第67話 王都へ

眼下を見下ろすと、通行人がだいぶ増えている。前世日本に例えるなら、地目的には田か畑で、開発に農業委員会に農地転用許可を申請しないといけないレベルの土地だろう。

まだ開拓・開発前といった土地ではあるが、ミズーリが言うには、王都外縁まであと半日といったところらしい。

地図及びドローンを駆使して家の着陸ポイントを探す。

何も無いところにいきなり家が現れて人が出てきて家が消えた、って目撃されたらオカルトだよ。

幸い街道筋からは陰になる小さな林を見つけたので、そこで着陸する。これからは徒歩だ。チビとはしばらく会えなくなるな。

「えー!」

ミズーリが全力抗議するが、これは仕方がない。何が起こるか分からないが、王都では今までの様な好き放題は難しかろう。

王都に入ると私の手料理も自由に作れるかわからない。という事で、おにぎりを食べながらの道行きとなる。おにぎりはおにぎりでも少し邪道シリーズ!スパム、桜エビ、牛蒡枝豆。生前私の行き付けだったおにぎり屋でよく買っていたもの。完全にご飯の私物化ですよハイ。

おかずは有名チキン屋で食べた事のある鳥唐揚げステックで。

お手軽過ぎるセットにプンスカプンプンと口で感情を表していたミズーリは途中から黙って黙々食べ始めた。美味しいものは美味しいもん。


昼過ぎ、無事に王都外縁に入った。王都は直径8キロの円形都市である。中央部が小高い丘になっていて、そこには王宮が聳えているそうだが、4キロ先なのでよく見えない。まぁ平山城の城下町といった風情だ。丸い縄張りというのは日本にあったかな。


駿河の今川氏が作ってますね。


ありがとう万能さん。

外縁部分は庶民街になっており、庶民が通う商店や旅人の宿などが都市をグルリと取り囲んでいる。

そんな王都の入り口で私達は途方に暮れていた。何をしたらいいか分からないからだ。

行けっつうから来たけどさあ。

「何か起こるの?」

知らんがな。

「何か起こす?」

よしなさい。


結局、また最高級ホテルに入った。

庶民街から内側に入ったあたりは上流階級が暮らす地域であり、外縁からは距離がある。私達は馬車に揺られていく羽目になった。

とはいえ、さすがに王都の最高級ホテルだけあって素泊まりは許されず、ミズーリは大いに膨れてる。

「宮廷を除けばこの国でも最高級の食事が出る筈だから気に入ったものを覚えときなさい。後日、私が作るから。」

「ホテルに和食って出る?」

出るわけありませんね。ま、連泊になるならお昼や夜食を作りますよ。他所でこっそり。

という事で納得して貰った。


「うー。」

どうしましたミズーリさん。

「多分美味しい筈なのよね。羊の香草焼きもクリームスープも。でも物足りないの。」

夕食を終え部屋に戻ったミズーリは、食べたばかりの夕食に不満を漏らす。

ただのサラリーマンだった私からすると十二分に美味しい食事だったんですが、私の作る貧乏飯に慣れちゃったかな?

多分お高いんだろう猫足ソファに、女の子とは思えないだらしがないぱんつ丸出しの格好でミズーリは寝転がる。

私は窓から外を眺める。異世界の都。

西洋とも中東とも違う不思議な意匠が施された、丸とも三角とも違う不定形としか言いようが無い建物がはるか先まで並び

その先には白亜の王宮が見える。夕食後とはいえ外はまだ明るい。空が茜色に染まるまで、まだしばらくありそうだ。

人馬の賑わいに気がついて眼下を見下ろす。この世界の高層建物はせいぜい四階建て。ホテルは街の大通りに接しており、その通りには騎馬の兵隊が隊列を組んで行進しているのが見えた。こんな時間からどこにいくのだろうか。

「忘れたの?昨日トールが鬼を退治しちゃったでしょ。この世界で鬼退治は奇跡の所業なのよ。集落一つ消える、それが鬼だもん。なのにまさか二週間で二体誰かが退治しちゃうとはね。普通に考えたら為政者はパニックよ。大パニック。誰が倒したぁって。」

派兵の原因は私でした。

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