第70話 役割
「鬼だなぁ。」
なんかもうね。本当になんでもありだ。
「ひのふのみいのふんふんふん。全部で28匹。王都に全方向から迫って来てるわ。
多分これが私達の役割じゃないかなぁ?」
「どうとでも出来ますけどね。しかし全部倒すとなると大変だなぁ。」
移動がね。
「大体鬼達は今までどこに居たんだよ。」
「姿消してたんでしょ。」
「何の為に?」
「鬼に聞くしかないんじゃないの。」
「…理屈はともかく目的は分かったなぁ。」
「人、食べてるわねぇ。」
その通り。私達から少し離れた庶民街に現れた鬼が、鷲掴みにした人間を頭からムシャムシャ齧っていた。もう肩から上が無い。それは怪獣映画・モンスター映画の一場面みたいで、生前親しんでいた私にはまるで現実感がない。生き残った人間達は逃げようにも火と煙と鬼に囲まれて逃げられない様だ。
まずは目の前のコイツな。
ミズーリをお姫様抱っこすると断層を跳び越え庶民街に突入する。
パニックで無闇に走り回る人や隅で固まる人を掻き分け鬼の居場所を確認した。
ターゲットにした鬼に対し、
「よいさ。」と右手を振り左足首を切り落とす。
鬼の絶叫が響き渡り、轟音と共に巨体が崩れ落ちる。
ミズーリがすかさず清浄の魔法を、それも持続性のある上級版を地にかけていく。
鬼の巨躯は延焼が進む街並みを薙ぎ倒しているが、そのおかげで火が収まるのは不幸中の幸いだろう。
しかしあと27匹か、この街の直径は8キロだったな。直径8キロの円の外周って、えぇと、どう求めるんだっけ?
直径×円周率です。
直径8キロのこの街はおよそ25キロになります。
ありがとう万能さん。
因みに小学5年生で習いますよ。
生前32歳だった筈のマスター。
うるさいよ万能さん。
あとマスターって初めて言われた気がする。
コホン。
「外周25キロある街が、今現在全、方位攻撃食らっている訳だ。いちいち走って退治してたら、この街の人が食べ尽くされてしまうな。」
「飛ぶ?私ならトール抱えて飛べるよ。」
「目立ち過ぎるわ。今は私が右手振り回しているだけだから、誰にも気が付かれていないだけで、この街が私達の旅の終着点になるならともかくだ。目立ちたく無い。」
「走る?時速100キロぐらいで。」
加速装置付きサイボーグの人かよ。
「馬くん登場とか。」
任せておくんなせえ奥様。
馬くんの性格が江戸前男前になってるし。
大体、馬に乗って鬼をばっさばっさと倒して回ったら、それはそれで目立つわ!
まるっきり時代劇か西部劇のヒーローだ。
「快傑…。風雲…。」
言わせねえよ。
「いっそ王都ごと…。」
何か恐ろしい事言い出さないでしょうね。ミズーリさん?
ここで以前に万能さんからの申し出を受けたとある事を思い出した。私達は瞬間移動が出来る。酷いインチキだが、そもそも私達がピンチに陥る事はありえないのだった。
という訳で、以後は瞬間移動しちゃあ退治し、瞬間移動しちゃあ退治し。
鬼退治はただの流れ作業と化した。
さっきまで少しは緊迫感あった筈なのになぁ。
僅か四半刻でちゃっちゃと鬼を全滅させた。土地の意志はこの為に私達を王都まで呼び付けたのだろうか?わからん。
王都での役割を終えたと判断した私達は旅に戻る事にする。
ホテルが崩壊してるから泊まる場所無いしね。宿泊費は前払いしてあるから叱られる事はないだろう。多分。
払う人も生きているかどうかわからないし。
とっとと崩壊した王都から逃げ出すと頃合いを見計らって家をオープン。
すっかり宵闇に包まれていたので、誰にも見られる事なく私達を収納すると空に浮く。
チビとは半日ぶりの再会だ。ミズーリは直ぐ様、絨毯に寝転がってチビと遊び出す。
ほらぱんつが見えてる。
この光景は朝と何も変わってないんだけどなぁ。
さて、どこ行こう。
湖へ。
湖へ。
湖へ。
もう誰が何言ったんだか私にも区別がつかなくなってますが、湖に戻れば良いんですね。ハイハイ。
もう晩御飯も食べてるし、お風呂にでも入ってのんびりしましょうか。
万能さん。進路を湖へ。スピードは任せます。
ミズーリさんはチビと一緒にお風呂に入ってらっしゃい。
「うん!」
元気があってよろしい。
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