第77話 お姫様その1

豪雨で全部洗い流したのは良いけれど、くだりの道なので、少しぬかるんで歩きにくいですよ。

すっ転んで「泥だらけ女神ちゃん」になっちゃうかも知れません。

「滑って転んで下まで落ちてっちゃうのはカッコ悪いなぁ。道を乾かしちゃおう。」

「どうやって?」

「こうやって炎で道を乾かしちゃうの。熱乾燥スタート。」

止める間もなく火炎放射がミズーリの指から出てくる。CGを使わない昭和特撮の怪人・怪獣が、指から炎やミサイルを発射していた姿にしか見えないのは内緒だ。

「私は女神だよ!」

恐怖!女神おんな。

「失礼な。」

焔が道を乾かし、「オマケ」とロードローラーまで出して踏み固められていく。

何この土木な女神ちゃん。

みるみるうちに泥濘みが乾燥・硬化していく。

終いにはアスファルト舗装し始めようとしたので、それはさすがに脳天チョップで止めた。面白いけどね。いずれ何処かでやろう。

「トールの目印になるように、髪型をツインテールにしようかしら。」

へっぽこ女神の脳天をチョップでグリグリしながらしばらく待機。女神ちゃんは「いやんいやん」言いながら喜んでる。

温度が適当に下がったのを見計らい私達は山をくだっていく。


ミズーリにより擬似舗装された山道は非常に歩き易く、くだりが多い事もあってもうすぐ斜面が終わり、平地にたどり着ける目処がついた。

道の両側に生える木々の向こうの何処に彼らが居た(いる)筈だが、気配は全く感じない。

道から半歩でも外れた雑草には、ミズーリが降らせた雨の残りが玉の露となり夕陽に反射している。

ミズーリの火炎放射は絶妙なコントロールで山道だけが完全に乾燥しているようだ。

しばらくして山越えが終わった事を見極めると、早速ドローンを飛ばしキャンプ地となる候補地を探してみた。

あれまぁ、人の死骸がそこら中に転がっているから、地表は無理だ。やめとこう。

ちょっと考えた末、最初から家を木々の上に浮かべる形で展開させ、私とミズーリが空を飛んで家に入る方法を取る事にした。

あゝ、私がどんどん人間離れしていくなぁ。


晩御飯はミズーリのリクエスト通りニンニクたっぷりご飯です。

ご飯、浅葱、乾燥ニンニク、ニンニク、ニンニクの芽を準備。

冷や飯とごま油をよく温めた中華鍋に投入し、醤油・浅葱・乾燥ニンニクでよく炒めれば簡単ガーリック炒飯の出来上がり。

ニンニクの芽とニンニクもごま油で炒め豆板醤で赤く辛く味付け。これはご飯も進みます。

ホイル焼きはアルミホイルは使わず、直径5センチ程の小さな土鍋でニンニクとバターだけで煮込んで完成。生前に行き付けにしてた居酒屋メニューそのまんまです。

汁物はニンニクを焼肉に例えてワカメとゴマのスープとしますか。

最後に、いくら私達二人だけとはいえエチケットも大切。ハーブティーをたっぷりと用意し、ミント味のガムと飴を食べ放題にしておきます。

「これは凄いニンニクね。ニンニク。ニンニクよ。ニンニク。」

ニンニク攻撃が気に入ったみたいで、ひたすらニンニクを繰り返しながらニンニクを食べ続けるニンニクの女神様。

ニンニクニンニクに呆れたのか、チビはケージで寝てしまったけど、でもニンニク。


死ぬほどニンニクを食べまくり身体中ニンニクだらけのニンニク魔神も、お風呂に入って食後のアイスを食べる頃にはニンニクも抜けていた。

チビがミズーリの隣で物欲しそうにお座りしてますが

「虫歯になっちゃうからあげないよ。」

よろしい。

では私も、と風呂に向かおうとしたその時、万能さん探知機が私に警告して来た。

 

この先の樹木の先端に女性が引っかかっています。生きています。意識も有ります。


ソニックブームに巻き込まれて空に煽られたけど、木に引っかかったおかげで墜落死しなかったのかな。でも、特に助けなければならない言われはないよね。


それが。


それが?


プレートアーマーに紋章が確認出来るのですが、帝室の者だけがつけられる特別品です。


はい?


「あゝもう、仕方ないなぁ。」

「今度はなぁに?」

「ほらあそこ。」

私が窓から指差した先では、木の天辺でぐりっちゃらぐりっちゃら動くものが見える。

とっくに陽は落ちているのでシルエットしか見えないけどね。

「どうすんの?ほっときゃよくない?」

「そうしたいんだけど、帝国の姫さんらしいんだよ、アレ。」

「はい?」

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