第66話 再訪
透明鬼が空飛んでるなら撃墜してみたいの、と駄々を捏ねたミズーリを、髪の毛を撫でてあげるからの一言で黙らせる。ミズーリ的に「こんなに幸せな事はない!」(強調)だそうなので大人しくベッドに入ってくれた。お姫様抱っこを要求されたけどね。
万能さん特製ベッドに装備された「鎮静安眠機能」でさっさと幸せの国に旅立った女神の美しい金髪を愛撫の如く撫でながら、来客者を待つ。
暇つぶしを考える間もなく彼女は現れた。
気配を感じる事無く、ベッドに横たわる私のそばに鬼の女性がそっと立ち、私達を見下ろす。ちょっと恥ずかしい。
「お父さん」と「お母さん」を助けて頂き有難う御座います。
「お父さん」と「お母さん」?
湖の「お父さん」と「お母さん」です。
というのはあの白い人影の事かな?
はい、私には両親が居ません。多分最初からいないんだと思います。私は生まれた時にはもう私でしたから。私が一人で寂しがっていると慰めてくれた、私の大切な「お父さん」と「お母さん」です。
概念上のご両親という考え方で良いのかな。
考え方はどうとでも。
それで私に何をしろと?
鬼を。
鬼を?
鬼を殺し尽くして下さい。
それだけ言い残すと彼女は帰って行った。
鬼とは思えない女性らしい芳香を残し、虚空に溶けてしまう。
…空飛んでても来ちゃうんだ。あと鬼を殺せって貴方も鬼じゃないの?
助けたって言っても自覚無いしなあ。勝手に消えてたし。ま、いっか。とりあえず。
「とりあえず?」
あら、起きてましたか。
「亭主の浮気現場を押さえようと。」
君、女神のくせにどんどん所帯染みて来ましたね。母ちゃんになったり、嬶になったり。
「おはようからおやすみまで、トールを見つめる女神ミズーリちゃんです。うふふ。」
ちょっと可愛い。
「ゆりかごから墓場まで…。」
先に寝ますよミズーリ。ぐー。
「お世話しますからね。逃がさないわよ。トール、覚悟なさい。」
ぐーぐー。
翌朝、万能さんから鬼とのニアミス無しとの報告を受けて起きる。
寝る前に何やらはしゃいでいたミズーリはまだおねむだ。
見目麗しい女神だしお子様だし、化粧の必要はないんだろうけど、すっぴんの女性がにへらと笑う寝顔を無防備に見せているのはどうだろう。
私が起きた気配を察してチビがやってくる。チビのご飯がミズーリの担当になったのは本人も理解している様で、ひとまず遊べとねだって来た。よし、キャッチボールを久しぶりにしようか。軟球サイズのゴム毬を出すと、チビは前脚を低く構え尻尾をブンブン振り回しながら準備完了を私に伝えている。
私が投げるゴム毬をジャンプしたり、落下点で待ち構えたりと上手にキャッチ、私の元に咥えて持ってくる。主従の戯れは、目を覚ました女神がヤキモチ妬いて突撃してくるまで続いた。
さて、朝御飯だ。
これが食べたいって献立が一つある。
ほうれん草とベーコンのバター炒めだ。
理由なんか無い。単に私が食べたくなったから。
こいつは主菜にするには弱いが副菜には個性が強い。強すぎて和洋どちらにも出て行く。
「ミズーリ、ご飯とパンどっちが
「ご飯。朝はご飯。」
また食われた。ミズーリはすっかり和食派になりましたね。和食なら主菜は魚と行こう。
鮭の味醂焼きが良いな。味醂漬けとか面倒なのでグリルで火を通したら、鮭の両面に味醂を塗ってフライパンで焼くだけ。
別のフライパンでは湯掻いたほうれん草とベーコンをたっぷりのバターで炒めるだけ。
だけだけで出来ちゃうお手軽ご飯。
お味噌汁だけはちょっぴり手を加えて、じゃがいもを粒味噌で煮立てとく。粒味噌がポイントです。
「むう。」
ミズーリ先輩からむうを頂きました。
「どれもこれも味が濃い。なのに食材の大半は野菜と魚なので健康にも良いなんて。」
なんか先輩がウザいので放置します。
「トールさん。妻の話を聞かなくなるところから離婚の危機が始まるんですよ。」
ぐー。
「寝るなあ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます