第76話 暴走

「私に内緒でなに面白そうな事してんのよ。私も混ぜなさい。」

実はミズーリさん、しっかり起きてました。

さて万能さん?まず説明をして下さい。

…黙秘権を行使されちゃいました。

「殺すならちゃんと殺さないと駄目でしょ。死を司る女神ミズーリちゃんとしては中途半端は許し難いんだけど。」

これが本質とはいえ、この女神ちゃん怖い。

「万能さんが暴走したんですよ。」

「はい?えと、どゆこと?」

「私は適当に揶揄って逃げるなり、追っ払うなりするつもりだったんだけどね。兵を監禁して火焔地獄を現出させたのは万能さんなんだよ。」

万能さんは天界より授かった(神様連中に無理矢理押し付けられた)能力であるから、あの世である擬似地獄くらい簡単に現出できるのだろう。

仲間はずれにされたとブンむくれながらも、甲斐甲斐しく後片付けを手伝ってくれるこの女神も、その時が来た人間に死を授ける事が本来の仕事ですしね。

…すぐ脱いで、すぐ土下座して、毎日チビにおもちゃにされて、美味しそうにご飯を食べる姿しか見てない気もしますが。

メンタルは私並みに弱くて、中身はただの女の子な事も段々と分かって来ましたけどね。

「万能さんが、何も言わないの箱に入れてる案件かぁ。」

「万能さん怒っていたね。間違いなく。」

「トールが怒ってないのに?」

「いや、私も多少は腹立たしかったよ。が、脅かすだけで充分スッキリ出来ただろう。せいぜいその程度だよ。」

私、ミズーリ、万能さんとこの世界の人間では力の差が有りすぎる。蚊や蟻に集られたら潰すか振り払うでしょう。

「この後、トールはどうするの?」

「引き続き無視しますよ。分からない事は考えないと決めたからね。来るものは追い払う。」

「拒まずじゃないんだね。」

「まだ国境すら越えて無いのに、早速何かが始まったんですよ。因みに私達を尾行していたと彼らは言っていましたけど?」

「されて無いわよ。私達が気が付かない訳無いじゃないの。」

やっぱり仲間内の軽口だった訳か。

「とりあえず、このまま進もう。日の高い内に帝国領に入って様子をみるかな。」

「だねだね。何が起こるのやらお楽しみ。だ・か・ら、とりあえず!」

とりあえず?何ですか?

「私はトールが考えているというニンニクご飯が楽しみです。今晩作って。」

君、さっきお昼食べたばかりでしょう。

「ご飯の献立を考えるのは妻の役目です。」

ご飯を作るのは私ですけどね。


日が落ちる前に最後の峠に立てた。

この先の道は基本的に降りだけ、眼下には帝国領の黒い森が広がっている。

元の世界で言うならブナか樫に見えるな。

見る限りでは人家らしきものは確認できない。

あの兵隊達の駐屯地は何処なのだろうか。

「そろそろキャンプ地を探そうよ。ニンニクご飯を食べよう。」

まだ晩御飯には少し早いですよ。

それに。

さっきから風切り音がヒュンヒュンと空中で鳴り響き、頭大の石が次から次へと落ちてくるんですが。

さっきのドームを直ぐに取り出したから当たらないし、命中性能も酷いものだ。

どうやらこの世界にはカタパルトが存在すると見える。元の世界でも古くからある兵器だしね。

森のあちこちから石が飛び出してくるのが見えるけど、さてどうしよう。

「逆回転って言うのはどうだろう。」

人差し指を立てて右手を前に振ると、私達のそばに落ちた石も、今まさに飛んでいる石も綺麗に飛ばした場所に逆戻りしていく。

ちょっと違うのは石が音速を超えているんだよね。私そんな細工してないなぁ。

あ、森から轟音と共にカタパルトと人がビヨーンと空を飛んでる。ソニックブームでも起きているのかな。

カタパルトが全滅して石の雨が止むと、次は矢の雨が始まった。

石が通用しないんだから矢如きなんて事はないのだけど、ちょっと数が多い。

一度に飛んでくるのは500本近いぞ。

「でも射程距離内になる山のを中腹にはそんなに人いないわよ。」

カタパルトには矢を大量射出するものもあるんですよ。問題なのは火矢を撃っている事。

自国領とはいえ山火事になるなぁ。

「とりあえず火矢はお返ししますが、ミズーリさんは火の方を宜しく。」

「任されました。」

計5~600本の火矢は忠実に射出元に戻り、同時にミズーリがとんでもない豪雨を降らせ始めた。

私達がこの世界で最初にあったあの村でも消火の為に雨を降らせたが、これはちょっと見た事ない量だな。さすがは女神。

バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨というのは前世でも経験しているが、これはもう瀑布だね。大瀑布。

勿論直ぐに山火事は消え、待ち伏せしていた兵隊は火に包まれたまま、カタパルトごと山裾まで流れていったのでした。

「全滅させました。さあ早くご飯作ろ。」

ミズーリは最後までご飯の方が気になったままでした。

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