第74話 山越え

帝国とはなんぞや。

キクスイ王国と西の丘陵を境に接する帝政施行の国家である。

当初は英雄・ガストン帝が建国した国なので、ガストン帝国と呼ばれていたが、

ガストン帝崩御の後の権力闘争でガストン直系係累が滅んでしまい、やむなく傍系係累を傀儡皇帝に据えて成立した貴族の連合政権国である。

ガストン姓の皇帝候補が死滅した為、ガストン帝国とは名乗らずただ帝国としている。

何故ならこの世界に帝国を名乗る国がないから。あと面積も広大だから王国とか公国とかよりも強そうだし。だそうです。

何だこのいい加減な世界。


で、山越えは歩いて行くか。家で飛んで行くか。

「新しいトラブルを呼ぶ為に歩こう。」

でしょうね。(棒)

「実際ね。帝国民の気質はこの国と違って結構荒いらしいわよ。治安も相当よろしくないから。」

身分差別もありそうですね。

「他国からの旅行者なんかいいカモね。」

嬉しそうですね。

「気のせいよ、気のせい。」


さてと。それでは地図を確認してみよう。

万能さんから、天界謹製2万分の1山(区切りが適当過ぎませんかね)と5万分の1帝国を取り寄せて広げる。

この湖からならば、進路的に二つ。渓谷の金山跡付近から山に入って行くルートと、渓谷を抜け宿場町の先の追分から山の入るルートがある。

街道として整備されているのは後者。丘陵の勾配が緩く谷間も比較的広い為、ほぼ前線にわたり石畳が敷かれいる。

前者は金山採鉱時に帝国との物資運搬用に開かれた旧道で、現在では廃道にこそなっていないものの杣道化しており、人通りは殆ど無いという。

二人で協議した結果、前者を辿る事にした。

なるべく早くこの国から離れたかったのと、あとイベントが起きやすいのはこっちじゃね?という不謹慎な目論見からだ。

ではでは、馬くん登場!


寂しかったですぜ。ご主人。


呼び出さなくとも、あなたいつでも勝手に喋ってませんでしたか?

何はともあれ街道に出るまで同行二人と二匹だ。二匹というのは、チビと別れるのを嫌がったミズーリが抱っこして馬くんに跨っているからだ。

チビも馬くんや高さを嫌がったり怯えたりする素振りも見せず、ミズーリの顔を一通り舐めると、腕の中で寝る体勢に入る。

オリジナルのチビはドライブが大好きな犬で、私が車の扉を開くと大喜びで飛び込んで来たものだ。


うちの馬くんは万能さん特製なだけあって無闇やたらと高性能だった。

いや、想像はしていたけどね。

以前、歩いた時は午前中目一杯かけた距離を、ものの一時間で走破した。

街道に近づいた所で、悪目立ちしない様にチビと馬くんにお別れし、チビを離したくなくて駄々っ子になったへっぽこ女神の手を繋ぐ。

へっぽこさんは、私からどこかに触れて上げるだけでご機嫌になる位へっぽこなので御しやすい。

傍の川を見ると、万能さんの言う通り確かに魚影がある。それも相当に濃い。が、誰も漁をしないのは、禁忌に触れるという考え方が住民達に染み付いているのだろう。

まもなく道は渓谷に入り、観光客の歓声が増えて来た。観光客を尻目に私達は川に入り対岸に渡る。

「けもの道もいいとこだが、道は一応残っているんだな。」

「この辺はまだ金山跡の手前、山越えの道からは外れだもん。本当に杣人しか通らない杣道よ。ほら。」

ミズーリが指差した先には久しぶりに見たイタチ見たいな小動物。(肉食危険獣) 

「そう言えば、あの湖の周りは自然豊かだったのに、動物の姿は一切見なかったな。」

「動物は逃げられるからね。水から出れない魚と違ってね。」

そういう事か。ならばいずれ湖に動物も戻ってくるのだろうか。

まもなく杣道は高度を上げ、山の中に方位を変えた。僅かに分岐の跡が木々と薮の生え方で確認できる。金山跡への道の跡だろう。

やがて人の声は完全に聞こえなくなり、風が奏でる葉擦れの音と鳥の声しか聞こえなくなった。

道幅は二人並んで歩くのが精一杯。

勾配を考えると、運搬用家畜の使用は牛しか無理だろう。

まさに杣道だ。

普通ならば息の一つも切れる急坂を私達は私語を交わしながら、のんびりと行く。

やがて小さな峠に差し掛かり、木が取り払われて若干の空間が作られていた。

かつては峠の茶屋的な休憩施設でもあったのだろうか。

見晴らしも良いし、ここをお昼地とする!

久しぶり。

「無理矢理。」

うるさい。

さてさて、何を作りましょうかね。

ミズーリの水筒に「トールの美味しい」水を補給しながら、あれやこれや考える。

ここまでは誰とも遭遇しなかったとはいえ、いつなんどき会うとも限らないからね。

レジャーシート敷いてピクニックスタイル。

だったらお弁当にするかな。でも昨日の昼はおにぎりだったし、少し変えてパン食にしようか。

ハンバーガーサンドもハンバーガーも作ったから、うんピザだピザ。

「ミズーリさん。」

「なんでしょう。」

「覚悟しなさい。」  

「うん!」

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