焼きオムにはケチャップでミズーリの顔を落書き)、メンチカツ、イカゲソの唐揚げ、レバーの唐揚げってあたりで。

朝にはちょいとキツイ油ものだけど、一個一個は間違い無く美味い。具沢山の豚汁をおつけして、お茶は麦茶を焙煎大麦粒から入れよう。

んー。食卓が、おかずが、飲み物が茶色い。


「お待たせトール。」

ミズーリ達がお風呂から出てきた。

何か姫さん顔がホカホカしてませんか。

出て来たのは良いけど、君達何ですかその姿。

「ご主人様に気に入って頂ける様にね。アドバイスしたの。私もミクもたくさん可愛がってね。」

朝から何故に着物なんですか、?

「前にピンクの着物で初夜をプレゼンしたのが好評だったから。」

ありましたねそんな事。

「ど、どうでしょうかご主人様。」

どーもこーも有りません。貴方、帝国第四皇女なんだから、もう少しこうプライドというものをですねぇ。

「そんなプライドを根こそぎ破壊した張本人のくせに。」

そういえば、何処かの女神も私が色々壊しちゃっているみたいですね。。

「とにかく、ご飯にしますよ。ミクはミズーリの隣に座って下さい。」

茶色い揚げ物ばかりのご飯に最初は戸惑っていた姫さんは、ソースのかかったメンチカツを一口ご賞味された後は、無言でむしゃむしゃ貪り食い始めた。

うちの欠食児童の反応は言うまでもなく。

スーパーの惣菜コーナーでも売れ残りがちな献立なんですけどね。

何でこう女神様と言い皇女様と言い、安めのおかずが大好きなのだろう。


食事が終わるとミズーリはいつもの通り洗い物を始める訳だが、今日はその前に一仕事。

姫さんをマッサージチェアに座らせる。

「ミズーリ様、この椅子はなんなのでしょう。手が足が固定されて動けないの(スイッチオン)ででででででででででででで…」

「ミズーリさん、あまりミクで遊ばない様に。」

「更に全身バイブ振動機能全開。」

「あひぃひひひひひひ…」

どうにも色っぽくないお姫様だなぁ。

「どう?気持ちいいでしょ。これはトール様の発明品。身体の疲れも全部吸い取ってくれる全自動快感が凄いのぉもっとぉ椅子よ。」

いや、前世では普通に家電量販店で売ってるんですが。何ですか、その名前。別にいかがわしいものではありませんよ。この子達は別の目的で使ってそうですけど。


ミクが初体験・マッサージの快感に白目を剥いてるうちに、ミズーリは他所様にはあまり見せられない不思議な食器洗いを終わらせる。

洗い終わった食器を万能さんがどんどん虚空に回収しちゃう光景は、確かに見せられるものじゃないな。姫さん気絶しちゃうかも。


マッサージの自動フルコースが終わり、ようやく椅子から解放された姫さんは、立ち上がりかけたものの力が抜けきってしまい、床に転がってしまった。

待ってましたとチビが駆け寄る。

そこは普段のミズーリ弄りで慣れたもの。チビに素早く足の裏を舐め始められ、あられもない声をあげて悶え始める帝国第四皇女さん。

着物のままで倒れてるものだから裾が乱れてますよ。

あ、この子もぱんつ履いてない。

「着物には下着無しが私のポリシーだし、サービスよ。ご賞味はご自由にどうぞ。」

知りません。大体君、アリス嬢の時はヤキモチ妬いてませんでしたか?

「私も毛が生える程成長しましたから、正妻の余裕です。妾の一人や二人認めてあげてもよろしくてよ。」

もう何がなんだか。

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