第73話 帝国へ
さて、女神様の言う通り朝ごはんにしよう。
うちのへっぽこ様はとっくに家に戻ってチビと遊んでいる。
地震・鬼退治・女鬼成仏?と、イベント盛り沢山過ぎた、賑やかな半日などとっくに忘れた様で、チビに顔を舐められてひゃあひゃあと騒いでいる。こちらもこちらで賑やかだ。
鬼の女性との会談場(野外テーブルセットだけど)を片付けると、何気なく湖を眺めた。
湖水の透明度が増している。湖底まで容易に見える上、魚影が濃い。
ああ、あの金山跡で誰かが言ってたな。水が澄んでいるって。
はい?なんですって万能さん。
さてと。
「そこでチビの唾液塗れになっているミズーリさん。何かリクエストはありますか?」
「わっしょくぅ和食ぅ。あふあふ。」
いつもの朝ごはんを作れば良いんですね。
「目玉焼きとカリカリベーコンで。あふあふ。」
チビもいつまでもミズーリ「で」遊んでるんじゃありませんよ。
ワンワン(あふあふ)。
目玉焼きとベーコンがメインの和食ですか。
炊き込みご飯にして、副菜を充実させるって線で作ろうかな。
ご飯は鶏肉・油揚げ・蒟蒻を出汁、酒、味醂、醤油で炊きます。
厚切り大根でツナ・スライスしたトマトと玉葱を挟んで炊き込みご飯と同じ調味料で炊きます。
目玉焼きの付け合わせですから、お新香ではなくワンプレートでレタスに胡麻ドレをかけて。お味噌汁は大根・にんじんの根菜味噌汁をちゃっちゃと調理。
何げに野菜たっぷり朝ごはんの出来上がり。
「ご立派なホテルの名前も分からないご大層なお食事よりも、私達のおうちで食べる私のトールご飯よねぇ。」
お粗末さま。
「旅行から帰って来た母ちゃんが、あーおうちが一番!って言うあるあるネタがあるけどさあ。」
あるあるネタを語り出す天界の女神様。
あと、女神様の母ちゃんって誰?
「私達は一番のおうちと一緒に旅してるんだから幸せよね。」
この旅は君を天界に戻す為の旅なんですけど、幸せなんですか?
「幸せに決まってるじゃん。天界に戻ったら大好きなトールとお別れになっちゃうんだよ。」
…真っ直ぐに返されて少し照れました。
「トールを落とす為の手管です。まだまだ出して無いのいっぱいあるから覚悟しなさい。」
したくないなぁ。
「で、トールさんは私に聞きたい事あるんでしょ。」
食事を終え一休みしていた私達だが、それはそれ、お互い整理しておきたかった事がある。
君は彼らを無視していた様に見えたが。
「怖がっていたのよ。あっちが。あちらさんはこの世界で最上位の存在なのに、それよりも遥かに高位の謎美少女がうろちょろしてるんだから。
ここは神という概念が無い世界でしょ。ぶっちゃけちゃえば、最上位の存在を私達は殺せちゃうのよ。」
この世界では私達はイレギュラーもいいとこですしね。あと謎美少女は放置の方向で。
「トールの肉奴隷と化した私は、最近女神としての自覚が薄れている気がするの。」
私の料理したお肉の奴隷と言い直しなさい。
人聞きの悪い。
「でも自分達を救って欲しい。だから女神すら使役するただの人間トールにアプローチを取ったわけ。私が口出しする必要ないでしょ」
まぁね。
「私からも質問。ここまでで何か分かった事ってあるの?」
推測の域を出ないんだけど、この卵だ。
鬼の女性は、この卵が悲しみを吸収してくれる、と言い、自らも吸収されて行った。
私達はたまたま卵を回収したが、何故機能不全に陥っていた卵が回復したのか。
さっぱり分からん。
卵の機能の一つとして考えられる現象がここにある。
窓から湖を見てごらん。
湖が変質しているよ。湖水が澄み切っている。私達が釣りをした時を思い出しなさい。
更に、金山跡で水遊びをした時、地元民が驚いていたね。こんな水が綺麗だった事は無いと。
「卵が水を綺麗にしたって言うの?何故よ。」
この湖は鬼に襲われた悲しみで澱んでいた。そのせいで湖水や生物にも影響を与えていたが、機能を回復した卵が悲しみを吸収し、鬼に襲われる前の湖に戻った。
ってあたりではないかと。
私達が釣りをしていた時よりも魚影が濃いんだ。万能さん曰く、今まで澱みの為に湖に監禁状態だった魚が清流で生きる能力を取り戻したかで
湖から川に泳ぎ出ているらしい。
らしい、というのは、この卵に関する限り万能さんに制限がかかっている様だ。
前にも幾つかあったが、万能さんは関われない項目に抵触すると動かなくなる。
結論として、何をどうしたらいいのか、相変わらずさっぱり分からん。
大体、この卵どうしたらいいのやら。このまま持って行っていいのやら。いけないのやら。やらやらやらやら。
「しまった。トールが壊れかけてる。どうしよう。抱き締めればいいのね。それいけ。」
まだ大丈夫ですよ。今、思考停止モードに切り替えましたから。
それよりミズーリさん。多分、この国で為すべき事は全て為し終わったのでは?
「そう、それ大事。」
何かやり残しでも、私達なら瞬間移動出来ますからね。
「なので、今日はこれから山越えして隣の国ね行きます。」
隣の国ですか。
「帝国へ。」
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