第69話 絶望

一つ。シュヴァルツ領 囚人の村にて鬼発生

   退治される 

一つ。シュヴァルツ領 銅鉱山にて鬼発生

   鉱山全滅す

一つ。王都郊外にて鬼の死骸発見

   詳細は不明


鬼は通常数十年に一度現れるとされる。

現れる場所は辺境とされる。

そして人間には退治不可能とされる。


だが、上がって来る報告はそれまでの常識を覆す物だった。

何よりも王都より馬で半日走った近郊に鬼の死骸があると言う報告は、絶対にあっては成らぬ物だった。

それは鬼は何処にでも現れる証左になるからだ。

私は王に上申し、王都郊外の鬼の回収・調査に騎兵隊の出動をお願いした。

何よりも、鬼は退治出来るのか。

退治が出来るなら全ての解決に繋がる。


地震と言う物があるらしい。

地面が揺れる現象らしい。

全く想像がつかない事だ。

海の向こうにある大陸ではよくある為、広大な大地だと言うのに、人が寄り付かず、荒野のままだと言う。

全く勿体ない事だ。


その日、王の決裁を頂き第一から第四まである騎馬隊のうち第三騎馬隊を鬼の死骸がある場所へ派遣した。

騎馬隊長の捧げ刀を同じく刀で返し、彼らを見送ってから執務室に帰った。

その直後。

地が揺れた。

私は床にはいつくばり、部下の名前を叫ぶ以外に何も出来なかった。

揺れが収まった時、漸く私は自分の職を思い出し、まだ揺れ返しが起こる王宮を全力で王の元に走った。


王は無事健在だった。王妃と第一王子がバルコニーに集まっていた。

皆バルコニーで王都を見下ろしていた。

しかし誰も口を開かない。

私も話しかける事が出来ない。

私達の自慢の王都が

その街並みが

瓦礫の山と化し無くなっている。

王都は煙に包まれている。

あれは外縁の庶民街が燃えているのだ。


今日はよく我を失う日だ。

自ら頬を叩き正気を取り戻すと、私の職務の一つ、被害の確認と王都民の救済を上申した。

王は王宮の宝物室を空にせよと仰せられる。

民の救済に全てを惜しむ事許されず。

私達は王の決意を無駄にしてはならない。


ようやく動き始めた衛兵隊。

隊長が謁見室に駆け込んで来た。

早速、王よりの命令を伝える。

民を助けよと。

そう、一刻も早く助けなければ。

私達が早く動けば動く程、王都民が助けられる。

動く事だ。

調べる事だ。

都市は直せる。だが死んだ王都民は帰らない。

急げ。急げ。急げ。


その時だった。王妃が倒れた。倒れた王妃の腰周りが失禁して濡れている。

そんな王妃を気にも留めず、バルコニーの手摺を握り締めながら王が呻いた。

あれは、あれはなんだと。

私は見た。

信じられない。信じたくない。

悪夢が、絶望を具現化した存在が。

鬼が近づいてきていた。

それも大量に。

私には見えた。一国の、王都の滅亡を。

私には、ただの人間の私には最早死を待つ以外に、出来る事は何も無かった。

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